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映画「ソング・トゥ・ソング」 豪華キャストで描く巨匠テレンス・マリックの映像詩

(2020年12月26日11:30)

映画「ソング・トゥ・ソング」 豪華キャストで描く巨匠テレンス・マリックの映像詩
「ソング・トゥ・ソング」(東京・新宿区の新宿シネマカリテ)

カンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)を受賞した「ツリー・オブ・ライフ」(2011年)や「シン・レッド・ライン」(1998年)、「ツリー・オブ・ライフ」(2011年)などで知られる巨匠テレンス・マリック監督(77)の2017年製作の映画。マイケル・ファスベンダー、ライアン・ゴズリング、ルーニー・マーラ、ナタリー・ポートマンら豪華キャストで、音楽業界の大物プロヂューサーや売れないソングライター、フリーター、ウェィトレスらの恋愛や友情、裏切り、孤独を独特の映像と哲学で繰り広げる。

■ストーリー

「世界のライブミュージックの都」といわれる音楽の街、米テキサス州オースティンが舞台。 音楽業界に夢を持つフリーターのフェイ(ルーニー・マーラー)は、激しいセックスでしか満足できず、成功して豪邸に住む音楽業界の大物プロデュ―サー、クック(マイケル・ファスベンダー)はそれを与えてくれたが、彼との関係は不安定で、やがて優しくて精神的にも大人な売れないソングライターのBV(ライアン・ゴズリング)と親しくなり本物の愛を求め合う関係になる。一方、クックはレストランのウェイトレスのロンダ(ナタリー・ポートマン)を店で口説いて自分の女にして気ままな放蕩を続ける。そうしたなか、BVはフェイがクックと関係していたことを知ってフェイと別れてアマンダ(ケイト・ブランシェット)と付き合うようになり、それぞれの人生が複雑に絡み合いながら意外だがある意味とてもまっとうな結末を迎える。

■見どころ

マイケル・ファスベンダー、ルーニー・マーラ、ライアン・ゴズリング、ナタリー・ポートマンが演じる恋愛や裏切り不安と孤独のドラマがまるでドキュメントのように繰り広げられ流れてゆく。マーラ演じるフェイとゴズリングが演じるBVの視点を通して、クックに象徴されるエンターテインメント業界の栄華や孤独や虚無を浮き彫りにしているようにも見える。演技派俳優たちが繰り広げる演技は感性の赴くままに自由でしなやかでエモーショナルでスクリーンに引き込まれる。セリフは少なく脳裏に浮かんだ考えが独白のように声で流れる独特のスタイルは登場人物の思考の奥に迫っていく。
マリック監督やアルフォンソ・キュアロン監督など数多くの著名監督と一緒に仕事をしている撮影監督エマニュエル・ルベツキの映像はここでも素晴らしい。俳優の感情の動きを余すところなくとらえ、川や海や夕景などを繊細で美しく映し出す。この作品自体が映像と俳優たちの演技やセリフ、独白で構成された映像詩といった趣がある。
またロックミュージシャンのイギー・ポップや“パンクの女王”パティ・スミス、イギリスのミュージシャン、フローレンス・ウェルチなど有名ミュージシャンがカメオ出演しているのも見どころ。
マリック監督の「映像の哲学者」などといわれる独創的なスタイルは、その経歴に由来するとみられる。ハーバード大学で哲学を専攻して1965年に首席で卒業し、オックスフォード大学院に入学して哲学を学び、マサチューセッツ工科大学で哲学を教え、フリーのジャーナリストとしてニューズウィーク誌やタイム誌で記事を執筆していたという。その後、1970年代に「ダーティハリー」などの脚本を手掛け1973年に初の長編映画「地獄の逃避行」の監督・脚本を担当。1978年、「天国の日々」がカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞。その後パリに移住して公の場に姿を現さなくなり1998年に「シン・レッド・ライン」で20年ぶりに監督復帰。ショーン・ペンとブラッド・ピットが共演した「ツリー・オブ・ライフ」(2011年)でカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞した。その後は「聖杯たちの騎士」(2015年)、カンヌ国際映画祭でエキュメニカル賞とフランソワ・シャレ賞を受賞した「名もなき生涯」(2019年)など数々の作品で国際的に高い評価を得ている。今作はそんなマリック監督のエッセンスが詰まった作品といえそうだ。(2020年12月25日公開)