「ゴヤの名画と優しい泥棒」ゴヤの名画盗難事件の実話を描いた笑いと感動の異色作

(2022年2月23日10:30)

「ゴヤの名画と優しい泥棒」ゴヤの名画盗難事件の実話を描いた笑いと感動の異色作
「ゴヤの名画と優しい泥棒」(2022年2月25日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開)(配給:ハピネットファントム・スタジオ)(©PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020)

ロンドン・ナショナル・ギャラリーで起きたフランシスコ・デ・ゴヤの名画「ウェリントン侯爵」盗難事件を映画化したサスペンス。プロの窃盗団の仕業かと思われたが、ふたを開けてみると犯人は一般市民の初老のタクシー運転手ケンプトン・ハントンだったことで世界を驚かせた。ハントンに「アイリス」(2001年)でアカデミー賞助演男優賞を受賞し、「マーガレット・サッチャー 鉄の女」(2011年)など数多くの作品に出演しているイギリスを代表する名優ジム・ブロードベント。その妻ドロシー・バントンに「クイーン」(2006年)でアカデミー賞主演女優賞を受賞したヘレン・ミレン。夫妻の息子役に「ダンケルク」(2017年)のフィオン・ホワイトヘッド、ケンプトンを弁護するジェレミー・ハッチンソンにマシュー・グードなどのキャストで、監督は「ノッティングヒルの恋人」(1999年)、「ブラッックバード 家族が家屋であるうちに」(2021年)などのロジャー・ミッチェル。同監督は2021年9月に65歳で死去し、この作品が遺作となった。

「ゴヤの名画と優しい泥棒」ゴヤの名画盗難事件の実話を描いた笑いと感動の異色作
「ゴヤの名画と優しい泥棒」(©PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020)

■ストーリー

1960年初頭のイギリス・ニューカッスルが舞台。1961年、世界に誇るロンドン・ナショナル・ギャラリーからゴヤの名画「ウェリントン侯爵」が盗まれる。ロンドン警視庁は「国際的なギャング集団による犯行」と発表し「おそらく元特殊部隊員」と指摘する。テレビでニュースを見ていたタクシー運転手のケンプトン・バントン(ジム・ブロードメント)は思わずむせてしまう。盗んだのは素人の自分でその絵は部屋のタンスに眠っているからだ。長年連れ添った妻のドロシー(ヘレン・ミレン)と息子のジャッキー(フィオン・ホワイトヘッド)と3人でイギリス北部のニューカッスルの小さなアパートで暮らしていたバントンは、年金受給者でテレビに細工をしてBBCが映らないようにしてBBCの受信料の支払いを拒否して2度逮捕され短期間だが刑務所に入れられた。BBCの受信料を無料にすることを訴えるためロンドンに行き新聞社などを訪ねるが門前払いされた挙句に名画窃盗を思いつく。そして「絵画を返してほしければ年金受給者のBBCテレビの受信料を無料にしろ」と脅迫状を警察に送りつける。そうしたなか、家に居候していた息子の友人の恋人に絵画を発見されて脅され、もともと金目当てではなかったことから、逮捕を覚悟で絵を返すことにする。そして裁判が始まるとケンプトンは裁判官に皮肉を言いジョークを連発するなどやりたい放題で傍聴人の爆笑を誘い、それがマスコミに報道されて市民はケンプトンを判官びいきするようになり裁判は感動的な結末を迎える。

■見どころ

公共放送のBBCの受診料を払いたくない一心で初老のタクシー運転手が起こした名画窃盗という前代未聞の事件が”強きをくじき弱きを助ける“という市民感情を呼び起こす実話を描いて感動を呼ぶ。法廷で無罪を主張するケンプトンの発言が時に辛辣に、またジョークを連発して、貧困により社会から切り離された高齢者のために弁舌をふるう姿にくぎ付けになる。信念を曲げない名画窃盗犯をジム・ブロードベントがしたたかに表情豊かに饒舌に演じて圧倒的な存在感を見せている。ヘレン・ミレンのいぶし銀のような演技も見ものだ。さらに、息子役のフィオン・ホワイトヘッドや弁護人役のマシュー・グードらが脇を固めている。実在のケンプトンは、テレビは貧困により社会から切り離された高齢者の孤独を救うと考え、BBCを無料で受信できるよう活動していた。そして名画盗難事件で「町の英雄」になったという。ケンプトンの奇想天外な行動や主張は事件の背景にある当時の社会の深層を浮かび上がらせる。
(2022年2月25日公開)