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「愛について語るときにイケダの語ること」 四肢軟骨無形成症の青年による初主演・初監督作で遺作

(2021年6月28日20:15)

「愛について語るときにイケダの語ること」 四肢軟骨無形成症の青年による初主演・初監督作で遺作
「愛について語るときにイケダの語ること」(© 2021 愛について語るときにイケダの語ること)(2021年6月25日(金)よりアップリンク吉祥寺にて公開!以降全国順次)

四肢軟骨無形成症で身長112センチの池田英彦さんの初主演・初監督にして遺作となった異色の映画。池田さんは39歳の誕生日を目前にしてスキルス性胃がんのステージ4と宣告され、生きているうちにセックスを沢山したいと考え、その様子などをビデオで撮影する。そして20年来の親友の脚本家・真野勝成氏を巻き込んで虚実入り混じった映画の撮影を開始。「僕が死んだら必ず映画館で上演してほしい」と言い残して池田さんは2年間の闘病後の2015年10月25日に42歳で亡くなった。池田さんの遺志を受け継いだ真野氏は、「ナイトクルージング」や「マイノリティとセックスに関する、極私的恋愛映画」などで知られる佐々木誠監督に編集を依頼し、残された60時間を超す膨大な映像を58分にまとめた本作が完成した。

■ストーリー

映画は池田の部屋で若い女性(毛利悟巳)が彼に告白するところから始まる。「普通に可愛いし、優しいし、おしゃれだし」といい「付き合ってくれないかなと思って」という。その前に2人は駅で待ち合わせてデートしブランコに乗り屈託なく笑ったり、スーパーで肉や野菜を買い家で鍋をして映画を見るたりする。だがその後若い女性とのシーンはリアルなドキュメントではなくフィクションらしいことが分かってくる。そして、若い女性とのドラマ仕立てのシーンの間に、ふんだんに風俗嬢とみられる女性と池田のリアルな自撮りのセックスシーンが登場する。池田は「胃がなくなってもチ×コはたつ」などと告白。濃厚なキスシーンが映し出され、その帰り道に真野氏のカメラに向かって「とろけるようだった」といい「まったく病気のことを忘れていた」と語る。その一方で、鏡に裸の上半身を映してそれをビデオで自撮りして、1回目の手術で胃(の患部は)切れず、抗がん剤治療を続けて手術に再チャレンジすることになったことを明かす。
そして、若い女性の交際の申し込みに応えず、自身の身の上話をまじめに語りだして、それとなく断ってしまうという意外な展開になる。撮影している真野氏から「虚構から抜け出しちゃった」と責められる。そして風俗嬢とのラブホテルのバスルームやベッドでのリアルなからみのシーンでは生き生きとしている池田があった。やがて池田は手術をすることもできずしだいに衰えていく。

■見どころ

ふんだんに登場する風俗嬢とのからみのシーンはカメラを意識して多少の演技はあるにしてもリアルで生々しい。池田は最初に風俗に行ったときに風俗嬢に身障者を相手にするのは抵抗がないか聞いたところ、その風俗嬢から「同じ人間じゃん」といわれて風俗のハードルが低くなったと映画の中で告白している。一方で、ドラマ仕立ての若い女性とのデートで告白されるシーンは、フィクションなのに素に戻ってしまい、相手を気遣ってか交際を断ってしまうというくだりに、池田さんの「性と愛」に対するアンビバレンスな気持ちが浮かび上がる。余命わずかの中でも普通に「性」を求め「性と愛」に真面目に向き合う自身を記録に残した池田さんの最後の姿にこそこの映画の核心があるのかもしれない。

■週末3日間全回満席のヒット

「愛について語るときにイケダの語ること」 四肢軟骨無形成症の青年による初主演・初監督作で遺作
初日舞台あいさつに登壇した真野勝成氏(㊨)と出演の毛利悟巳(アップリンク吉祥寺で)

同作は6月25日からアップリンク吉祥寺で公開され。先週末の3日間、全回満席のヒットとなった。若者だけでなく様々な層の観客が訪れているという。公開初日には真野勝成さんと出演者の毛利悟巳が舞台挨拶を行ったほか、連日上映後に真野氏やゲストが登壇してトークイベントが行われている。

本作のプロデュ―サーで脚本家の真野勝成氏は「本作の監督・主演の池田英彦は2015年10月25日に他界しています。生来、四肢軟骨無形成症(通称コビト症)という障害を持っていた池田は最後に何を遺したかったのか?映画の内容はセックスと愛をめぐるものです。なぜ自分の性愛を映画にしたのか?池田は自分に対する人の優しさに対して、どこか苛立っていたようです。善意と偽善の境界線は曖昧で、池田はそれを問い詰めたりしたことはありませんが、自分を「善なるもの」に押し込めようとする何かに対して、自分の闇を叩きつけたいという衝動が人生の最後に爆発したのだと思います。奇しくも東京パラリンピックとほぼ同時期に公開となった本作は「こんな奴も生きていた」という本当の意味の多様性を見せてくれる作品だと思います。」(「愛について語るときにイケダの語ること」の公式サイトから)とコメントしている。

共同プロデュ―サー・構成・編集の佐々木誠監督は次のようなコメントを寄せている。「池田さんが残した生々しい性交の記録は、全く下品に感じませんでした。彼が残りの命を考えて起こした「行動」、それを映画作品として残し、多くの人に観てもらいたい、という確固たる想いが編集を通してダイレクトに伝わってきました。私は映像制作、特に編集作業をしている際、感情が揺れることはほとんどないのですが、今回初めて泣きました。ハンサムで聡明、ユーモアもある池田さんですが、自身の障害を常に意識して生きてこられたんだな、と、そしてそれにケリをつけるためにこの映画を残したんだな、と強く感じました。池田さんが命をかけて残した本作品をぜひ多くの方に観ていただきたいと思います。」(同公式サイトから)
(2021年6月25日よりアップリンク吉祥寺にて公開、以降全国順次公開)