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映画
新感覚スリラー「クラブゼロ」 ミア・ワシコウスカが”小食”を説くカルト的教師を怪演
(2024年12月3日14:00)

「アリス・イン・ワンダーランド」のミア・ワシコウスカ主演、ジェシカ・ハウスナー監督による、食の認識を揺るがすイニシエーション・スリラー「クラブゼロ」が12月6日から全国公開になる。
本作は、名門校に赴任してきた栄養学の教師ノヴァクが、「小食」の食事法を生徒たちに説き、それを実践する謎の「クラブゼロ」に生徒たちが巻き込まれていくスリラー。
監督は、ミヒャエル・ハネケに師事したオーストリア出身の新進気鋭の映画監督ジェシカ・ハウスナー。前作『リトル・ジョー』(19)では「新種の植物」、最初の日本公開作『ルルドの泉で』(09)では「奇跡の水」でしあわせを提唱しながらも、観客の不安を静かにあおってきた彼女の今回の新作は、「食生活についての幸福」を提案するセレブ高校の栄養学講師を主人公に再び不安をあおる。
「リトル・ジョー」に続いて第76回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、「全盛期のキューブリックを彷彿とさせる冷静な眼差し」(THE FILM VERDICT)、「魅惑的で挑発的な洗脳」(Variety)などと評価された。
主演のノヴァクに、ティム・バートン監督の「アリス・イン・ワンダーランド」(10)でアリス役に抜擢されて、AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)最優秀国際女優賞を受賞。「ベルイマン島にて」(21)、「ブルーバック あの海を見ていた」(22)などのオーストラリア出身のミア・ワシコウスカ。





■ストーリー
裕福な家庭の子息らが通い、明るくおしゃれな制服を身にまとい、意識の高い校長先生の方針のもと、素敵な内装の校舎で不自由なく暮らしていた名門校に、「意識的な食事」を提唱し実績も残してきた栄養学の専門家の教師ノヴァク(ミア・ワシコウスカ)が赴任してくる。
彼女は小食によって社会の束縛から解放されるという奇怪な食事のセオリーを説き、素直で感受性の高いティーンズの生徒たちは、次第に感化されていき、彼女を信奉するようになる。そしてある男子生徒はノヴァクに恋をする。最初は鷹揚なふるまいだった彼らの親たちも、食事中にごく少量しか食べない自分の子供たちの変異に気づき始め、まともな食事をするよう叱ったりするが、子供たちは親たちに反抗し、ノヴァクとカルト的な「クラブゼロ」にのめり込んで危険で深刻な状況を招いていく。
ヒヤヒヤする内容なのに、切り取られた映像の画角や色味は計算し尽くされたように完璧な鮮やかさ。カラフルに彩られた生徒たちの私服や自室、モダンに整えられた自宅も大いに見どこころだが、それゆえにぞっとするストーリーテリングとのギャップが大きく、強烈な印象を残す作品となっている。ちなみに、本作のスタイリングは監督の姉で数々の受賞歴のあるターニャ・ハウスナーが担当している。
■見どころ
「意識的な食事」という「小食は健康的であり、社会の束縛から自分を解放することができる」食事法という、荒唐無稽な食の理論を説く教師をミア・ワシコウスカ怪演している。外連味がなく冷静で繊細な演技が余計に不気味な存在感を醸し出し、生徒たちがノヴァクと「クラブゼロ」に引き込まれていく様子をリアルに描写している。
ハウスナー監督とノヴァクを演じたミアは、カルト教団の元信者たちに取材をすることで指導者像を明確にしたという。監督は、「ノヴァクは悪意を持って洗脳するわけではなく、心から教義を信じ、真実を理解してもらいたいだけなのです」と指摘。そして、ミアは、「誠実かつ信念を疑っていない点が興味深く同時に人間の恐ろしさを増しています」とコメントしている。
その意味で、この映画は、「ホワイト案件」と”洗脳”されて犯罪に手を染めていく最近連発する強盗事件や、陰謀論や事実無根の怪情報がSNSに拡散して有権者の多数を巻き込む影響力を持って行く危険な現象、はたまた信者から多額な献金を絞りとり、家庭を崩壊させる事案が多発するカルト宗教などの、いわゆる”洗脳の構造”をシニカルに、強烈な風刺も交えて描き警鐘を鳴らしているともいえそうだ。
【クレジット】
出演:ミア・ワシコウスカ
脚本・監督:ジェシカ・ハウスナー 撮影:マルティン・ゲシュラハト
2023 年|オーストリア・イギリス・ドイツ・フランス・デンマーク・カタール|5.1ch|アメリカンビスタ|英語|110 分 |原題:CLUB ZERO|字幕翻訳:髙橋彩|配給:クロックワークス
Ⓒ COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023
公式サイト:klockworx-v.com/clubzero/ 公式 X:@clubzeromovie