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「ヤクザと家族 The Family」綾野剛がヤクザの生き様と家族への渇望を熱演

(2021年1月30日11:45)

「ヤクザと家族 The Family」綾野剛がヤクザの生き様と家族への渇望を熱演
「ヤクザと家族 The Family」の舘㊧と綾野(2021年1月29日(金)全国公開)(©︎2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会)(配給:スターサンズ/KADOKAWA)

「新聞記者」で政権の闇に迫る女性記者を描き日本アカデミー賞で最優秀作品賞、最優秀主演男・女優賞、優秀監督賞など6冠を獲得した藤井道人監督の最新作で、ヤクザの世界を「家族の目線」から描いた異色のヤクザ映画。綾野剛、舘ひろし、北村有起哉、市原隼人、磯村勇斗、尾野真千子、寺島しのぶらのキャストでヤクザの道を選んだ主人公と彼を取り巻くヤクザの世界やファミリーのドラマをリアルに描いている。同作や「MOTHER/マザー」など鋭い視点で現代の問題を描く作品で知られる映画会社スターサンズとKADOKAWAの配給作品。

■ストーリー

1999年、2005年、2019年の3つの時代を舞台に展開する。1999年、19歳の山本賢治(綾野剛)は、証券マンだった父親がバブル崩壊後に覚せい剤に手を出し命を落とし、母親もすでに他界して身寄りがなく、悪友の細野(市原隼人)、大原(二ノ宮隆太郎)とつるんでその日暮らしの生活を送っていた。ある日、行きつけの愛子(寺島しのぶ)の居酒屋で3人で飲んでいた時に、居合わせた柴咲組組長・柴咲博(舘ひろし)がチンピラに襲撃されるのを助けて目をかけられる。組に誘われるが父に覚せい剤を売りつけたヤクザを嫌っていた山本は断る。そうしたなか柴咲組と対立する侠葉会の組員が覚せい剤を密売しているのを目撃して怒りにかられ襲撃し、覚せい剤と売上金を奪って逃げるがつかまってしまう。侠葉会の若頭・加藤(豊原功補)と若頭補佐の川山(駿河太郎)から半殺しにされるが、たまたま持っていた柴咲の名刺に危機を救われ、山本を“ケン坊”と呼んで目をかけてくれる柴咲に心の救いを得て父子の契りを結びヤクザの世界に入る。
2005年、山本は柴咲組の中で頭角を現し細野や大原とともにヤクザの世界で男を上げてゆく。柴咲組のシマを配下に置こうとする侠葉会との争いは激化し、柴咲組のシマのキャバクラで因縁をつけた川山を山本が酒瓶で殴打したことがきっかけで、柴咲組長がヒットマンに銃撃され大原が犠牲になる。侠葉会とつるんでいる静岡県警の刑事・大迫(岩松了)が、柴咲組に報復しないよう釘を刺し柴咲もしぶしぶ了承するが、納得がいかない山本は川山を襲撃して拳銃を向けると柴咲組若頭の中村(北村有起哉)が横から出てきて包丁で川村を刺す。山本は中村の罪をかぶることを決意し、血まみれになりながら親しくしていたホステスの由香(尾野真千子)の家に行き一夜を過ごし、翌日組事務所で逮捕となり、服役する。
14年後の2019年、山本が出所すると暴対法の影響で社会やヤクザの世界は激変していた。久しぶりに会った細野は組を抜け結婚して子供をもうけていた。「ヤクザやめても人間として扱ってもらうのには5年かかる。銀行口座も保険も家も」と厳しい現状を嘆き、山本が飲食代を払おうとするが反社からの金銭を受け取ることになるとかたくなに固辞した。愛子の息子・翼(磯村勇斗)は22歳になり柴咲組のしのぎを手伝いながら夜の街を仕切っていた。やがて山本は由香と再会して彼女の娘の14歳の彩の父親が自分と知り、由香とよりを戻しヤクザから足を洗って細野の会社に雇ってもらい3人で家族の生活をするがそれも束の間で、冷酷な現実が待ち受けていた。

■みどころ

藤井監督は「変わりゆく時代の中で排除されていく”ヤクザ”という存在を、抗争という目線からではなく、家族の目線から描いた作品」と語っている。父親が覚せい剤で命を落とし母も亡くなり実の家族の崩壊。ヤクザの組長・柴咲に拾われ杯を交わして「おやじ」と呼ぶヤクザの世界の「家族」。そして恋人の由香と持とうとする実の家族。ヤクザの道を選んだ主人公山本のそれぞれの時代の家族が描かれる。荒くれて暴走する青年期の山本、ヤクザの世界で武闘派として頭角を現す山本、14年の刑期を終えて出所し様変わりした世界で家族を持とうとする白髪交じりの山本を綾野剛が荒々しくそして情感たっぷりに演じて圧倒的な存在感を見せている。そして舘ひろしが義理と人情に厚い組長役でいぶし銀の演技を見せる。敵対する仁義なき侠葉会の若頭・加藤との会談で啖呵を切るシーンでは迫真の凄みを見せる。北村有起哉や市原隼人、豊原功補、駿河太郎らも迫力ある怒声や立ち回りなどでヤクザの世界に生きる男たちをリアルに演じている。
出所してからの山本のドラマがこの映画の核心になっているように見えた。組を抜けて元仲間の細野の紹介で産廃の仕事をするが、たまたま細野の後輩がスマホで撮影した山本と細野のツーショット写真がネットに拡散して、ヤクザだ人殺しだと噂が広がり仕事を失い由香は会社を辞めさせられ、娘の彩は転校を余儀なくされるなど”ヤクザの人権“問題とネット上の誹謗中傷という現代的な問題もリアルに描かれている。高倉健の仁侠映画や菅原文太の「仁義なき戦い」のような一昔前のヤクザ映画とは趣が異なり、主人公・山本のヤクザとしての生きざまや孤独と家族への渇望と挫折の人間ドラマはリアルであくまで切なく令和の「新しいヤクザ映画」といえそうだ。(2021年1月29日)