「キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性」キャスティングの先駆者の足跡と功績を追跡した目からウロコのドキュメント映画

(2022年4月18日20:15)

「キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性」キャスティングの先駆者の足跡と功績を追跡した目からウロコのドキュメント映画
「キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性」(東京・渋谷区のシアター・イメージフォーラム)

ハリウッドで長年活躍したキャスティングの先駆者マリオン・ドハティ(1923年~2011年)を中心に、一般的にはほとんど知られていないキャスティング(配役)の仕事の実態や映画製作に占める重要性、さらには数々の名作、話題作のキャスティングをめぐる目からウロコが落ちるようなエピソード満載のドキュメンタリー。(トム・ドナヒュー監督/2012年・米・89分)

ドハティは、従来の映画スターを中心のキャスティングを大胆に変えて、興行収入の面からのアプローチではなく、役ふさわしい演技ができるのか、俳優に潜在するポテンシャルにこだわり、舞台やショーの現場に足を運び、テレビドラマを見て、アル・パチーノやロバート・レッドフォード、ダスティン・ホフマン、ジョン・ボイドなど数多くの俳優を映画に出演させ成功させたことが描かれる。
ホフマンの「卒業」(1967年)、ホフマン、ボイドの「真夜中のカーボーイ」(1969年)やウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイの「俺たちに明日はない」(1967年)、ロバート・レッドフォード、ポール・ニューマンの「明日に向かって撃て!」(1969年)、パチーノとジーン・ハックマンの「スケアクロウ」(1973年)、デ・ニーロの「タクシー・ドライバー」(1976年)など1960年代後半から70年代にかけて製作された一連のアメリカン・ニューシネマのキャスティングに彼女が大きく貢献したことなどがわかり驚かされる。さらにはクリント・イーストウッドの「ダーティ・ハリー」(1作目1971年)シリーズなど枚挙にいとまがない。

インタビューはドハディ本人のほかに、パチーノ、デ・ニーロ、レッドフォードら今やハリウッドのレジェンドになっている俳優たちやマーティン・スコセッシ監督、クリント・イーストウッド監督、ウディ・アレン監督らハリウッドのトップ監督らが登場してドハディについて語るエピソードは圧巻でハリウッドの歴史そのものといっても過言ではない。アレン監督などは、人に会うのが苦手なのでキャスティングはドハディに任せていたと語る。ほかにもクリストファー・ウォーケン、グレン・クローズ、メル・ギブソン、ジョン・リスゴーやノーマン・ジュイソン監督、ピーター・ボグダノビッチ監督など多数の俳優と監督らが出演している。

ギブソンとダニー・グローヴァーが刑事役でバディを組んで大ヒットした「リーサル・ウエポン」(1作目1987年)シリーズのキャスティングのエピソードも出色だ。ギブソンの相棒役に黒人俳優のグローヴァ―を推して反対されたが、脚本に白人とは書いていないと主張しオーデイションを行わせるなど粘ってキャスティングした結果、人種を超えた絶妙なコンビぶりで映画は大ヒットした。

ドハディの目覚ましい活躍にもかかわらず、キャスティング・ディレクターの仕事が正当に評価されていないことにもスポットを当てている。当初はほとんどクレジットされなかったことや、アカデミー賞にキャスティング部門の賞がないことから俳優らがアカデミーに提案したが却下されたという。監督が最終的にすべてを決めるにしても撮影賞、編集賞、美術賞などがあるのにキャスティング部門がないのはおかしいとしている。

「彼女は明らかに映画界の水準を引き上げた。私自身も、いろいろな役に挑戦できたのは彼女のお陰だった」(ロバート・レッドフォード)、「彼女は唯一無二のとても特別な人だった」(クリント・イーストウッド)、「マリオン・ドハティのようなキャスティング・ディレクターの仕事はとても特別で,いつも映画の質にそのま繋がっていた」(グレン・クローズ)などマリオンへの賛辞(公式サイトから)は尽きない。
(2022年4月2日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開)