「新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり」 パリ・オペラ座のダンサーたちの苦闘と華麗な舞踏を描いた迫真のドキュメント

(2022年8月16日12:40)

「新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり」 パリ・オペラ座のダンサーたちの苦闘と華麗な舞踏を描いたドキュメント
「新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり」 (© Ex Nihilo – Opéra national de Paris – Fondation Rudolf Noureev – 2021) エトワールに任命されたパク・セウンを抱きしめ祝福するポール・マルク

コロナのパンデミックで閉鎖されていたパリのオペラ座のダンサーたちが3か月の自宅待機を経て2020年6月15日にレッスンが再開される。そこから始まるダンサーたちの過酷なレッスンや復活公演に密着したドキュメンタリー。
パリ・オペラ座バレエのダンサーの最高位であるエトワールのマチュー・ガニオ、ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェ、アマンディーヌ・アルビッソンたちが登場してレッスンで華麗な舞を披露しインタビューに答えている。
監督のプリシラ・ピザートは、ソルボンヌ大学、パリ政治学院で学位を取得後、2001年よりラジオ、テレビで報道のキャリアをスタート。フランスのテレビ局、France5の文化番組「Ubik」、Arteの「Metropolis」で番組プロデューサーを担当。2007年には音楽界の巨匠、指揮者のウィリアム・クリスティを題材にしたドキュメンタリー映画「Baroque Académie」の脚本と共同監督を担当するなど文学やダンスに関するドキュメンタリーを精力的に制作している。今作はフランス国際ドキュメンタリー映画祭観客賞、第40回モントリオール国際芸術映画祭正式出品作品。
(2021年/フランス/73分/原題:Une saison (très) particulière/配給:ギャガ)

「新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり」 パリ・オペラ座のダンサーたちの苦闘と華麗な舞踏を描いた迫真のドキュメント
「新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり」 (© Ex Nihilo – Opéra national de Paris – Fondation Rudolf Noureev – 2021) 舞踏監督のオーレリー・デユポン(右手前)

■ストーリー

2020年6月15日、3か月の自宅待機を経てパリ・オペラ座バレエのダンサーたちのレッスンが再開される。ソーシャルディスタンスを取り、マスクを着けながらという、かつて経験のない状況下でのレッスン。「1日休めば自分が気づき、2日休めば教師が気づく、3日休めば観客が気づく」といわれ、エトワールのマチュー・ガニオは「まさにその通り」と語る。ダンサーとしての肉体を取り戻していくところから始まり、やがて本格的に踊りだす。
そして年末の復活公演の演目は、”オペラ座の宝“といわれるヌレエフ振り付けの超大作「ラ・バヤデール」に決まる。エトワールのユーゴ・マルシャンが、フロア狭しと跳び回りブランクを感じさせない華麗なダンスを見せると、舞台監督オーレリー・デユポンの「最高よ、ユーゴ」の声が飛ぶ。エトワールのアマンディーヌ・アルビッソンがしなやかな身のこなしで踊り、エトワールのジェルマン・ルーヴェがエネルギッシュなダンスを見せ舞台監督は「とてもいいわ」。
ところが開幕4日前、パリ・オペラ座は再び閉鎖され公演は中止に。「バレエ団との契約は42歳で終わる。僕らの体の生物学的な時間との戦いだ」とユーゴは不安を吐露する。その後、一夜限りの無観客公演が決まる。「この公演は1回限りの配信で初日が千秋楽となる」と告げられ「これほどの高揚感は初めてだ」とダンサー。そして公演の幕が開く。

「新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり」 パリ・オペラ座のダンサーたちの苦闘と華麗な舞踏を描いた迫真のドキュメント
「新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり」(© Ex Nihilo – Opéra national de Paris – Fondation Rudolf Noureev – 2021)(エトワールのアマンディーヌ・アルビッソン=中央)

