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「スパイの妻」 戦争前夜スパイ容疑をかけられた夫とその妻の激動の人生

(2020年10月18日13:00)

「スパイの妻」スパイ容疑をかけられた夫とその妻の激動の人生
「スパイの妻」(新宿ピカデリー)

第77回ヴェネチア国際映画祭(9月2日~12日)で北野武監督の「座頭市」以来17年ぶりに銀獅子賞(監督賞)を受賞した黒沢清監督の歴史ドラマ。戦争前夜スパイ容疑をかけられた神戸の貿易商とその妻の激動の人生とサスペンスを描いた作品で、高橋一生と蒼井優の演技派2人が夫婦役で共演。ほかに東出昌大、坂東龍汰、恒松祐里らのキャスト。

■ストーリー

太平洋戦争が間近に迫った1940年、神戸の貿易商・福原優作(高橋一生)の職場に妻・聡子(蒼井優)の幼馴染の津森泰治(東出昌大)が軍服姿で訪ねてきて、憲兵本部の分隊長として神戸に赴任したことを報告し、「不審な外国人と接触しないように」と警告する。優作は自分の仕事が外国人との取引で妻を路頭に迷わせるわけにはいかないと笑う。瀟洒な洋館に住み、スーツを着こなし、洋酒を飲んで忘年会の余興で妻を女優に仕立てて短編映画を撮影したりしていた優作だったが、ある日訪問先の満州で恐ろしい国家秘密を知る。その証拠となるフイルムやノートを持ち帰り会社の金庫に隠し世に知らしめようと機会をうかがっていた。一方、妻の聡子は密かに彼女に想いを寄せる泰治から、夫の不審な言動を聞かされる。聡子は動揺して夫を問い詰めるが、やがて夫が抱える重大な秘密を知り、スパイ容疑をかけられた夫への愛を貫こうとする。「あなたがスパイなら私はスパイの妻になる」と言い、2人でアメリカへ亡命することを計画するが、優作は慎重に別々に行動することを提案。自分は上海経由で米国を目指し、聡子は優作の手配で米国行きの貨物船に潜り込むが、何者かに密告されて出航前に憲兵隊に逮捕されてしまい、夫婦は時代の嵐の中で数奇な運命をたどる。

■見どころ

蒼井優がスパイの嫌疑がかけられた夫が重大な国家の秘密を告発しようとしていることを知ったのをきっかけに、国家の反逆者になることもいとわず夫と生きることを決意して「スパイの妻」に変貌を遂げてゆく聡子を熱演している。そして高橋一生がスリーピースを決めて洋酒を飲み「敵国」の文化も受け入れ、ブルジョワ的な生き様を見せる一方で、国家の秘密を告発しようとする貿易商をクールにミステリアスに演じて見せている。情熱的で一途な妻と、正義を貫こうとする一方で、どこかでクールさも秘めている夫を演じる2人の競演が見ものだ。そして、戦争へと突き進むなかでの国家の言論統制や敵性行為の取り締まりに狂奔する様子や、スパイの容疑者の口を割らせるために残酷な拷問も行い弾圧してゆく実態も描きながら、その時代の荒波に翻弄される夫婦のドラマはサスペンスも絡んでスリリングの展開する。(2020年10月16日公開)