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「名も無き日」永瀬正敏、オダギリジョー、金子ノブオが兄弟の悲劇の闇と光を熱演

(2021年6月12日16:30)

「名も無き日」永瀬正敏、オダギリジョー、金子ノブオが兄弟の悲劇の闇と光を熱演
「名も無き日」(新宿シネマート)

本作の監督でカメラマンの日比遊一氏に起きた実話を元に3兄弟をめぐる壮絶なドラマを映画化した異色作。監督がモデルの主人公のカメラマン・達也役に永瀬正敏、次男・章人役にオダギリジョー、三男・隆史役に金子ノブオと実力派俳優が兄弟役で共演しているほか、真木よう子、藤真利子、今井美樹、岡崎紗枝、仲野英雄、井上順などのキャスト。

■ストーリー

ニューヨークでカメラマンとして多忙な日々を過ごしていた自由奔放な長男・小野達也(永瀬正敏)は、次男・章人(オダギリジョー)の突然の訃報に故郷の名古屋市熱田区に戻ってくる。東大とハーバード大を卒業した兄弟の中で最も優秀でまじめな章人にいったい何が起きたのか。帰郷した達也は熱田神社などでカメラを構えるが重苦しくのしかかるものを感じてシャッターを切れないでいた。三男の隆史(金子ノブオ)は兄の達也を気遣いながら自分も章人の突然の死を受止めきれずにいた。「何がアッ君をあんな風にしたんだろう?どう考えてもわからん」「本人にもわからんかったかもしれん。ずっとそばに、おったるべきだった」と達也は深い悔恨の念にさいなまれながら、カメラを手に過去の記憶をたどるようにして地元をめぐり、母親(藤真利子)や祖母(草村礼子)、友人の明美(今井美樹)らに再会しながら答えを探ししてゆく。

■見どころ

弟の突然の死という日比遊一監督の身に起こったことを基に自らメガホンを取った作品だけにリアルで、子供時代の兄弟の楽しかった日々などを回想シーンで挿入しながら、最愛の弟の死という重苦しさに覆われた主人公・達也を取り巻く人間たちとのやりとりを描き、次第に明らかにされてゆく章人の死の態様とそれを知った残された達也たちの悲しみが胸に迫る。永瀬正敏が弟を失い悲しむだけでなく自分を責める主人公の達也を繊細に重厚に演じている。また金子ノブオが末の弟を熱演。そしてオダギリジョーがエリートの人生から一転して絶望を味わう章人役で迫真の演技を見せている。

監督は11日の舞台あいさつで「もともと私は自分に起こった悲しい暗い物語を映画にしようとあいたわけではなく、やっぱり大切なひとを失った悲しみというものは乗り越えるものではなくて、そっと心の中で抱いていつまでも生き続けること。やはり悲しみとか喪失感というのはしっかり向き合ってこそ次の一歩が踏み出せるんではないか、そういう映画だと思います」などと語っている。(詳細は下の「舞台挨拶」)
日比遊一(ひび・ゆういち)監督は1964年生まれ。名古屋市出身。20歳で渡米後ニューヨークで写真家として活動。作品はアメリカのゲティ美術館をはじめ、世界各国の重要なコレクターに収集されている。2014年、「ブルー・バタフライ」で長編映画デビュー。高倉健を題材にした「健さん」(脚本・監督)が2016年の第40回モントリオール世界映画祭ワールド・ドキュメンタリー部門最優秀作品賞受賞。樹木希林が企画した映画「エリカ38」(脚本・監督)は主演の浅田美代子がロンドン・イースタジア映画祭2019」審査員特別賞を受賞した。
(愛知県、三重県、岐阜県で5月28日に先行公開され、6月11日から全国公開 )

■初日舞台挨拶

映画「名も無い日」の公開初日生配信舞台あいさつが11日、都内で行われ、主演の永瀬正敏(54)、オダギリジョー(45)、金子ノブアキ(40)と日比遊一監督が登壇した。フリーアナの松本志のぶが司会を務めた。(上の写真=㊧から金子、永瀬、オダギリ、日比監督=「名も無き日」の公式インスタグラム)

司会から撮影から3年を経て公開にこぎつけたことについて感想を聞かれて、4人それぞれの思いを語った。
永瀬は「あっという間だった気もしますし、やっと無事に公開できたという思いもありますし、ちょっとぐるぐるしていますね、心の中が」と現在の心境を語った。
コロナ禍で東京などでは映画館が一時閉鎖され1日に再開されたが「僕にとっては命みたいな場所ですから。そこを(コロナで)クローズされるというのはちょっと苦しかったですけど、でもまあ何とかこの作品を見て頂けるようになりましたし、この状況をポジティブにとらえられれば」と語った。

オダギリは「(3年前に)観て以来ですからね。ほぼ内容忘れていると思いますけど。(笑い)でも、だからこそもう1回観たいなと思ってますね。映画館は大変な状況が続いたと思うんで。でも映画館でしか得れない経験がありますし、家で観るよりは大きなスクリーンで観てもらいたいですね」と語った。

金子は「すごく鮮明に記憶に残っているのもあるので、あんまり時間がたった気はしないですね。監督もよくメールをくださったりしたので、つながったままでいたような気がするので。こうやって観て頂けるというのはうれしいですね」と語った。

日比監督は「(監督の)弟が死んで9年がたち、構想・原案から始めて6年がたち、撮影から3年たつわけなんですけど、その間、本当にもうここでダメかなと思ったことも何度もあるんですが、一言では言えないほどの多くの人たちの支援で、私自身もはいつくばってたどり着くことができました。そんな有志の人間たちの思いをしょって今日ここに立たせていただいています。映画というものはやっぱりお客さんに観て頂いてやっと完成するものだと思うので、今日この『名も無い日』が独り立ち出来たことが非常に誇りに思いますし感動しております」と全国公開にこぎつけたことを喜んだ。

監督自身に起きたことを題材にして、監督の実家での撮影も行い、亡くなった監督の弟が書いた手紙も撮影に使われた。
永瀬は「この物語を映画化するということは監督自身がかなりの覚悟がおありになったと思うんですね。撮影に入る前にいろんな話を聞かせて頂いて、現場では何か疑問点があればそこにいらっしゃるので力強く感じていました」と明かした。
「(監督の)ご自宅で撮影したときもそこからもらうこと、受け取ることもいっぱいあった気がしますね」「(章人が部屋にひきこもって)全然出てこなくて、ドアをけ破って話を聞くところがあるんですけども、ビンビンこっちに何かが伝わってきて。金子君は金子君で最初に(章人の訃報の)一報を受けて『遺体は弟だった』と告白するシーンで、金子君が涙を流しながらしゃべる。そこで何か心が震える感じがあって、監督を含めて最後の最後まで僕に役を作っていただいた気がしています」という。

オダギリは、亡くなった監督の弟が実際に住んでいた家で撮影したことについて「章人さんが生活されていた空間でしたので、軽い気持ちで入り込むことはできないですし、監督が強い覚悟で臨んでいることもありますし、それをすべてしょいたいなというか自分ができることをとにかく全身全霊かけてやらなきゃいけないなという強い気持ちはありました。それがもしセットだったらと考えると、また違うスタンスを取ったんだろうなと思います。やっぱり実家で撮影させていただいたことは明らかにいろんな力を与えてくれたと思いますね」と語った。

金子は「本当に言葉が見つからないような感覚で、映画を撮影しているというよりも、その記憶の中にいて、ということなので、ちょっと、まあ、もちろん何とも違うものですし、現場での監督のお姿を思い起こすだけで本当に胸に来る、今も皆さんの話を聞いて思い出してこみ上げるものを感じました。ぼくにとっても本当に貴重な経験でしたし感謝してます」

