「大統領のケーキ」大統領の誕生日を祝うケーキ係を命じられた少女の数奇な運命

(2026年7月14日10:30)

「大統領のケーキ」大統領の誕生日を祝うケーキ係を命じられた少女の数奇な運命 
「大統領のケーキ」ポスタービジュアル

1990年代のフセイン独裁政権下のイラクを舞台に、学校のくじ引きで「大統領のケーキ係」に選ばれた少女が、ケーキの材料集めに悪戦苦闘する姿を描いた映画「大統領のケーキ」が10日から公開されている。

物語の舞台は、1990年代、フセイン独裁政権下のイラク。人々が戦争と食糧不足に苦しむなか、フセイン大統領は自身の誕生日を祝うケーキを作るよう、国内の各学校に命じていた。くじ引きで“名誉ある”ケーキ係に指名されてしまった少女ラミアが、ケーキの材料を集めるために町を駆け回り奮闘する姿が描かれる。

同作は第98回アカデミー賞国際長編映画賞イラク代表で、同賞のショートリストにも選出され、第78回カンヌ国際映画祭でイラク映画として初めて監督週間観客賞とカメラ・ドール(新人監督賞)をW受賞。その他にも第33回ハンプトン国際映画祭最優秀映画賞、審査員賞を受賞、第31回アテネ国際映画祭観客賞受賞、第73回サン・セバスティアン国際映画祭観客賞ノミネートなど、世界の映画祭が絶賛し、さらに映画批評サイト「ロッテントマト」にて批評家99パーセント、オーディエンス94パーセント(2026.4.22時点)の高評価を得ている注目作。

「大統領のケーキ」大統領の誕生日を祝うケーキ係を命じられた少女の数奇な運命 
「大統領のケーキ」場面写真、”友達の雄鶏”ヒンディと奔走するラミア㊨
「大統領のケーキ」大統領の誕生日を祝うケーキ係を命じられた少女の数奇な運命 
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ラミアとクラスメイトのサイード㊧
「大統領のケーキ」大統領の誕生日を祝うケーキ係を命じられた少女の数奇な運命 
カヌーで通学するラミア
「大統領のケーキ」大統領の誕生日を祝うケーキ係を命じられた少女の数奇な運命 
ラミアとおばあちゃん
「大統領のケーキ」大統領の誕生日を祝うケーキ係を命じられた少女の数奇な運命 
おばあちゃんから逃げ出したラミア
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「大統領のケーキ」大統領の誕生日を祝うケーキ係を命じられた少女の数奇な運命 
フセイン大統領の誕生日を祝う行進

監督は、イラク出身のハサン・ハーディで、幼少のころに大統領の誕生日を祝う花係に選ばれた自らの体験をもとに描き出した初長編作品。ハーディ監督が書き上げた脚本を、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)でアカデミー賞脚色賞を受賞し、『DUNE/デューン 砂の惑星』(21)など5作品で同賞にノミネートされた、ハリウッドを代表する一流脚本家エリック・ロスが見出し、サンダンス/NHK賞、ドーハ映画研究所からの助成金を獲得。エグゼクティブ・プロデューサーとして、エリック・ロスと、『幸せへのまわり道』(19)の監督を務めたマリエル・ヘラーも加わっている。

撮影はイラクで行われ、ユネスコの世界遺産にも登録された南部のサンクチュアリを想起させる美しいメソポタミア湿地帯や、バグダッド市内の市場と、初めて目にする映像も見どころだ。

【Story】
祖母と二人で暮らす9歳のラミアは、学校のくじ引きで「大統領のケーキ係」に選ばれてしまう。フセイン大統領の誕生日に、お祝いのケーキを準備する係だ。翌朝、ラミアは祖母に連れられて、父の形見の時計と、“友達”の雄鶏ヒンディとともに町へ出かける。だが、日々の食卓も満足に揃えられない祖母の目的はケーキではなく、ラミアを養子に出すことだった。思わず逃げ出したラミアは、自らの手でケーキの材料を集めれば、祖母との暮らしを続けられると信じて、クラスメイトのサイードと協力して町を駆け回る。十分なお金も時間もなく、あるのは知恵と想像力だけ──はたして、“名誉あるケーキ作り”の行方は?

