「エルヴィス」プレスリーの”光と影“を描き「早過ぎる死」の真相に迫った伝記映画

(2022年6月28日11:10)

「エルヴィス」プレスリーの”光と影“を描く迫真の伝記映画
「エルヴィス」(配給:ワーナー・ブラザース映画)(© 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.)

1977年8月16日、米テネシー州メンフィスの自宅で倒れ42歳の若さで死去した「キング・オブ・ロックンロール」ことエルヴィス・プレスリーのデビューから、マネージャーのトム・パーカー大佐に見い出されスーパースターへの階段を駆け上り、プリシラとの結婚、映画出演、1969年のラスベガス公演の成功から1977年の急逝までを描く伝記映画。「誰がエルヴィスを殺したのか」と様々な形で報じられた「早過ぎる死」の真相に迫っている。
「ワンス・アポン・ア。タイム・イン・ハリウッド」(2019年)などのオースティン・バトラーがエルヴィスの数々のヒット曲を劇中で歌い、エルヴィスを熱演している。エルヴィスを見出して売り出しコントロールしたらつ腕マネージャーのトム・パーカー大佐をトム・ハンクスが演じているほか、プリシラ役にオリヴィア・デヨング、友人の黒人ミュージシャン、B.B.キングにケルヴィン・ハリソン・Jrなどのキャストで、ニコール・キッドマンとユアン・マクレガーが共演した「ムーラン・ルージュ」(2001年)、レオナルド・デイカプリオ主演の「華麗なるギャッツビー」(2013年)などのバズ・ラーマンが監督・脚本・製作を務めた。
2022年製作・アメリカ・159分、配給:ワーナー・ブラザース映画、原題:「Elvis」。

■ストーリー

腰を小刻みに揺らしつま先立ちするセクシーな振り付けで熱唱し若い女性を熱狂させたエルヴィス(オースティン・バトラー)は、トム・パーカー大佐(トム・ハンクス)がマネージャーについて瞬く間に全米のスターになる。一方、黒人の音楽リズムアンドブルースと白人のカントリー・アンド・ウエスタンを融合させたといわれる画期的なスタイルが、人種差別が根強く残っていた当時のアメリカの保守層やPTAから批判され、下半身を動かすと逮捕されるといわれる。警察の監視下で行われたコンサートで、エルヴィスはそれを無視してトレードマークの腰を振り激しいアクションで熱唱してフ女性ファンを熱狂させるが逮捕されてしまう。その後、1958年に徴兵されて西ドイツの米軍基地に勤務した時代、そこで出会ったプリシラとの恋愛と結婚、さらには1960年の除隊と復帰や映画出演。そして1969年のラスベガスのホテルでの公演が大成功を収めたことでパーカー大佐は、ホテル側と長期公演の密約をかわす。一方、エルヴィスは海外進出を熱望するがパーカー大佐は猛反対してエルヴィスの計画を潰してしまい、2人の亀裂が深まっていくが、その後のエルヴィスの運命を左右する予想外の展開が待ち受ける。

■見どころ

エルヴィスが13歳のときに引っ越してきたテネシー州メンフィスは黒人労働者が多く、エリス公会堂のゴスペルショーに通い、黒人の音楽を聴いて育ち、後に「キング・オブ・ブルース」と称された黒人のシンガーソングライターでギタリストのB.B.キングと親しくなるなど、エルヴィスの”ルーツ“が描かれている。そして激しく腰を揺らす歌唱スタイルが批判的な人々から「Elvis the Pelvis(骨盤のエルヴィス)」といわれ、ついには「指一本動かしたら逮捕」と言われる。それに反抗して激しく動くステージを強行して逮捕されるという反骨精神も見せる。ビートルズやボブ・ディラン、エルトン・ジョン、クイーンのフレディ・マーキュリーらが憧れ影響を受けたといわれる「キング・オブ・ロックンロール」の全貌がスクリーンに甦る。バトラーがエルヴィスの「監獄ロック」や「ハウンド・ドッグ」、「ハートブレイク・ホテル」「好きにならずにいられない」などの数々のヒット曲を歌う熱狂的ステージは圧巻だ。
そしてエルヴィスとパーカー大佐の2人の蜜月時代から確執までの関係を軸にして、舞台裏を描いているのも見どころになっている。1968年にエルヴィスがTVスペシャルで復活した後、1969年のラスベガスのホテルでのショーが大成功をおさめ、エルヴィスの新たな伝説を作るのだが、パーカー大佐がホテル側と長期公演の密約を交わすシーンは衝撃的だ。エルヴィスは海外ツアーの夢を潰されて精神的に崩壊し処方箋薬を乱用するようになる。「パーカー大佐はプレスリーのラスベガスでの長期公演契約を結び、彼の勢いと魅力を消した」(米紙ニューヨーク・ポスト)。
エルヴィスは1977年8月17日、メンフィスのグレースランドと呼ばれた広大な敷地にある邸宅で倒れて意識不明になり、病院に救急搬送されて手当てを受けたが約1時間後の同日午後3時(日本時間17日午前5時)に死去した。42歳の若さでの「帝王」の急逝は全米に衝撃を与えた。その数年前から疲労気味で休養のために数回入院していたことも描かれている。同年4月には米誌「ナショナル・エンクワイラー」が甘党のエルヴィスがドーナツを食べ過ぎて激太りしたうえにドラッグに溺れていたと報じていた。さらにはエルヴィスの愛人と報じられたジンジャー・アルデン(当時20)とケンカしてエルヴィスが部屋で拳銃を乱射したといわれる事件なども描かれている。今回その背景にあったとみられるエルヴィスとパーカー大佐の確執が詳しく描かれているところが注目される。そしてパーカー大佐の衝撃的な過去が浮上する。また妻のプリシラ・プレスリー(オリヴィア・デジョン)やエルヴィスの両親との関係なども描かれエルヴィス映画の決定版ともいえるミュージック・エンターテイメントになっている。
(2022年7月1日公開)