西部劇俳優サム・エリオット、「パワー・オブ・ザ・ドッグ」批判発言を謝罪

(2022年4月11日12:50)

西部劇俳優サム・エリオット、「パワー・オブ・ザ・ドッグ」批判発言を謝罪
サム・エリオット(インスタグラムから)

米俳優サム・エリオット(77)が「パワー・オブ・ザ・ドッグ」をこき下ろした発言について同作のジェーン・カンピオン監督(67)や主演のベネディクト・カンバーバッチ(45)、LGBTコミュニティなどに謝罪した。エリオットは先月、ポッドキャストで同作とカンピオン監督を批判し、この映画を「クソだ」と呼び、人物描写やセクシャリティのテーマについて疑問を呈して監督らが反論していた。

米誌「ハリウッド・リポーター」(電子版)によると、エリオットは、マーク・マロンのWTFポッドキャストで先月、「パワー・オブ・ザ・ドッグ」について述べた物議を醸すコメントについて謝罪した。

エリオットは10日(現地時間)、「Deadline's Contenders TV」のイベントで、自身が出演する「1883」のプロモーションを行った際、カンピオン監督作を「クソ」と呼んだり、人物描写や男性らしさ、同作の性的なテーマについて疑問を呈したりした自身のコメントについて質問され、「この映画についてどう感じたかを伝えようとしたとき、僕はあまり明確ではなかった」としたうえで「うまく表現できなかったんだ。そして、人を傷つけるようなことも言ってしまった。そして、そのことをひどく感じている」などと語った。

そして、ゲイ・コミュニティにも謝罪して「あらゆるレベルの友人、あらゆる職種の友人、今日まで私のエージェント、私の親愛なる友人と。そして、その友人たちと、私の愛する誰かを傷つけてしまったことを残念に思っています。そして、私が使った言葉によって、他の誰かを傷つけてしまったことをお詫びします」と謝罪した。

さらに「ジェーン・カンピオンは素晴らしい監督だと思います。そして特にベネディクト・カンバーバッチに申し訳ないとしか言いようがない」と監督とカンバーバッチにも謝罪した。

西部劇俳優サム・エリオット、「パワー・オブ・ザ・ドッグ」批判発言を謝罪
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(Netflixの公式サイトから)

Netflixのオリジナル作品の同作はアメリカの西部が舞台で、カンバーバッチ演じる主人公の牧場主フィルは女性蔑視で同性愛嫌悪の発言をするマッチョで冷酷な男だったが、兄がゲイの息子を持つ母親と結婚したことをきっかけに、隠し続けてきた自身の同性愛のセクシャリティが表面化していく姿を描いている。女性監督として初めてカンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)を受賞した「ピアノ・レッスン」(1993年)のカンピオン監督の12年ぶりの新作で、従来の西部劇にはない題材や斬新な映像などが高く評価された。

エリオットは、WTFポッドキャストでこの映画が好きかどうか尋ねられ「ファック・ノー。テキサスで『1883』を撮影しているときに見たんだけど、ロサンゼルスタイムズにクソ全ページ広告が出ていて、アメリカの神話の破壊について語られていたんだ。それで、『なんだこれは?なんだこれは!』 と思った」などと語り、「あの映画に出てくるカウボーイはみんなチャップスを履いて、シャツも着ないで走り回っている。そしてこの映画では、同性愛が暗示されているんだ」と指摘。牧場で働く男性たちが上半身裸で登場していることを男性ストリップだなどと揶揄し、西部劇に同性愛的な要素はないなどと批判した。
さらに「彼女は素晴らしい監督で、これまでの作品も大好きだが、ニュージーランド出身の彼女がアメリカ西部について何を知っているというのだろう。なぜニュージーランドで映画を撮って、それをモンタナと呼んで『昔はこうだった』と言うんだ。それが気に食わないんだよ。神話では牛と一緒にいるのが マッチョだとされている。私はテキサス出身で、男ではなく、家族、それも大家族で、長い間、何世代にもわたって、カウボーイを生業とする家族と一緒に暮らしてきたんだ」などと語った。エリオットは「明日に向かって撃て!」(1969年)で映画デビューし、「トゥームストーン」(1993年)など西部劇に数多く出演している。

エリオットのコメントに対して、同作でアカデミー賞監督賞を受賞したカンピオン監督は、「ハリウッド・リポーター」のポッドキャスト「Awards Chatter」に「私たちが扱っているのは架空の世界であり、神話の世界なんです。西部は神話であり、実在しない。アニー・プルー ルクスはそう言っています。そして、その神話を探求するための余地が、この作品にはたくさんあるんです。そして、これはそのバージョンに過ぎません。(マカロニウエスタンの)セルジオ・レオーネの映画はどこで撮影されたのでしょう?スペインで撮影されたものですが、西洋の神話を探求した最も偉大な作品のひとつです」などと反論した。
同作の演技でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたカンバーバッチは、英国映画テレビ芸術アカデミーのイベントに出席したときに「私は聞いていないので、それについて詳しくコメントするのは不公平ですが、西部がこのように描かれていることに誰かが腹を立てたのです。そして、その反応を超えて、生業や生まれた場所によって異性愛者以外の存在になりうることを否定するような、世界全体における同性愛に対する大規模な不寛容も存在するのです。フィルを通して、それを理解しようとしなければ歴史の勉強にはならないと思うんだ」と語った。