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映画
「曖昧な楽園」第36回東京国際映画祭でワールドプレミア 小辻陽平監督がQ&A
(2023年10月27日22:00)

第36回東京国際映画祭(10月23日~11月1日)のコンペ部門に選ばれた映画「曖昧な楽園」(11月18日公開)のジャパンプレミアとなる公式上映が26日、都内で行われ、戸田彬弘監督、奥津裕也、矢島康美、文ノ綾、三森麻美が登壇舞台挨拶を行い、その後観客とのQ&Aが行われた。
小辻監督は「この『曖昧な楽園』のワールドプレミアを、素晴らしい東京国際映画祭で迎えられたこと、高裁映画祭の皆様に心から感謝申し上げます。また、本日今作品の初めてのお客様になっていただいた皆様全員に感謝蒸し上げたいと思います」と感謝の言葉を述べた。
達也役の奥津は「遅い時間(午後11時ごろスタート)にもかかわらずご来場いただきまして、心から感謝申し上げます。申し越しだけお付き合いいただいたら幸いです」と挨拶。達也の母親を演じた矢島は「こんな大きな映画祭の真ん中に立たせていただいてます。今まで出会って聞いたいろんな皆さんに感謝しています」と語った。また、風俗嬢を演じた文ノは「東京国際映画祭という場に建てていることがとても光栄と思います」と述べ、ラジオから流れる音声を担当した三森は「今日はこの映画を見てくださってありがとうございました。すごい幸せだなと思います」と挨拶した。
その後 司会を務める、東京国際映画祭のプログラミングディレクター・市山尚三氏から作品の紹介とコンペ部門の15作品に選ばれた経緯について話ががあった。
市山氏は「監督を存じ上げなかったので全く白紙の状態で見て非常に驚いて、コンペティションに選んだ」と明かした。「2つのつながっているのか、つながっていないのかわからないストーリーがあり、しかも、3時間40分ぐらいと普通の商業映画ではありえないような時間で展開していくという、非常に大胆な作品。自主映画としても作られたからこそできた映画ではないかと思った」と指摘した。そして、「そのそもどこからこの映画を作ろうという発想が浮かんだのか?」と質問した。

小辻監督は「製作のきっかけとしては、私の祖父が亡くなる数年前から認知症と筋ジストロフィーで寝たきりの状態になってまして、そのとき私は実家が福井なんですけど、病室に通っていて、そのときに祖父一緒に過ごした静かな時間。特にやることがなく一緒に座ってたりとか、携帯で祖父のビデオを撮ったりとかしていたんですけれど、それが自分の中に名付けようのない時間として残っていて、そこからインスピレーションがあった」と振り返った。
「そこから約4年かけて、脚本を構成して、その後1年間かけてキャスト・スタッフと一緒に撮影しました。なので製作期間としては計5年間かかっています」という。
この映画は、交通量の調査員として、黙々と歩道で車の往来をカウントする達也と、体が不自由になった同居する母親の話と、植物状態になった独居老人の部屋に通い介助する青年クラゲ(リー正敏)という、2つの並行する物語が交わることなく展開していく。
小辻監督は「確かに2つあります。通常映画にするときは、2つの物語がありましたら、交わらせたりとか、お互いにわかりやすくする伝え方をすると思うんですけど、実人生を生きている中で例えば、市山さんの人生の中にも僕が知らない人生があると思いますし、僕の中にも市山さんが知らない人生がある。それは日常の中では、当たり前のことなんですけど。でもそれが映画になると、物語に回収されがちである。僕はずっと反物語的な意向を持っていて。実人生に近いような映画を目指して、それぞれの物語を独立した形で映画の中に入れたという経緯があります」と説明した。
その後会場からの質問を受け、「セリフを決行排除されて、説明的でない描写をされていると思う。最近の大手の映画って、セリフで説明するのがあって、個人的には嫌いなんです。セリフの少ない構成にされた意図、背景があれば教えてください」との質問があった。
小辻監督は「映画をセリフによらないで作りたいと思ってこの映画を作りました。その背景としては、セリフが入ってくると意味が浮かび上がってくる。意味がつながってくると階段状に繋がっていくと物語が生まれてくる。そういう風の意味で連鎖して物語を語っていくというよりも、それ以外の意味にならないような曖昧な瞬間
漠然とした時間であったり、そういったものを大切に作ろうと思ったので、必然的にセリフはなくなっていった」と明かした。
そして「この映画は人物の会話より、環境音の方が大きく聞こえるぐらい環境ンを強調荒れていたと思います。それが、人がここにいるっていう感覚をすごく覚えたました。クレジット見たら録音が4人いた。普通では考えられられないくらい関わっていて、音はどれくらい作りこまれたのか」との質問があった。
小辻監督は「録音スタッフは常に1人いたわけではなかったので、自主映画にありがちですが、つなぎぎつなぎできてくれる、録音ができる僕も含めて参加できる人に来てもらった」という。「録音移管してはその場でとれる音を大事に考えてまして、ご指摘の通り環境音はたくさん撮ってもらってます」と明かした。
さらに数う多くの質問が相次いで同作への関心、注目度の高いところをうかがわせていた。

【ストーリー】
交通量調査員として働く達也(奥津裕也)は、身体の不自由になってきた母(矢島康美)と、一軒家で二人暮らしをしている。夜毎、母からのトイレを報せる呼び出しブザーが鳴り、日常的な介助に応じている達也。行き交う人々の数をかぞえて記録するばかりの仕事にも、カプセルホテルで過ごす夜にも、どこにも居場所を見出せずにいる。
クラゲ(リー正敏)は、顔見知りだった独居老人(トムキラン)の部屋へ毎日のように通い、植物状態の老人の世話をしている。だが、老人の住む団地は老朽化によりもうすぐ取り壊されようとしていた。ある日、久しぶりに再会した幼馴染の雨(内藤春)を老人の部屋に案内するクラゲ。ささやかな交流を深めていくなかで、団地の取り壊し期日は迫っていく。やがてクラゲと雨は、老人を連れてバンで旅に出るが……。それぞれの抱える家族についてたどる旅の物語。
【クレジット】
監督・脚本:小辻陽平
照明:西野正浩 録音:中島光、太田達成、高橋信二朗
美術:猪狩裕子、石倉研史郎、山崎綾乃、藤村嘉忠
編集:小辻彩 整音:飯田太志
制作協力:サウンドブリックス
音楽:Osier(LuckGun)
主題歌:アカリノート『星の駱駝 曖昧な楽園Ver』
宣伝デザイン:ウタリトリ(濱本順由、岩瀬直美、佐藤若菜
2023年11月18日(土)ポレポレ東中野ほかロードショー
【第36回東京国際映画祭 開催概要】
■開催期間:2023年10月23日(月)~11月1日(水)
■会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区 ■公式サイト:www.tiff-jp.net
【TIFFCOM2023 開催概要】
■開催期間:2023年 10 月25 日(水)~27 日(金)
■会場:東京都立産業貿易センター浜松町館 ■公式サイト:www.tiffcom.jp