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映画「レオン」と「水の旅人 侍KIDS」のとっておき情報

(2020年5月18日)

コロナ感染拡大で映画館が閉鎖される中、映画評論家・荒木久文氏が「思い出の映画」や「印象に残る作品」について“アラキン流”の切り口で紹介する。今回はジャン・レノ主演でナタリー・ポートマンが鮮烈なスクリーン・デビューを飾った「レオン」(リュック・ベンソン監督、1994年)と先月肺がんのため亡くなった大林宣彦監督の「水の旅人 侍KIDS」(1993年)の2作品を取り上げ、見どころやとっておきの情報を公開した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、5月5日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

映画「レオン」と「水の旅人 侍KIDS」のとっておき情報(映画評論家・荒木久文)
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

鈴木ダイ いつもは映画の新作情報や映画イベントをお話ししていただいているこのコーナーですが、リスナーの方から思い出の映画をお送りいただき荒木さんに解説していただくという企画です。

荒木久文 (新作が紹介できないのでリスナーのかたから)思い出の映画や、印象に残る作品をいただきたいとリスナーに募りましたところ 思いのほかたくさんいただきました。本当にありがとうございます。大変うれしいですよ。こんなにいただくとは思っていませんでした。皆さんの思い出の映画、今週もご紹介していきたいと思います…。

今日は子どもの日。なんとなくこいのぼりも例年に比べて元気なさそう…子どもたちも大変ですよね。学校行けないし、外にも出られない子供の日…そこで頑張れキッズ!!の意味も含めて、いただいた思い出の映画の中から今日は子供が主人公だったり、重要な役割を演じている映画をピックアップしてご紹介しようと思います。

鈴木 …いいですね。

荒木 まずは、埼玉県和光市のラジオネーム てらぽんさんからいただきました。『最近は 映画館で映画を見ていませんが…今までに何度も見た…いや見たくなる映画があります。 ジャン・レノ、ナタリー・ポートマンの名作「レオン」です。…』ということで、名作です。監督はあのリュックベッソン。ハリウッドデビュー作米仏合作公開は1994年今から26年前になりますか。大ちゃんは見ていますか?「レオン」?

鈴木 はいはい、公開されたとき見ましたよ。

荒木  はいショッキングな映画ですよね。知らない方のために簡単にあらすじを…。タイトルのレオンは人の名前。殺し屋の男の名前です。舞台はニューヨーク。12歳の少女マチルダは悪徳麻薬捜査官のスタンスフィールド(ゲイリー・オールドマン)によって家族全員を殺され、アパートの隣に住むイタリア系の男レオンのもとに逃げ込みます。

マチルダはレオンが一流の殺し屋であることを知り、家族の復讐のために人の殺し方を教えて欲しいと頼みこみます。初めは断るレオンでしたが、彼女に説得されて渋々了承します。 そして 訓練が始まります。奇妙な共同生活の中で、やがてマチルダとレオンは友情とも愛情ともつかない複雑な感情を抱きあうようになります…。そして壮絶なエンディングへなだれ込む…となるわけです。

カテゴリーとしては「バイオレンスアクション」ですが・・その範疇にはとどまらない名作です。もともとこの映画のキャッチコピー「凶暴な純愛」というのは、まさに言いえて妙です。

鈴木 そんなコピーでしたっけ。

映画「レオン」と「水の旅人 侍KIDS」のとっておき情報(映画評論家・荒木久文)
(「レオン」のポスター)

荒木  そうなんですよ…無口で凄腕の殺し屋レオンはジャン・レノ。当時46歳。この作品が出世作となり以降スターへの階段を駆け上がります そして少女マチルダを演じたのは、オーディションで選ばれ、この作品が映画初出演となった当時13歳のナタリー・ポートマン。2000人にも及ぶ候補者を押しのけて、マチルダ役をゲットしたんですね。ナタリー・ポートマンは本名ナタリー・ヘルシュラグというユダヤ系アメリカ人です。小さいころからとても優秀な女の子でハーバード卒業しているんですよ。理科系らしくって高校生の時の科学論文が雑誌に掲載されているそうですよ。なんでも6か国語が話せるそうですよ。人気を不動のものにしたのは、1999年から公開の「スター・ウォーズ」新三部作でヒロインのパドメ・アミダラでしたよね。演じ、ナタリー・ポートマン=強く賢い美人というイメージが強く印象づけられます。

レオンでのデビューから16年後、29歳の時、「ブラックスワン」でアカデミー主演女優賞を獲得)しています。そのアカデミー女優の記念すべきデビュー作がこの「レオン」です。少女マチルダ役は難しい役柄でしたよね?

