「室町無頼」、「Retakeリテイク」の創り方」のとっておき情報

(2025年2月3日11:00)

映画評論家・荒木久文氏が、第97回アカデミー賞、「室町無頼」、「Retakeリテイク」のとっておき情を紹介した。トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、1月27日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・藤本えみりを相手に話したものです。

藤本      今日はいつもの鈴木ダイさんが急病でお休みですので、私、藤本が進行させていただきます。 よろしくおねがいします。

荒木      よろしくお願いします。いつもと違って女性に語りかけられて声が裏返っちゃいますよ。いつもとは全然違う感じで。

藤本      そんなことないですよ。もちろん、ダイさんも美声でいらっしゃいますけど、私、このコーナー聴いてまして凄い楽しみにしてたので。

荒木      またまた! 嘘でも嬉しいですね。

藤本      今日も荒木さんと、直接こうしてお話出来るのがしあわせです。

荒木      ありがとうございます。そんなこと言っていただくとますます緊張してしまいます。よろしくお願いします。藤本さん、前は映画の番組も携わってたということで。

藤本      そうなんです。随分前なんですけど映画の番組させていただいてまして。

荒木      じゃあ、映画に関しては興味がおありなんですね。

藤本      好きです。

荒木      今日は、まず アカデミー賞の話をさせていただけますか。

藤本      お願いします。

荒木      今年は第97回のアカデミー賞を迎えるんですけどカリフォルニアの火事の影響もあって2回も延期されて、先週23日にようやくノミネートが行われました。 全体として見てみると…去年はがっちり本命がありました。

藤本      ありました。「オッペンハイマー」。

荒木      そう 今年は全くその有力作がなく競合というか、ぐちゃぐちゃになってるんです。

藤本      うわっ、そうなんですか!

荒木      そうなんですよ。作品から見ると一番作品賞のノミネートが多いのはジャック・オーディアール監督の『エミリア・ペレス』という作品です。これは性転換手術を受ける麻薬王を主人公にしたミュージカル映画です。メキシコの麻薬カルテルのボスが過去を捨て、性別適合手術を受けて女性として新たな人生を歩みはじめたことから起こる出来事なんですよ。

藤本      面白そう。新しい切り口ですね。

荒木      そうなんです。私もまだ見せていただいてないんですがクライム、コメディとかミュージカルなど、さまざまなジャンルを交えて描いているそうなんです。 これはスペイン語の作品なんですけど英語じゃない作品としては、史上最多12部門13ノミネートだそうです。

アラキンのムービー・ワンダーランド/第97回アカデミー賞、「室町無頼」、「Retakeリテイク」のとっておき情報
「エミリア・ペレス」㊧からゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメス(X/@emiliaperez0328)

藤本      凄い数ですねー。

荒木      主演のカルラ・ソフィア・ガスコンさんがトランスジェンダー俳優として初の主演女優賞ノミネートとなっているそうです。次に多いノミネートですが、ひとつめは『ブルータリスト』という作品です。あの虐殺のホロコーストを生き延びてアメリカへ渡ったハンガリー系ユダヤ⼈建築家ラースロー・トートの半生を描くものなんですが、エイドリアン・ブロディが演じています。前にも同じような「戦場のピアニスト」がありました。『ブルータリスト』は恐ろしく長い映画で4時間近くあるので見るのが大変です。

藤本      そんなにあるんですか!

荒木      そうなんですよ。中に休憩が挟まれてます。

藤本      えっ!?最近の映画で休憩って…。昔はよくありましたよね。

荒木      はい 最近は珍しいですよね。

藤本      見るのはちょっと大変ですが、エイドリアン・ブロディがアカデミー賞とってくれるかなぁと期待もしてます。

荒木      他には、『ウィキッド ふたりの魔女』という人気ミュージカルを映画化したもの10部門でノミネートとかいろいろあるんですが。ちょっと俳優賞を見てみると、今申し上げたエイドリアン・ブロディですね。それから「名もなき者」でボブディランを演じたティモシー・シャラメ。他にも先週この番組でも紹介した「ドナルド・トランプの創り方」のイケメンさんセバスチャン・スタンですね。女優さんはお馴染みのところだと、デミ・ムーア、「サブスタンス」という作品です。これは彼女の初めてのノミネートじゃないかな。あとは「アノーラ」のマイキー・マディソンというイキのいい女優さんなんかも出ています。このあたりも見どころです。

