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映画「透明人間」と「河童」と「お化け」のとっておき情報

(2020年7月14日12:15)

映画評論家・荒木久文氏が「透明人間」と「河童」と「お化け」という三題噺をテーマに話題の映画の見どころととっておき情報を明かした。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、7月7日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

映画「透明人間」と「河童」と「お化け」のとっておき情報
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

鈴木   わたくしの彦星、荒木さーん!

荒木   はい、織姫、織姫がダイちゃんってちょっと変な感じです。

鈴木   今日は七夕ですよ。

荒木   そうですね。一年に一度の七夕。

話はちょっと違いますが、91歳だったエンニオ・モリコーネさんが亡くなりましたね。ダイちゃんもたくさん見たでしょ?「続・夕日のガンマン」とか「ニューシネマ・パラダイス」とかね。

鈴木   そうですね。サントラも結構ありますからね。

荒木   ご冥福をお祈りします。
改めてサントラで、エンニオ・モリコーネさんの音楽特集やってみたいと思います。

鈴木   是非是非!

荒木   ということで、今日のテーマは、「透明人間」と「河童」と「お化け」という…三題噺みたいですね。どうなることか…お付き合い下さい。

まず「透明人間」ですが、今週の10日金曜日に「透明人間」をテーマにした映画が2本も公開されます。
ダイちゃん、昔言われたでしょ?「透明人間になれたらどうする?何をする?」って。

鈴木   好きな女の子の部屋にずーっといる。

荒木   他には?

鈴木   いろいろなことしちゃう。

荒木   ははは。そうだよね。
まあ大体が女風呂に行くとかですよね。あと、銀行強盗をやるとか。
どちらにせよ犯罪絡みですよね。

鈴木   そうそう。普段できないことをするね。

荒木   そんなことから、透明人間はどうしても悪役として登場する事が多いです。 しかし、主人公や正義の味方として活躍する作品もないこともありません。

そして1本目ご紹介は、悪役として登場するパターンです。
7月10日公開のその名も「透明人間」。サイコ・サスペンスと言っていいでしょう。
主人公はセシリアという女性です。エリザベス・モスという女優さんが演じています。
彼女は大金持ちの天才科学者のエイドリアンの恋人で、一緒に暮らしていたんですが、このエイドリアンの束縛がすごくてすごくて。嫌になって、ある真夜中、計画的に彼の豪邸から脱出します。
セシリアに逃げられたエイドリアンは失望して自殺してしまいます。莫大な財産を彼女に残しますが、セシリア自身は、彼はそう簡単に死ぬような人間じゃないと自殺死を疑います。その後、偶然とは思えない色々な事件や出来事が重なって起き、セシリアの命を脅かすようになります。
セシリアは“見えない何か”に襲われていると周りに訴えますが、周りからは彼女が徐々に正気を失っていっているようにしか見えません…というストーリーです。

「透明人間」が初めて世に出たのが19世紀。H.G. ウエルズの有名な小説「透明人間」。映画となると、最初は1933年なので戦前です。映画はたくさん作られていて日本のものも含めると10本以上あります。

 『透明人間』(1933年、ジェイムズ・ホエール)
 『透明人間現わる』(1949年、大映、安達伸生・円谷英二特撮)
 『透明人間』(1954年、東宝、小田基義・円谷英二特撮)
 『透明人間と蝿男』(1957年、大映、村山三男・的場徹特撮)
 『透明人間』(THE INVISIBLE MAN:1975年、ロバート・マイケル・ルイス)
 『透明人間』(MEMOIRS OF AN INVISIBLE MAN:1992年、ジョン・カーペンター)
 『インビジブル』(HOLLOW MAN:2000年、ポール・バーホーベン)
 『インビジブル2』(HOLLOW MAN II:2006年、クラウディオ・ファエ)
 『ガーディアンズ』(Защитники:2017年、サリク・アンドレアシアン)
 『透明人間』(2018年、スタジオポノック、山下明彦)
 『透明人間』(2020年、リー・ワネル、1933年の映画のリブート作)
2000年のポール・バーホーベンの「インビジブル」が有名ですね。
今回ご紹介の「透明人間」は、1933年の「透明人間」のリブート作品です。作ったのはリー・ワネル、有名な「ソウ」シリーズの方です。

鈴木   あー!ソウのシリーズ!