鈴木  そうでしたよね よく演じられるなと思いました。

荒木  つまり外見は子供でなんですが、内面は完全に大人という役柄ですよね…12歳なのにファッション感覚が抜群でした。公開当時、彼女の髪型はおかっぱ 今でいうボブですが、「マチルダボブ」と呼ばれ大流行したそうです。着ているフライトジャケットもかっこよかったですね。かっこいいのは それだけでは ありません。大人のような言動が目立つんですね。タバコはパカパカ「早く性体験をさせて」とまでいいます。…これは後で説明する完全版の中です…。更に「私が欲しいのは愛か死かよ」など、精神的には完全にオトナ。
まあ、論理的発言でレオンを言い負かすこともしばしばです。レオンのほうは 殺し、仕事こそ超一流ですが、飲み物はミルクしか飲まない。友達は観葉植物だけ。そして読み書きもままならないんです。つまり、精神的には完全にコドモです。つまりこの作品は大人のような子供と子供のような大人の映画なんですね。

鈴木  なるほど!!

荒木  それもどちらもアウトローのふたり。だから主人公の大人の男が小さな女の子を子供を守る…という単純な構図ではなくなるわけですよね。それが顕著に表れているのは「レオン」公開の2年後の1996年に公開された、リュックベッソンが22分の今までカットされていたシーンを加えて公開された「レオン完全版」です。具体的に加えられたシーンは 「殺しの訓練」や「初体験もしたい」などとレオンに迫る場面「殺しの後ふたりでシャンペンで乾杯」するシーンです。これを見ていただくとリュックベッソンが何を強調したいのか…ということがより分かって大変興味深いと思います。味付けが変わってみえるかも…。

今は母親になっているナタリー・ポートマンにこの作品を自分の子供に見せたいかと聞いた人がいるらしんです。そしたら彼女は「ちょっとねー」と言ったそうですよ。「見せたくないわ」といったそうですよ。そうですよね。今の風潮だと内容的に子供にやらせるにはアウトっぽいよね。そして レオンの音楽 覚えていますか?私もすっかり忘れていたんですが。

鈴木  スティングなんですね。いいよねー。

荒木  レオンの主題歌として世界的にも大ヒットしました、「シェイプ・オブ・マイ・ハート」(スティング)
鈴木  ということで、荒木さんいい曲ですよね。

荒木  はい「埼玉県和光市のラジオネームてらぽん」さんからいただきました「レオン」でした。

鈴木  てらぽんさん大満足でしょう。
荒木  子どもの日、子供が主人公だったり、重要な役割を演じている映画、2本目。「甲府市のすいれん」さんから2作品いただきました。『ひとつは20年ほど前の作品「学校の怪談」です。4作品ほどあったでしょうか。後は「水の旅人」です。内容がうろ覚えなのですが当時と今とでは解釈が随分変わると思いますのでよろしくお願いします。』ということで…「学校の怪談」については新作のうわさもありますので決まったら一緒にお話しします。

今日はもう一つの作品「水の旅人」についてお話ししましょう正式タイトルは「水の旅人 侍KIDS」。コロナのために公開が延期になった「海辺の映画館ーキネマの玉手箱ー」が当初公開される予定だった4月10日、肺がんのため82歳でなくなった大林宣彦監督の1993年の作品ですね。ダイちゃん見てないですか?

鈴木  見てないんですよ…。

荒木  そうですか。時空を越えてやって来た一寸法師のような小さな侍と少年のおはなしなんですが。簡単にあら筋です。主人公は 小学2年生の悟君 内気で気弱な少年です。ある日川原で、動けなくなっている身長17センチの小さな年寄りの侍、山崎努さんが演じています、を助けます。息を吹き返したおじいちゃん侍は「自分は墨江少名彦(すみのえのすくなひこ)という水の精(妖精 フェアリー)で、川を下って、海を目指しているんだ」といいます。弱っているおじいちゃん侍を家につれて帰り、悟は彼を自分の部屋に家族に内緒で隠して生活します。しばらくは家で暮らすうち2人の友情は深まってゆきます。ところが少名彦の体は日増しに弱っていきます。彼を救うにはきれいな水が必要ということで、悟はきれいな水を求めて川をさかのぼり、水源を求めて山の奥に入りっていきますが、そこで大ピンチになってしまいます。いろいろな障害を乗り越えて悟は水を求めて勇気を出して洞窟の奥深く、水源に向かいます…。さて二人の運命は…とそんなお話しです。