藤本      作品もですけど、俳優賞も誰が取るかわからないですね。

荒木      そうですね。それと日本からはジャーナリストの伊藤詩織さんが作った「Black Box Diaries」が長編ドキュメンタリー賞にノミネート。また、山崎エマ監督の「小学校 それは小さな社会」の短編版が短編ドキュメンタリー賞部門に、西尾大介監督の「あめだま」が短編アニメーション賞部門に候補入りを果たしています。こちらも楽しみですね。

藤本      楽しみですね。

荒木      授賞式は現地時間の3月2日午後4時からだそうですので、またレポートしたいと思います。97回アカデミー賞の話題でした。

藤本      さあ、今日荒木さんがピックアップしてくれる映画は…。~♫~

荒木     今音楽が流れてきましたけど、マカロニウエスタン、西部劇っぽいですよね。

藤本      本当だ!ウエスタン!

荒木      これは、実は日本の時代劇のテーマです。いわゆる劇伴と言われるバックに流れる音楽です。最近、時代劇ブームですよね。藤本さん、時代劇も見られますか?

藤本      はい、見ます。

荒木      最近、多いんですけど、この映画は新しい感覚?というか音を聞いただけでも、ちょっと前の時代の時代劇とは違う感じがしますよね。 サイタマノラッパーの入江悠監督が脚本を手がけたことでも話題です。 大泉洋さんで実写化した戦国アクション時代劇。ちょっと新しい感覚の時代劇です。 室町時代の作品なんですが、主人公は日本の歴史において初めて武士階級として一揆を起こしたとされている、室町時代の人物・蓮田兵衛という人です。この人の知られざる姿をドラマチックに描いています。室町時代って、高校時代に日本史で習ったけど、平安時代と戦国時代のはざまで武士が権力を握りつつあった混乱の時期ですよね。 応仁の乱の前なんですけど この頃、京都は大飢饉と疫病によって路上に死体がごろごろ転がってる悲惨な状態だったんです。人身売買や奴隷労働も横行して世の中は乱れに乱れています。だけど、権力者は無能で、無政府状態なんです。

アラキンのムービー・ワンダーランド/第97回アカデミー賞、「室町無頼」、「Retakeリテイク」のとっておき情報
「室町無頼」(絶賛上映中)(配給:東映)(原作:垣根涼介『室町無頼』(新潮文庫刊))(© 2016垣根涼介/新潮社 ©2025「室町無頼」製作委員会)

藤本      酷い時代ですね。

荒木      まあね、そんな中、この映画では3人に焦点が当たります。 ひとりは武士崩れというか、自分の腕と才覚だけで混沌の世を生きる自由人、蓮田兵衛さん。大泉洋さんが演じています。彼は密かに倒幕と倒すことと世直しをすることで、立ち上がる時を狙っています。もうひとりは青年の才蔵くん。「なにわ男子」の長尾謙杜くんがやってます。カッコいいんですけど、並外れた武術の才能を持つという彼は天涯孤独で夢も希望もない日々を過ごしているんですが、兵衛に見出され彼の手下となるんです。 並外れた武術の才能を持つ彼は、天涯孤独で夢も希望もない日々を過ごしていますが、兵衛に見出されて鍛えられ、彼の手下となります。3人目は兵衛のかつての悪友、骨皮道賢という、面白い名前ですけど堤真一さんがやってます。彼は盗賊悪党なのに幕府に雇われ いわば幕府軍を率いています。やがて兵衛のもとに集った、喰いっぱぐれの無頼や百姓たちが権力に向けて一揆をするというお話。それに骨皮が立ちはだかるという、そういうところがハイライトなんですがね。

藤本      役者さんのお名前だけでも、見たいなと思いました。

荒木      他にも柄本明さんとか、北村一輝さんとか、松本若菜が出ていまして面白いですよ。

藤本      荒木さん、アクションという言葉も仰いましたけど、大泉洋さんのアクションみたいなものも見られるということですか?

荒木      これね、本格的なアクションで、凄いですよ。

藤本      えー!?

荒木      自分でも言っていましたが、ちょっと三船敏郎っぽいですね。三船敏郎っぽいって言ってもわかるかな(笑)。

藤本      若い方は(笑)…。

荒木      とにかくカッコいいですね。

藤本      うわぁ見たいなぁ。今回は笑いはあまりなくってシリアスな感じですか?