荒木   リー・ワネルが製作総指揮、監督、脚本を手掛けています。さすがホラーの巨匠です。最後まで気が抜けない良質ホラー映画ですよ。ちょっと今までと違う怖さです。静寂シーンが多いし、それが恐怖を煽っています。
その一番大きなポイントは、この映画 透明人間の側からではなく、あくまで被害者のセシリアの視点からものを見ることに徹している点です。透明人間になった相手の視点は皆無、あくまで見えない我々と立場を同じくしているから怖さが増すというか、ひとしおですね。
主演のセシリア役は、エリザベス・モスという主にテレビで活躍してきた女優さんです。 はっきり言って超美人ではないところにリアリティがあって、充血した瞳や荒れた肌が現実感を醸し出しています。
シリアスなサイコサスペンスにはつきもののジワリジワリと何者かによって言い知れない心を締め付ける恐さも引き立っています。

それとこの作品の特徴は、透明人間になる原理が非常に科学的であるという点です。
今までの透明人間は、薬を飲んだり、特殊な光線を浴びたりと科学的には全く根拠のない因果関係だったのですが、今回はすごい理詰めです。

鈴木   ということは可能性があるということなんですか?

荒木   というよりも透明になる装置が現在、軍事的には開発されていて一部実験的に使用されているという話もあります。その原理は簡単に言うと、体の表面での光反射を工夫し存在感を隠す光学迷彩という手法です。難しくって私もよくわかんないんですが。
具体的には、超小型カメラとディスプレイを投影させる装置をモザイク状にしたぴっちりしたスーツを着て、背後のカメラで撮った風景を前面のディスプレイに映し出すというものなんですよ。ネタバレにはならないと思いますが、今回の透明人間でも特殊なラバースーツのようなものを着る事で透明人間になるんですね。
そんな科学的根拠もどこか無機質で乾いた感じの恐ろしさをひしひしと感じます。

鈴木   じゃあこの男は本当は死んでなかったんですね?

荒木   まあそういうことになるんですけど。ただそれだけじゃなくて、もう一つどんでん返しがあるんですけどね。
途中でカメラスーツを着た男も出てくるんですけど、幽霊映画のようなドロドロとした古典的な恐ろしさではなくて乾いた冷たい恐ろしさがあるので、ホラー好きの方はお見逃しなく。
  「透明人間」7月10日公開です。

荒木   同じく今週の金曜日10日から公開のもう一本の透明人間映画はドイツの映画で、「インビジブル・シングス 未知なる能力」という作品です。
1本目は悪役透明人間でしたが、今度は真逆でヒーローというか善玉透明人間です。ドイツ製の超能力SFアクションですね。

映画「透明人間」と「河童」と「お化け」のとっておき情報
(「インビジブル・シングス 未知なる能力」10日より全国公開/©2018 OSTLICHT FILMPRODUKTION GMBH,AMOUR FOU LUXEMBOURG ALL RIGHT RESERVED)

主人公12歳のコミック大好きドイツの少女スー。両親はともに忙しくて普段あまりかまってもらえません。ある日、スーは母の勤める研究所に勝手に入り込み、母が開発した化学物質を誤って全身に浴びてしまいます。その化学物質のせいでスーは温かいものを触ると自分が透明人間になってしまう、というとんでもない特殊能力を手にしてしまいます。更に彼女が触れることでなんでも透明になってしまうという設定です。この世紀の発明である科学物質を狙う謎の組織によってお母さんは誘拐されてしまいます。スーは友達と誘拐の真相を探ることに…というストーリーです。

どちらかと言うと子ども向きですよね。ちょっと科学的根拠には乏しい設定ではあるんですが、これはこれでいいんじゃないかと思います。ティーン向けで淡い初恋とか友情というテーマも絡んでいます。
最後は3人全員が透明人間へと姿を変えて戦うといった感じになるんですが、特にこの映画で言えることは、暴力的なシーンがほとんどないことです。殴り合いもなければもちろん格闘するシーンもなく、かなり優しい映画の作り方がされていて、お子さんと夏休みに行く映画としたら安心ができると思います。正義の味方の透明人間。ちょっと子供向きです。同じく10日公開の「インビジブル・シングス 未知なる能力」という作品です。

次は「河童」と「お化け」ですが、正式作品名は「河童の女」と「おばけ」これは共通点があります。
この二つの作品は日本映画ですが、それぞれ権威のある賞を受賞していてしかも新人監督が作った注目作だということなのです。

映画「透明人間」と「河童」と「お化け」のとっておき情報
(「河童の女」/©ENBUゼミナール)