映画「レオン」と「水の旅人 侍KIDS」のとっておき情報
(大林宣彦監督=映画「海辺の映画館―キネマの玉手箱―」の公式サイトから)

気弱な少年が水の妖精との交流と友情を通して、たくましく成長してゆく物語。 当時の水質汚染や河川をめぐる環境問題や命の転生などのテーマが盛り込まれていて、とても素晴らしいファンタジーでした。作品は大ヒットしてこの年の売り上げ興行収入第8位になっています。

鈴木  え、そんなに?

荒木  そうなんですよ。フジテレビと東宝が手の組んだんで…。で、主演は山崎努さん。コミカルな演技を要求されましたが、どんな役でもすごい存在感です。悟君役は吉田亮さん。まだ6年生くらいの伊藤歩さんが、デビュー作。原田知世、風吹ジュン、岸部一徳も出ています。監督は大林宣彦。そして原作・脚本が末谷真澄という人なんですが、この原作・脚本の末谷さん、実は私の古くからの友人なんですよ。もともと放送作家。私が放送局にいたときに、一緒に番組、チャゲアスだったかな?をやっていたのが最初で。もう30数年前です。今でもたまーに会っているんですが、このリクエストが来たので末谷さんに電話していろいろお話を伺いましたよ。

鈴木  へえー、おもしろいー。

荒木  末谷さんが初めて書いた小説がこの「水の旅人 侍キッズ」で、はじめから映画化を意識して書いたらしいですよ。頭に絵を思い浮かべて…。

鈴木  え? 映画化も決まっていないのに?

荒木  そうなんですよ、決まってないのに。初めての小説で、それが初めて映画化さてたわけで、大林監督、山崎努というキャストスタッフでフジテレビ・東宝で映画化されたときにはほんとにうれしくて、ロケハンから撮影までずっと立ち会ったそうです。

鈴木  気持ちわかります。

荒木  ただ、脚本というのは監督によってどんどん変更させられちゃうんで、特に大林さんは自分の世界を強く持っている人なので、どきどきハラハラしていたそうです。まあ、自分の政界が大林色に染まっていくんだなーと思ったそうです。

映画の中では 川と水が大きなファクターになっています。で、この川は特定されてはいないのですが、実は末谷さんによると舞台は狛江あたり、すなわち川は、多摩川をイメージして書いたのだそうです。そして多摩川の水源というのは…、そうですね、山梨県なんですね。 笠取山あたりになるんでしょうか?ということでこのクライマックスシーンは山梨県を実際にイメージして書いてあるそうなんですよ。

鈴木  へえー、面白い話じゃないですか!

荒木  この人、末谷真澄さんはそのあとも映画の脚本たくさん書いています。知られているのはその翌年、カールスモーキー石井さんが初監督した「河童」や「アクリ」(これは人魚伝説がベースでした)。その後1996年の「モスラ」から始まる「平成モスラシリーズ」も彼が書いていますが、いずれも妖精との交流、子供たちが成長するという点や自然の美しさや環境破壊の問題を一貫してテーマにしていますね。SF的で童話的なファンタジーが多いですね。そういう意味では大林さんもファンタジーが得意の監督なので、うまーくミックスドしているんじゃないかと思いますよね。末谷さん本人もほんとに穏やかな性格で 酒のみですよ。顔はバカボンのパパによーく似てますがね。それでよくファンタジー書けるねーて顔ですけどね(笑)そして音楽は 大御所 久石譲さんなんですが、フルオーケストラ曲そのタイトルも文字通り「ウォータートラベラー」というメインテーマ曲です。 実はこの主題歌 映画とは別に意外な人が歌っていたんですね。 映画には全く顔も出していないんですが、なんと中山美穂さんが歌っているんですね。しかも自分の作詞ですね。これ貴重品らしくてなかなかなかったんですが、末谷さん持っていましたので探してもらって入手しました。音源が言ってる(?)と思うのですが、聞いてみてください。「あなたになら」(中山美穂)

荒木  27枚目のシングルだそうなんですが。当時フジテレビもお金あったんでこんなことしたんだろって末谷さん言ってました。ということでリスナーの皆さんからいただいた思い出に残る映画作品特集、今日は、こどもの日ということで子供が主人公だったり、重要な役割を演じている映画を2本ご紹介しました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。