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映 画

「チルドレン・オブ・ザ・コーン〈4K〉〉「ニューノーマル」「ボレロ 永遠の旋律」のとっておき情報
(2024年8月19日16:15)
映画評論家・荒木久文氏が「チルドレン・オブ・ザ・コーン〈4K〉」「ニューノーマル」「ボレロ 永遠の旋律」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、8月12日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」で福永和也を相手に話したものです。
福永 荒木さん初めまして。本日はレギュラーパーソナリティの鈴木ダイさんが体調不良のためお休みですので、私、福永和也がお相手させていただきます。 よろしくお願いいたします。
荒木 今日は山の日ですが、福永さん、登山とかは?
福永 最近はめっきり…というか、子どもの頃は登ってたなくらいで、何度も高尾山に登っていたんですけど。
荒木 私、実は、30年前にネパールのヒマラヤに行ってきたんです。エベレストの麓まで行って、世界一高いところにある「エベレスト・ビュー」という標高3880mにあるホテルに一泊したんです。星空に浮かぶ山々のシルエットや、朝日に光り輝く神々しいばかりのエベレストの頂上に雪を頂く姿を見て、人生で一番の感激でした。
福永 それは、想像 筆舌に尽くしがたいことですね。
荒木 普段は山歩きとかしないんですけど、その時だけ連れてってもらって、山の思い出っていうとそんな思い出があります。
というわけで、ホラー映画お好きですか?
福永 お察しの通り結構好きで、ちょこちょこは見ます。
荒木 どんな感じの映画見ます?
福永 近年でいうと、「ヘレディタリー/継承」とか。
荒木 おー!怖かったですもんね。
福永 怖かったです。腰が飛び跳ねるようなシーンが何度もあって、あれが面白いというか、ひきつけられますね。

荒木 よかった。ダメな人もいますんでね。先週からお送りしている「ホラー特集」、今日もやります。
まず1作目。アメリカンホラーと言えば、何と言ってもスティーブン・キングという名前が出てきますよね。彼の小説で映画化された作品は、「キャリー」や「シャイニング」と数知れないんですが、これからご紹介する映画は、彼の初期の短編小説原作です。
1984年に制作されていたのに、どういうわけか日本では長らく未公開のままだったんです。8月に満を持して、それも4K版にて劇場初公開されるという珍しい作品です。
8月16日公開、タイトルが「チルドレン・オブ・ザ・コーン〈4K〉」という、「トウモロコシ畑の子供たち」ですね。トウモロコシ畑が広がるネブラスカ州の小さな田舎町ガトリンが舞台です。ある日、アイザックという少年に、トウモロコシの神が舞い降りて憑りつきます。彼は子どもたちの教祖となって、子どもたちを率いて「大人狩り」を始めるんです。町の大人たちを次々と惨殺していくわけです。やがて、その町は子どもたちとトウモロコシだらけの町になっちゃうんです。そこに、青年医師と恋人が迷い込む…というお話です。
福永 なるほど。
荒木 フォークホラーとしてもなかなか面白いです。リンダハミルトンって俳優さんわかりますか。ターミネーターのお母さんです。若き日の彼女が出てまして、なかなかいい演技してます。大規模のトウモロコシ畑って、何かちょっと不気味ですよね。
福永 確かに、ただっ広くビャッと広がってると、何か異様な感じが…。
荒木 広いのはちょっと怖いですけどね。「フィールド オブ ドリームス」でも、野球選手“シューレス”・ジョー・ジャクソンの亡霊が、トウモロコシ畑から出てきましたよね。日本にはそんなに大規模のものはないんですけれど、広いトウモロコシ畑って、栽培してる人に失礼かもしれないですけど、なんかいるみたいでちょっと怖い気がしますよね。
福永 神秘的というか、なんか人智を超えたような感じ、雰囲気ってのがあるように感じられますよね。
荒木 そんなバックボーンもあって、「チルドレン・オブ・ザ・コーン〈4K〉」。
8月16日公開です。なかなか、クラシックホラーって感じでいいです。で、8月30日からは「チュルドレン オブ ザ コーン2」というタイトルの続編も公開されるようです。
2本目。こちらは韓国のスリラーです。「ニュー・ノーマル」。
これも8月16日からの公開なんですが、6つのエピソードで構成されたオムニバスです。短編が6つ入っています。1篇目は、首都ソウルで女性ばかりを狙う連続殺人事件が発生しています。ある日、マンションで一人暮らしをしている女性のもとに、火災報知器の点検に来たという怪しい中年男が訪ねて来ます。そして、図々しく家の中に入って来て、不安を募らせる女性なんですけど、突然思わぬことが起こる…というのが第一話なんです。
第3話は、デートアプリでマッチングした相手と待ち合わせをしている若い女性。
そこに現れたのは思いも寄らない人物…という、これも怖いんですけど。
福永 ちょっと現代っぽい感じの…。
荒木 そうなんです、現代っぽいんです。4日間の間のソウルの現代のエピソードを描いているんですが、その話がかすかに交差したり、登場人物が重なったりして、ちょっと複雑な構成なんです。
福永 なるほど。
荒木 今、ちょっと流行りですね。韓国のホラー映画は血がドロドロというのが多くて、スプラッターが苦手な人にはちょっと駄目なんですけど、こちらはそんなに残酷シーンはないです。むしろ、笑いと怖さのバランスいいみたいなところがあります。
福永 ちょっとユーモアというか?