まずは「河童の女」という作品ですが7月11日(土)新宿K’s cinema,7月18日池袋シネマ・ロサほか全国順次ロードショーです。
この作品はENBUゼミナールというところが主催している「シネマプロジェクト」が送り出す第9弾の作品。
「ENBUゼミナール」というのは東京・五反田にある映画や演劇、俳優養成の専門学校なんですが、ここが主催する劇場公開映画製作・俳優ワークショップで作られた作品です。一昨年社会現象となった上田慎一郎監督の「カメラを止めるな!」、今泉力哉監督の「退屈な日々にさようならを」など数々の話題作を世に送り出している、業界では名の知れたプロジェクトです。

監督は辻野正樹さんというもちろん新人。しかもなんと51歳のデビュー。 もともと音楽や演劇および映像関連の仕事をしていた人らしいのですが、長編商業映画は初めてなんです。

ストーリーですが、河童伝説がある地方の川。その川辺の民宿で働く柴田くんという男の子が主人公です。ある日父親が出て行ってしまい、1人で民宿を続けることなり途方に暮れていた。そんな中、東京から家出してきた訳あり風の美穂さんという女の人がこの民宿で働くことになり、柴田くんは次第に彼女に惹かれていきます。柴田くんはずっと2人で民宿を続けていきたいと思いますが、美穂さんにはそれができない理由がありました…というストーリーです。

田舎で地道に働く人々、それもそれぞれ人に言えないもやもやを抱える人たちの姿や地域ならではの問題をうまく取り込んで、よくある日常を描いています。ちょっと推理的なテイストや笑えるエピソードなども盛り込んでいて最後にはちょっとほんのりするような、監督のパーソナリティが垣間見えるようなそんな作品です。

鈴木   サスペンスではないんですか?

荒木   そうですね。ほんのり映画です。

怪獣やSFじゃないので、残念ながら本当の河童は出てこないです。
そういう雰囲気の作品が好きな方は観てみて下さい。「河童の女」という7月11日公開の作品です。

そして最後、「おばけ」ですが、これは日本の映画監督への登竜門としては一番有名なPFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワードの2019年度グランプリの作品です。こちらも7月11日公開です。

このPFFですが、過去の受賞者には海外での評価も高い『CURE』の黒沢清、PFFスカラシップ作品『運命じゃない人』を手掛けた内田けんじなどがいます。

その他には、『下妻物語』の中島哲也、『家族ゲーム』『模倣犯』の森田芳光や、『愛のむきだし』『地獄でなぜ悪い』の園子温、『ウォーターボーイズ』などで知られる矢口史靖など、日本映画界を牽引する監督にはPFF出身者がたくさんいます。

そのPFFの昨年度のグランプリ作品がこの「おばけ」です。 監督は中尾広道さん。

1人でこつこつと映画を撮り続けている男がいます。彼の孤独で熱心な映画の制作活動は、周りの人々の理解を得られず、妻と子どもさえ愛想を尽かして出て行ってしまいます。

そんな男の活動を遠い空から見つめている二つの星がありました。神様なんです。男の姿を見守る星くずの会話と画面で、男の日々の生活や映画制作の様々な場面が綴られていきます。中尾広道さん本人が演じています。

淡々としたリズムの中で男の姿が描かれています。ドキュメンタリーのようなテイストもあります。ちょっと観念的かもしれませんが、独特の雰囲気が伝わってきます。 因みにおばけのようなものはちょくちょく出てきますが、こちらも「お化け」は出てきません。

鈴木   何かのスピリットなんですか?

荒木   そんな感じですね。
この「おばけ」という作品も新人監督による注目作品ですが、こちらも11日公開です。

ということで三題噺のようなタイトルから始まりましたが、終わってみるといつもの映画紹介でしたね。

鈴木   だけど今日七夕だから、「透明人間」から始まり「河童」と「おばけ」というファンタジーというか不思議な感じでいいんじゃないでしょうか。

荒木   そうですよね。ファンタジーですよね。星伝説も出てくるしね。

鈴木   逆に荒木さんが透明人間になれたら何するんですか?3時間だけとかだったら?

荒木   3時間!?難しいなぁ。

この前「今度何したいですか?」って聞かれてとんでもない放送禁止用語を言っちゃって怒られたので、ちょっと慎重に考えないといけないなと最近思っていますので…。ダイちゃんにそそのかされて軽いことを言って墓穴を掘ることになるんで、回答を保留させていただきます(笑)

鈴木   なんだー!冷静な対応じゃないですか!

荒木   ごめんね いい答えが出なくて。また番組のテーマでやって下さいよ。

鈴木   面白いですよね。ということでありがとうございました!

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。

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