■見どころ

エトワールと呼ばれるダンサーたちが本番までの特別なシーズンのレッスンで、また本公演で見せるダンスを余すところなく描き切る。ダンスを終えて舞台のそでに戻ったダンサーがまるで100メートルを疾走したランナーのように激しく息をするシーンもある。舞台を跳びまわりしなやかにまた激しく踊り肉体を駆使するダンスは圧巻。まさに肉体で表現する芸術ということがわかる。そして「ラ・バヤデール」の公演が成功し、ブロンズ・アイドルを踊ったポール・マルクが公演終了直後の舞台上で新たにエトワールに任命される。さらにその後の有観客での再開となった「ロミオとジュリエット」の公演後にパク・セウンがエトワールに任命されるなど、芸術の殿堂パリ・オペラ座の新たなる歴史の幕が上がる。

「新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり」 パリ・オペラ座のダンサーたちの苦闘と華麗な舞踏を描いたドキュメント
「新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり」のポスター(© Ex Nihilo – Opéra national de Paris – Fondation Rudolf Noureev – 2021)

■プリシラ・ピザート監督のコメント。(公式サイトから)

350余年前、ルイ14世によって設立されたパリ・オペラ座は、単なる施設ではありません。エッフェル塔やルーブル美術館と同じように、フランス文化の象徴です。そして、そのバレエ団は世界で最も権威のあるバレエカンパニーのひとつです。

パリ・オペラ座バレエの154人のダンサーは、世界中の観客に向けて180回以上の公演を毎年開催してきました。しかし、2020年3月12日、伝統的な公演歌劇場であるガルニエ宮、近代的なオペラ・バスティーユの扉は3か月間閉鎖されたのです。これは、パリ・オペラ座の歴史の中でも唯一無二の瞬間でした。最も厳しい訓練を必要とし、通常1日7時間踊るダンサーにとって、リハーサル・スタジオや観客から遠く離れて過ごす経験は初めてのことでした。

パリ・オペラ座は、特にバレエという独特な芸術形態であるという理由から、フランス国内でも最初に閉鎖された場所のひとつであり、最後に再開される場所でした。そのため、パリ・オペラ座バレエの復帰は、非常に特別で特異な道のりだったのです。ダンサーは、振付指導者とともにリハーサルを繰り返し、舞台に立ち、観客と交流することで成長する素晴らしいアーティストです。彼らはどのようにして長い隔離の後、スタジオと舞台に戻ったのか、そして、どのような身体状態、精神状態だったのか…。

本作は、パリ・オペラ座でのレッスンに戻ってきた瞬間から観客との再会までのダンサーに同行することで、パリ・オペラ座バレエの歴史におけるこの特別な瞬間を目撃することを目的として撮影をしました。バレエ団芸術監督のオレリー・デュポンは、クラスとリハーサルの様子から、初日とその舞台裏に至るまでの撮影を許してくれました。そのような瞬間にダンサー達が表現しうる儚さを考えるなら、そのような許可は非常に稀なものです。我々同様、ダンサーたちは我々がこの物語を語り継ぐためにそこにいなければならないことを納得してくれたのです。

バレエの歴史の中で唯一の瞬間を目撃し、スタジオに戻った初日から、パリ・オペラ座の再開、ルドルフ・ヌレエフ版『ラ・バヤデール』のリハーサルから本番まで、そして有観客での再開となった演目『ロミオとジュリエット』までのダンサーたちの姿を追った作品となりました。

私が目指したのは、カンパニーの歴史の中で唯一の瞬間の熱気をとらえ、ダンサーと彼らの芸術、そしてダンサーと観客の間の絆を語り継ぐことでした。そして、劇場やホールという、人々が集い、感動を分かち合い、呼吸を合わせる貴重な場所が、パンデミックの影響を受けていることを、ダンサーの身体、そしてカンパニーの全体を通して証明することなのです。
(8月19日(金)Bunkamuraル・シネマ他全国順次公開)