日比監督は「僕の人生の中でこれだけエキサイトであり、時に苦しく、内容の濃い時間を共に過ごしたことは本当に他の俳優さんにはなかったので、もう昨日のことのようにすべて覚えているんですけども(永瀬演じる達也が)、最後にシャッターを押すことが私と私の家族の新たな一歩になって、今日という日が弟の命日としてわれわれの心に刻まれたということを感じております。本当に親身になっていただいて、そのことを忘れませんね」
「あと章人を演じてくれたオダギリ君、毎回映画を観るたびにやさしい名古屋弁で話してくれるあのシーンを聞くたびに自分の弟のことを思い出すんですけども、忙しい中スケジュールを縫って参加してくれたわけなんですけれども、ある日突然真っ黒な液体を使って表現したいということを、文句ひとつなしにやってくれて(バスタブで頭からかぶる)。次の日に連絡をくれて『監督、今まで以上肌がつるつるになりました』。そういう優しさを本当に忘れません」。
あと。金子君、アッ君って呼ばせてもらってるんですけど、アッ君というのは僕の次男の章人のあだ名でもありました。それでこのストーリーの軸になっている熱田祭りというのは6月5日なんですけども、アッ君の誕生日でもありまして、それで一気に打ちとけるんですけども、彼の寛大さ、思いやりに、幾度となく現場でつらいときは彼の微笑みを見て助けられたなと今思い起こします。この夢のような3兄弟を横にしてこの日を迎えられてこの場にいられることが本当に改めて奇跡だと思いますし感謝の一言でしかありません」と語った。

永瀬は「今回はちょっと、仲良く終わったらご飯食べ行こうかというのりにはなかなかなりずらかったですけどね。ただお二人はお芝居を現場に持ってくる人ではないので、ちゃんと心を持っていらして、そこに存在する役者さんなので、本当の弟、僕は一人っ子なので弟ができた嬉しさもありつつ、いろいろな思いを彼らと現場でいただきましたね」

オダギリは「金子さんも永瀬さんもがっつり芝居をしたというのは今までなかったので、初めてといえるくらいなんですけど、すごくいい感じの兄弟だなあと思って。この3人がしっくり来ているのが現場でも考えていました」という。

金子も「僕も実生活では兄弟いないので、現場でも僕もお兄ちゃんができた、もう甘えちゃえみたいに身を預けていました。なので、本当に悲しいシーンも多いですけど、基本的には優しい時間がずーっと流れていたなというのが思い返せばありますね。穏やかな現場でしたね」という。

オダギリは「永瀬さんは映画俳優としてもあこがれていた人ですし、永瀬さんとは一緒の仕事がそんなになかったのが不思議なくらいだったので、今回初めて芝居を交わせる嬉しさみたいのがすごく大きかったですし、だからこそ、最高の答えを出したいという気持ちが起きました」と語った。

そして最後に4人がそれぞれの思いを語った。
永瀬は「いろんな人といろんな思いがすごい詰まった作品です。ぜひそれを大事に持って帰っていただければと思います。最後に僕はこの映画にはちゃんと光があると思っています。あと、天国の弟さんおめでとうございます」
オダギリは「とてもいろいろなものを受け取り感じることができる映画だと思うので、いろんな方に観て頂きたいですし、ぜひまわりの方にも勧めて広めて行ってもらえたらいいなあと思います。よろしくお願いします」
金子は「素晴らしい作品に参加させていただけて本当に光栄でしたし、忘れることはないと思います。これでいただいたものを胸に、いろんな経験を積ませてもらっているんですけど、見ている皆さんの中に何か残ったりすれば、いろいろありますけど前に進んでいくのにちょっとでもきっかけになれば、監督の本当に覚悟でありますし、をぜひ広まってくれればうれしいです」

そして日比監督は「もともと私は自分に起こった悲しい暗い物語を映画にしようとしたわけではなく、やっぱり大切なひとを失った悲しみというものは乗り越えるものではなくて、そっと心の中で抱いていつまでも生き続けること。悲しみとか喪失感というのはしっかり向き合ってこそ次の一歩が踏み出せるんではないか、そういう映画だと思います。セリフの少ない凝縮された俳句のような映画なので、もう一度観て頂いて、大切な人と、また家族と。それで自分の余白の中にそれぞれの人生と重ね合わせて、もう一度観て頂けたらなあと思っています。よろしくお願します」と締めくくった。