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「国葬」スターリンの専制独裁政治を象徴する前代未聞の国葬

(2020年11月27日12:45)

「国葬」スターリンの専制独裁政治を象徴する前代未聞の国葬
「群衆」(東京・渋谷区のシアター・イメージフォーラム)

レーニンの死後、29年間ソビエト連邦の最高指導者として君臨したヨシフ・スターリンが1953年3月5日、75歳で死去して執り行われた国葬の様子をとらえたセルゲイ・ロズニツァ監督による2019年の壮大なドキュメント映画。同監督の1930年のソ連の産業党事件の裁判を当時の映像をもとに編集した「粛正裁判」(2018年)、第2次世界大戦中にナチスのホロコーストの舞台となった強制収容所を訪れる観光客を撮影した「アウステルリッツ」(2016年)とともに、「群衆」という共通テーマによる3部作として日本初公開された。

ソ連全土の都市や工場、農場、へき地などで、スピーカーから流れるスターリン死去の放送を身じろぎもせず聞き入る大群衆。そして中国の周恩来首相ら各国の要人が参列して壮大な規模で執り行われるモスクワでの葬儀。モスクワの労働組合会館「柱の間」にはスターリンの遺体が安置され、無数の花束が式場の内外を埋め尽くし、一般市民の参列者が次々に訪れるシーンが延々と続く。当時の映像をつないだもので映像はモノクロだったりカラーだったりする。ひたすら大群衆や軍人、政府要人らが映し出され、涙を流す人たちやすすり泣く声も聞こえる。その規模は文字通り空前絶後でソ連の国威発揚でもあり史上最大規模の国葬に違ない。

やがてスターリンの遺体は幹部に担がれ労働組合会館を出て車に乗せられ、赤の広場にあるレーニンの遺体が安置された有名なレーニン廟に収められ、無数の赤軍兵士たちが集まり追悼集会が開かれる。後のソ連の最高指導者で首相になる政治局員のフルシチョフが司会をして、スターリンの跡を継いで最高指導者の地位に就いたマレンコフソ連閣僚会議議長(首相)らが弔辞を読み、スターリンの功績を称賛してソビエト連邦の更なる発展を誓う。不気味なまでに整然とした大群衆と兵士や幹部たち。無言の大群衆は何を思うのか。延々と繰り広げられる壮大で異様なこの光景は、政敵の大粛清を行い独裁政治と個人崇拝を強いたスターリンの負の遺産そのものだというしかない。

1917年の10月革命を指導したレーニンが1924年に死去した後に、国内体制の維持を唱えたスターリンは、ジノヴィエフ、カーメネフ、ブハーリン、トロツキーら政敵を反革命分子として一斉に粛清し独裁体制を築いて自身の個人崇拝を作り上げた。赤の広場のレーニン廟にレーニンと並んで遺体が安置され神格化されたが、後にフルシチョフが独裁政治と恐怖政治を批判し、1961年、遺体はレーニン廟から撤去された。1991年のソ連崩壊後スターリンの功績を見直す動きもあるというが、スターリン主義はロシアや中国、北朝鮮に色濃く残っていることは否定できない。それだけに「国葬」はまさに現代に通じる問題を映し出す貴重なドキュメントだといえそうだ。(2020年11月14日公開)