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「やすらぎの森」森の中で隠遁生活を送る老人たちのそれぞれの人生最終章

(2021年5月23日12:40)

 「やすらぎの森」森の中で隠遁生活を送る老人たちのそれぞれの人生最終章
「やすらぎの森」(東京・銀座のシネスイッチ銀座)

カナダ・ケベック州の人里離れた深い森の中の小屋で愛犬たちと静かに暮らす3人の老人男性と、そこに紛れ込んだ老女が悩みを抱えながらも自由に生きようとする姿を描いた愛と再生の物語。本作が遺作となった”ケベックのカトリーヌ・ドヌーヴ”と呼ばれたヒロイン役の名女優アンドレ・ラシャペル、本作でカナダ・アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたチャーリー役のジルベール・スィコット、同・助演男優賞を受賞したトム役のレミー・ジラール、テッド役のケネス・ウェルシュらの名優がそろい、ケベック在住の作家ジョリーヌ・ソシエの小説を原作に、ケベック出身のルイーズ・アルシャンボーが監督を務めて映画化した作品。

■ストーリー

森の中の湖のほとりにある小屋で年老いた3人の男性が愛犬と静かに暮らしていた。それぞれわけあって世捨て人になった3人は湖で泳いだり、愛犬を連れて森に仕掛けた罠で野ウサギを捕獲したりしながら自由気ままにその日を送っていたが、湖畔で絵を描いて過ごしていたテッド・ボイチョク(ケネス・ウェルシュ)は、自分の小屋で眠るように息を引き取っていた。残されたチャーリー(ジルベール・スコット)とトム(レミー・ジラール)はショックを受けるが2人で隠遁生活を続けていく。そうしたなか、2人に生活用品などを定期的に届けていたスティ―ヴ(エリック・ロビドゥー)は、精神科療養所にいる80歳の叔母のジェルトリード(アンドレ・ラシャペル)を外に連れだして息抜きをさせたときに、療養所には帰りたくないと泣きつかれ、チャーリーたちの小屋に連れて行く。思いがけない来訪者に戸惑うチャーリーとトムだったが、彼女はマリー・デネージュという新しい名前を名乗り森の生活に生気を取り戻し新しい人生をスタートする。そうしたなか、この森で起きた大規模な山火事で生き残ったテッドの行方を捜していた写真家のラファエル(エヴ・ランドリー)がスティーヴに案内されて小屋を訪れて調査をするうちに世捨て人たちの意外な過去が浮かび上がる。

■見どころ

森の中の湖のほとりにたたずむ小屋で社会に背を向けて気ままな生活を送る老人たちの生と死についての考えや自由な生活ぶりが繊細に抒情的に描かれている。年老いた3人の男性を演じる俳優たちがいぶし銀の演技を見せ、人生の晩年をどう生きるのかという切実な問題に、それぞれが自身で決断する生きざまに心が打たれる。精神科療養所に戻ることを拒否して森の中に新たな人生を見出す80歳の女性(ジェルトリート/マリー・デネージュ)を演じたカナダの女優アンドレ・ラシャペルも秀逸だ。気品のあるたたずまいで存在感を見せている。彼女は2019年10月21日、88歳で死去しこの映画が遺作となった。マリーは優しく接してくれるチャーリーに寄り添うようになり恋に落ちる。スコットとラシャペルの小屋でのベッドシーンは思わず息をのむ。官能的で美しく究極の安らぎを感じさせる。テッドの絵の隠された秘密の真相、トムの重大な決断とチャーリーとマリーの老いらくの恋の行方など人生の最終章の濃密なドラマに目が離せなくなる。
(2021年5月21日公開)