荒木      もちろん笑いも多少あるんです。存在自体が笑いっぽいんで。 ただ、一揆シーンが凄いんですよ。カメラワークから。空から撮ったり引いて撮ったりですね、これまでの時代劇とは一線を画す新しい味が出てます。本当に新鮮です。

藤本      スケール大きいですね。

荒木      スケール大きいですよ。これは話題になるでしょうね。

藤本      見どころ沢山あるし、見たいですね。

荒木      入江監督さすがだなという感じです。「室町無頼」。公開中。 機会があったら是非見てください。  もう一本紹介します。「RETAKEリテイク」という公開中の作品です。「PFFアワード」って映画が好きな人はご存知かもしれませんが、世界でも珍しい自主映画のコンペティションです。ぴあフィルムフェスティバルと言えばわかると思います。 この「PFFアワード」は、今までも、名監督や売れっ子監督を輩出ししてきたことでも有名です。ざっと上げるだけでも、森田芳光 黒沢清、成島出、塚本晋也、石井裕也、凄いですよね。

藤本      凄いメンツですね。

アラキンのムービー・ワンダーランド/第97回アカデミー賞、「室町無頼」、「Retakeリテイク」のとっておき情報
「Retakeリテイク」(©湘南市民メディアネットワーク)(配給:ミカタ・エンタテインメント)(全国公開中)

荒木      今回ご紹介する「Retakeリテイク」という作品はこの「PFFアワード」の2023でグランプリに輝いた作品です。現在公開中なんですがストーリーは、カメラ好き高校3年生の景君が、同級生の女の子の遊ちゃんから映画づくりに誘われて友人の3人も加わり5人で撮影がスタートします。物を作る喜びや、ほのかな恋心とか、過去の行き違いなど、さまざまな思いを抱える彼らの関係が映画づくりを進めるなかで変化していくと言うお話なんですが。 ちょっと聞くと何それ、そんな昔からあるようなストーリーだねと思うでしょう?

藤本      はい、ちょっとだけ思いました。

荒木      青春の王道ですよね。私も途中まで見てて、うんうんだからどうなの?という感じだったんですが、後半、えっ!?、そうなるの!?、そうなんだ!と、何て言うか、「カメラを止めるな」を見た時のような驚きに近いものがありました。

藤本      凄い驚きじゃないですか!それ。

荒木      直球と見せた変化球みたいな感じでね。タイトルが「RETAKEリテイク」、日本語だと取り直しだとか、もう一回という意味でしょう。後で考えると、これがヒントになっているんですよ。

藤本      ちょっと気になりますねー。

荒木      これは見てもらわなけりゃわからないですけど、監督は中野晃太さんと言う方です。なかなか、普通に見せかけて、ちょっと、えっ!?って思わせるテクニックは、楽しみな監督だなと思うんです。

藤本      これで、驚きを感じたいです。

荒木      そうですよね。夏休みの学生が映画制作に取り組むというほとんどの監督はこういうところから入るんじゃないかと思うんですけど、全くモチーフ変えて、見事なプレゼンの仕方だと思いました。

藤本      青春映画で、甘酸っぱい感じの映画と思っていましたけど…。

荒木      もちろん!それもちゃんと入っています。恋愛も入っていますし、友だちの過去の関係もみんな目を配って入れてますのでなかなか面白いと思います。 ただ前半は、ちょっとやっぱり…だからどうなの?って感じになりますけど、後半からは変わってびっくりさせられますが、その辺りも含めて「RETAKEリテイク」というタイトルの印象的な映画ですので現在公開中なので・・・。 これからも、藤本さんにも映画たくさん見ていただきたいんですけど、今、年間どのくらいご覧になりますか?

藤本      じつは、今、映画ほとんど見れなくなっちゃいまして…、今、荒木さんのお話を改めて聞いて、やっぱり映画見たいなと思いました。見ようって思いました。

荒木      なかなか忙しいからね。なんと日本人の60%は、年に1回も映画館で映画を見てません。

藤本      そうなんですか!

荒木      そうなんですよ。残り40%のうち、2本以上見る人はその半分ですから、もっと見ていただいて心豊かに、生活豊かに、生活は豊かにはならないか…(笑)。気持ちを豊かにしていただきたいと思いますね。

藤本      私も、海外に行って映画を見た時に、映画館が凄いぶわーって盛り上がってて、変な話、ポップコーンはあっちこっち飛び回ってるし。そういうのを感じた時に、映画館で映画見るのは凄いなと思ったんですけど、日本で映画見ても盛り上がりって、一緒に感じられますもんね。

荒木      そうですね。最近は、爆音映画祭だったり、応援ありのスタイルの映画回とかありますので、よく調べて行くと楽しめると思います。

藤本      ありがとうございます。

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