荒木 そうです。で、さっき紹介した1話の女優さんはチェ・ジゥさんなんです。久々のチェ・ジゥさん。それから、K-POPアイドルグループ「Block B」のメンバーも出ているんで韓国では人気の作品です。韓国のスリラー「ニューノーマル」。
8月16日からの公開です。
福永 要チェックですね。
荒木 最後、これはホラー特集ではなく紹介したい作品があるんですけど オリンピックの閉会式も今日終わりましたよね。
福永 そうですね。
荒木 明日辺りから、パリの祭りのあとの寂しさみたいなものが訪れるかもしれませんね。今までスポーツの都だったのが、普通の都っていうか、花の都に戻るというところですね。そんなフランス・パリが舞台の映画です。まずこの曲から聴いていただきましょう。
~♬~
ご存じですよね。
福永 はーい、もちろん聴いたことあります。

荒木 ラヴェルの「ボレロ」です。この曲は、フランスの作曲家、モーリス・ラヴェルが1928年に作曲したバレエのための音楽なんですね。誰しも聞いたことがあると思うんですけど、注意してよく聞いてみると、ドラムとスネアの一定のリズムがベースにキープされていますよね。あとは2種類のメロディが楽器を替えて、繰り返されるという特徴的な構成なんです、非常に単純で当時ももちろんですが、非常にシンプルで皆さん経験があると思うんですが、聞くとしばらくの間このメロディが頭の中に残ってしまうんですよね。
福永 わかります。まさにその感覚ですよね。
荒木 聞いた後は、なんとなく口ずさんじゃたりするんですよね。
ループしちゃう。そういういわば中毒性のあるリフレインなんですよ。
これって、どういうところから出てきたのかなって事も描いてあるんですけど、この曲、クラシックはもちろん、後の時代に大きな影響を与えたと言われています。
公開中の映画「ボレロ 永遠の旋律」は、作曲家ラヴェル自身の伝記映画でもあるのですが、焦点はむしろ 名曲「ボレロ」に焦点を当て、この曲の誕生秘話が明かされるというのがメインになります。
ストーリーです。1928年のパリです。モーリス・ラヴェルは、曲がかけず深刻なスランプに苦しむ状態でした。有名ダンサーからバレエの音楽を依頼されますが、一音も書けずにいました。映画ではそんなラヴェルに影響を与えた、いろいろな要因に光を当てます。
正確なリズムとか反復性、そのひとつが工場の機械の音だと言われているんです。
映画の冒頭に映し出されるのですが、工場内のベルトや歯車だとか、機を織る音。カッチンカッチンとか、カッチャンカッチャンとか繰り返される機械音がこのボレロの大きな要素になったのではないかと示唆しているんです。
そこにラヴェル自身の戦争体験の痛み、叶わない美しい愛だとか、最愛の母との別れなどを断片的に入れながら、すべてを注ぎ込んで「ボレロ」を作り上げる様が描かれるというわけです。ラヴェルという人自身も不思議な人なんです、純愛を貫いた人とも言われますし、性的関心を持たないアセクシャルだったという説のある作曲家なんです。試行錯誤の日々を経てついに「ボレロ」を完成させるんですが、自身のすべてを注ぎ込んで作り上げたこの曲に彼の人生は侵食されていくんです。
福永 人生を侵食されるんですか?
荒木 はい。ラヴェルは他にも曲を書いてるんですけど、知ってますか?
福永 いや、パッと言われて、これでしょうというのが…。
荒木 ないですよね。何といっても「ラヴェルといえばボレロ、ボレロと言えばラヴェル」になっちゃうんですね。他にも『スペイン狂詩曲』とか、『ダフニスとクロエ』などたくさん名曲を作っているんです。だけど、やっぱりこの曲しかラヴェルの代表曲としてはないみたいなイメージになってしまっています。また、ラヴェル自身はこの曲が完成した時にはそのバレエを見て失望し、曲にも憎悪を向けたと言われているんです。
福永 凄い境地の話ですね。
荒木 映画の中でも「あの曲が僕の全てを飲み込んでいく、他に何もないように」という台詞があるんです。そういうバックを持った曲なんです。
福永 偉大な曲過ぎて、驚異的なというか…ねぇ、感じ取れますね。
荒木 ラヴェルを演じるのは、ラファエル・ペルソナさんといういわゆるハンサム顔俳優です。ラヴェルは繊細な人だったらしく、良く特徴が表れた演技をしてます。
“アラン・ドロンの再来”って言われている俳優さんらしいです。
福永 それでは、超美形ですか。
荒木 美形ですね。音楽は、主にブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団が演奏しているんですが、エンディングでは元パリ・オペラ座のエトワール、フランソワ・アリュが素晴らしい踊りをこの曲に乗せて見せていますので、これも見逃せませんね。
冒頭には、この曲をロック調にアレンジしたものとか、コンテンポラリーにアレンジしたものとか、いろんなパターンも出てきますし、音楽好きな人は、是非見ておいた方がいいと思います。
福永 大筋のストーリーはもちろんですけど、細部にちりばめられている演出とか、その辺も注目してみると更にぐっと楽しめそうな感じですね。素晴らしい。
荒木 「ボレロ 永遠の戦慄」という、現在公開中です。しばらく頭の中にメロディが残るという覚悟しながら、聴いていただいたらいいと思います。
福永 ありがとうございました。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。