「クライ・マッチョ」監督50周年作品で見せたイーストウッドの新境地

(2022年1月12日22:50)

「クライ・マッチョ」クリント・イーストウッド監督50周年記念作品
「クライ・マッチョ」(©2021 Warner Bros.Entertainment Inc. All Rghit Reserved)(配給:ワーナー・ブラザース映画)

「荒野の用心棒」などのマカロニウエスタンや「ダーティーハリー」シリーズなどで俳優として活躍し、監督としては「許されざる者」と「ミリオンダラー・ベイビー」で2度アカデミー賞監督賞・作品賞を受賞したクリント・イーストウッド(91)の監督40作目で監督デビュー50周年記念作品。 イーストウッド演じるロデオ界の元スター、マイクがメキシコから10代の少年を連れ戻す仕事を請け負いメキシコで少年と会い2人で国境を目指すが、メキシコの警察や少年の母親の手下の追手が迫るなか決断を迫られる。N・リチャード・ナッシュの1971年の同名小説を原作に、イーストウッドが監督・主演・製作を務めた。

■ストーリー

アメリカのテキサス州でロデオ界のスターだったマイク・マイロ(クリント・イーストウッド)は、落馬事故以来数々の試練を乗り越えながら孤独な独り暮らしをしていた。ある日元雇い主のハワード・ポーク(ドワイト・ヨアカム)から、別れた妻のリタ(フェルナンデ・ウレホラ)に引き取られてメキシコに住む10代の息子のラフォ(エドゥアルド・ミネット)を連れ戻してほしいと頼まれる。誘拐まがいの危険な仕事だが、ハワードに恩義を感じているマイクは引き受けて単身メキシコに渡る。豪邸に住み屈強な男たちを配下にしているリタはマイクに息子は渡さないといいアメリカに帰れと一蹴する。それでもラフォを探し続けるマイクは闘鶏場で「マッチョ」と呼ぶ勇猛な鶏で稼いでいうラフォを発見する。男遊びに夢中な母親に愛想をつかして家を出ていたラフォはマイクの話に乗り、2人は車で国境を目指す。そんな彼らにメキシコ警察や母親の配下の追手が迫る。途中で立ち寄った田舎町の酒場の女主人マルタ(ナタリア・トラヴェン)に親切にされ、彼女と一緒に暮らす子供たちとも仲良くなるが、やがてマイクと少年はそれぞれの決断をする。

■見どころ

老人と少年のロード・ムービーといった趣もあり、2人が交流を深め、それぞれの夢や希望を抱いて繰り広げる道中はスリリングだが、一方でマイクとマルタがダンスを踊る情感たっぷりの癒しに満ちたシーンなど人間味にあふれている。イーストウッド扮するマイクが繰り出すシニカルなジョークや含蓄のあるセリフも見逃せない。老人が主人公なだけに「ダーティーハリー」や「許されざる者」、「グラントリノ」などの主人公の苛烈さや派手な銃撃シーンによるカタルシスはないかもしれないが、癒しや「真の強さ」について新境地を見せている。男らしさや強さを意味する“マッチョ”に憧れ自分の鶏に「マッチョ」と名前を付けたラフォにマイクが言う。「人は自分をマッチョに見せたがる。…全ての答えを知ってる気になるが、老いと共に無知な自分を知る。気づいた時は手遅れなんだ」。数々の作品で様々な人間を描いてきたイーストウッドの到達した境地を象徴するセリフではないだろうか。
(2022年1月14日公開)