【見どころ+】
フセイン大統領の誕生日を祝うためにケーキを作るという重大な任務を小学生に課し、しかもくじ引きにより決め、失敗すれば厳罰が待っているという。児童虐待で非人道的な独裁者の一面が見えてくるが、主人公の少女ラミアがケーキの材料を集めるため懸命に奔走するけなげな姿が、さらにその悲惨さを増幅する。“友達”の雄鶏ヒンディを連れ、おばあちゃんに付き添われて卵や小麦粉、砂糖などの材料を集めようとするが、そもそも物資が不足し、価格が高騰していて元手も心細く、同行したおばあちゃんには養子に出されようとして逃げ出してしまう。クラスメイトのサイードの協力を得て、購入資金のため父親の形見の時計を古物商店で換金するがニセ札をつまされるなど、当時のイラクの混乱した社会・経済状況も浮き彫りになる。ラミア、サイード役をはじめ出演者全員が演技未経験者ということを感じさせない演技を見せ、まるでドキュメント映画のようにリアルで、予想外の展開が続く。政治的主張を直接繰り広げているわけではないが、まさに少女ラミアの数奇な運命の描写の中に独裁政権への痛烈な批判が見え隠れする。

ハーディ監督は、同作がフセイン政権下のイラクで育った幼少期の記憶から生まれたと語っている。「毎年、先生がボウルを持って教室に入ってきて、生徒たちに自分の名前を書いた紙を入れるよう言いました。それから大統領の誕生日ケーキと、その他の品(果物飾り付け、清掃用品、花)を用意する生徒の名前を引くのです」。ある年、負担の少ない花係に選ばれたという。「友人はケーキ係になりました。しかし、ケーキを用意することができず、後に学校を退学させられ、サダムの少年軍への入隊を余儀なくされました。純粋な運のおかげで、友人が辿ったような過酷な運命を避けられたことに対し、私は常に葛藤を抱いてきました」という。「彼の運命が完全に変わってしまったという事実は、ずっと頭を離れませんでした。そこから、私の心の中に問いが生まれ始めたのです。『なぜ、あのような不条理に対して誰もが沈黙していたのか?』『不条理に直面した時、何が道徳的で、何が不道徳なのか?』『冷酷さが蔓延する中で、道徳に価値はあるのか?』こうした問いや思考に対する内なる罪悪感、そして葛藤が、私をこの物語の執筆へと駆り立てたのです」と語っている。

ちなみに、フセイン大統領といえば、その後イラク戦争に敗戦し裁判にかけられ死刑になる。2003年3月に米ブッシュ大統領はイラクが大量破壊兵器を破棄せず保有し続けているとして、湾岸戦争(1990年~91年)での停戦条件になっていた武装解除進展義務違反を大義名分にして、アメリカを主体にイギリス、オーストラリアなど有志連合により、イラクへの軍事侵攻を開始。同年4月首都バグダード陥落。同年12月にフセイン逮捕、投獄。裁判で死刑を宣告されて2006年12月30日、死刑が執行された。後にイラクに大量破壊兵器は発見されず、イラクと敵対していたイランの勢力を増大させたともいわれる。そのイランと米国の戦争は泥沼の様相を見せているなど米・イスラエルの暴走で中東情勢は依然として混迷している。独裁者が引き起こす戦争の最大の犠牲者はいつの時代も一般市民や子供たちだということを、ラミアの視点を通してこの映画は問いかけている。

【クレジット】
監督・脚本:ハサン・ハーディ
出演:バニーン・アハマド・ナーイフ、サッジャード・モハンマド・カーセム、ワヒーダ・サーベト、ラヒーム・アルハジ プロデューサー:リア・チェン・ベイカー
エグゼクティブ・プロデューサー:エリック・ロス、マリエル・ヘラー
撮影監督:トゥードル・ヴラディミール・パンドゥル 編集:アンドゥ・ラドゥ 音響:タマーシュ・ザーニ 美術:アナマリエ・テク
2025年/イラク、アメリカ、カタール/105分/アラビア語/シネスコ/カラー/5.1ch/英題:The President’s Cake
日本語字幕:星加久実/字幕監修:中町信孝
配給:松竹/PG12
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公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/presidentscake
7月10日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー