「わたしは最悪。」レナーテ・レインスヴェが”最悪な私”を熱演してカンヌ女優賞を受賞したラブストーリー

(2022年6月30日11:30)

「わたしは最悪。」レナーテ・レインスヴェが”最悪な私”を熱演してカンヌ女優賞受賞したラブストーリー
「わたしは最悪。」(© 2021 OSLO PICTURES - MK PRODUCTIONS - FILM I VÄST - SNOWGLOBE - B-Reel – ARTE FRANCE CINEMA)

第74回カンヌ国際映画祭で主演のレナーテ・レインスヴェが最優秀女優賞を受賞し、アカデミー賞で脚本賞と国際長編映画賞にノミネートされた。主人公ユリアの20代後半から30代前半の波乱に富んだ恋愛と人生を描いたノルウェーの「異彩を放つラブストーリー」。監督は「母の残像」(2015年)、「テルマ」(2017年)などで知られるノルウェーの奇才ヨアキム・トリアー。
2021年/ノルウェー・フランス・スウェーデン、デンマーク/カラー/128分/配給:ギャガ/英題:The Worst Person in The World

「わたしは最悪。」レナーテ・レインスヴェが”最悪な私”を熱演してカンヌ女優賞を受賞したラブストーリー
「わたしは最悪。」(© 2021 OSLO PICTURES - MK PRODUCTIONS - FILM I VÄST - SNOWGLOBE - B-Reel – ARTE FRANCE CINEMA)

■ストーリー

学生時代は成績優秀でアート系の才能や文才もあるが、「これ」という道が見つからないまま、オスロの書店でアルバイトをしているユリア(レナーテ・レインスヴェ)は、ある日パーティーでグラフィックノベル作家として成功していたアクセル(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)(上の写真㊨)と出会い恋に落ち、同棲生活を始める。アクセルは子供を欲しがるが、ユリアは彼との生活で脇役になっていく自分に違和感を抱き始める。ある日アクセルを残してパーティーから抜け出したユリアは、街を歩きながらたまたま遭遇した見知らぬ人たちのパーティーに潜り込み、若くて魅力的な男性アイヴィン(ハーバート・ノードラム)(下の写真㊧)に自ら近づいて話しかけ、お互いにパートナーがいることを知りながらも、どこまでが浮気かなどといった話をしながらじゃれあい強く惹かれあうが、その日は余韻を残したまま別れる。
そうしたなか、ユリアは突然アクセルに別れを告げ、やり直そうと説得されるが気持ちは固かった。その後、偶然店を訪れたアイヴィンと恋に落ちて同棲するようになる。今度こそ自分の人生の主役の座をつかもうとするのだが、予期せぬ妊娠をめぐってユリアは大きく揺れ動く。

「わたしは最悪。」レナーテ・レインスヴェが”最悪な私”を熱演してカンヌ女優賞を受賞したラブストーリー
「わたしは最悪。」(© 2021 OSLO PICTURES - MK PRODUCTIONS - FILM I VÄST - SNOWGLOBE - B-Reel – ARTE FRANCE CINEMA)

■見どころ

英題が「The Worst Person in The World」(世界最悪の人)というのでどんな悪女が登場するのかと思ったが、主人公のユリアは「私は最悪」と思いながらも、自分の考えと感性に正直で、積極的に恋愛し、男性の言うがままに生きることを拒否して自然体で自分の納得いく人生を選択していく危うさをはらみながらも魅力的な女性だった。突然別れを切り出された男は混乱し思い直すよう説得するがユリアは振り切って去ってゆき、男はそれを認めるしかない。その過程は危うさや暴走もはらみながらもしたたかなヒロイン像を形成し、レナーテ・レインスヴェが奔放に大胆なラブシーンも見せて魅力的に熱演して存在感を見せている。アイヴィンとの会話の中で、ユリアは「勃起する前が好き」と語る。「自分がその状態を創造する」からだという。そんな言葉を外連味なく言うところにユリアの真骨頂があるように見えた。また、同棲中のアクセルにコーヒーを入れてもらっているときに時間が止まり、車や歩く人たちがフリーズしている中、オスロの街を走ってアイヴィンの家に行くファンタジックなシーンなど、斬新な映像が散りばめられ、次に何を言い出すのかどう行動するのか予想がつかないユリアの自分探しの旅に最後まで目が離せない。

「わたしは最悪。」レナーテ・レインスヴェが”最悪な私”を熱演してカンヌ女優賞を受賞したラブストーリー
「わたしは最悪。」(© 2021 OSLO PICTURES - MK PRODUCTIONS - FILM I VÄST - SNOWGLOBE - B-Reel – ARTE FRANCE CINEMA)

トリアー監督は本作について次のように語っている。「今この時、僕の人生において、心の底から語りたい物語は何だろうと考えた。そしたら、こんな人生を送りたいという夢と、実際はこうなるという現実に、折り合いをつけるというストーリーが浮かんだ。そしてユリアというキャラクターが閃いた。自然体の女性で、自分を探し求めると同時に、自分を変えられると信じている。でも、突然、時間と自分自身の限界に向き合うしかなくなる。人の一生でできることは無限ではないけれど、僕は彼女の強い願いには共感している」

(7月1日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ他全国順次ロードショー)