「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」 米巨大企業による環境汚染と十数年闘った弁護士の実話

(2021年12月20日10:40)

「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」 米巨大企業による環境汚染と十数年闘った弁護士の実話
「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」(TOHOシネマズ シャンテ)

米ウェストバージニア州の住民を蝕む環境汚染問題をめぐって巨大企業と十数年にわたって闘い続けた弁護士の活動を取り上げた2016年のニューヨーク・タイムズの記事が原作。記事に心を動かされた環境活動家で「アベンジャーズ」シリーズのハルク役で知られるマーク・ラファロがプロデューサーと主演を兼ねて映画化した社会派実録映画。
ラファロのほかにアン・ハサウェイ、ティム・ロビンス、ビル・キャンプ、ヴィクター・ガーバー、ビル・プルマンなどのキャストで、「エデンより彼方に」(2002年)、「アイム・ノット・ゼア」(2007年)、「キャロル」(2015年)などのトッド・ヘインズ。

■ストーリー

1998年、オハイオ州の名門法律事務所で働く弁護士ロブ・ビロット(マーク・ラファロ)のもとにウェストバージニア州で農場を営むウィルバー・テナント(ビル・キャンプ)がやってきて農場の被害を訴え調査を依頼する。一度は断ったがビロットの祖母に紹介されたといわれて断り切れず現場の農場を視察に行く。すると牛が190頭も死亡し犬の奇行が目撃されるなど農場の惨状を目の当たりにする。そしてテナントは大手化学メーカー、デユポン社の工場の廃棄物で生活水や土地が汚染されていると訴える。デユポン社は法律事務所の顧客でもありトップのフィル・ドネリー(ヴィクター・カーヴァー)とは所長のトム・タープ(ティム・ロビンス)ともどもよく知る中で、所長は難色を示すが、ビロットは調査するにつれて明らかになっていく重大な環境汚染を見逃せず、事務所内の反対を押し切って米国を代表する大企業を相手に訴訟を挑む。
家庭を顧みず訴訟に没頭し妻のサラ・ビロット(アン・ハサウェィ)からなじられるが事情を説明して説得し、元弁護士のサラも支援するようになり、脅迫を受け身の危険が迫る中、真相解明のため訴訟活動に身を投じてゆく。

■見どころ

1人の弁護士が巨大企業デユポン社の様々な圧力を受けながら信念を曲げず十数年かけて裁判で環境汚染の実態を明らかにしてゆく実話に基づいているだけにリアルで、巨大企業の前ではアリの1匹のような弁護士が、粘り強い調査で膨大な資料を基に長年隠蔽されてきた環境汚染解明の厚い壁に風穴を開けてゆくドラマは最後まで目が離せない。裁判で資料開示が認められると、デユポン社はビロットの法律事務所の一部屋の大半を埋め尽くすほどの資料が入った大量の段ボール箱を送り付け調査を攪乱しようとするが、それを驚異的な集中力で整理していく正義感が強く実直な弁護士ビロットをラファロが熱演しているが、ビロットは「アベンジャーズ」シリーズでラファロ演じるハルクを想起させるが、弁護士ビロットはたちまち敵をやっつけるとはいかず、十数年がかりで闘い続ける。デユポン社とビロットの”攻防“は波乱と緊張の連続でスリリングだ。社会派ドラマの弁護士の妻役でアン・ハサウェイが新境地を見せている。そして米国に限らず、日本の水俣病問題など世界中で起きている利益優先の企業が引き起こす環境汚染と隠ぺいの問題をなくすためには、ビロットのような弁護士や原告団の結束、そして同作でも描かれているメディアの報道などが必要なことを改めて考えさせられる作品だ。
(2021年12月17日よりTOHOシネマズ シャンテ他で上映中)