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映画
橋本愛、是枝裕和監督との対談で「女優開眼」を語る 国際交流基金・東京国際映画祭共催の交流ラウンジ
(2022年10 月31日20:30)
第35回東京国際映画祭のアンバサダーを務める橋本愛(26)と是枝裕和監督(60)が31日、同映画祭と国際交流基金との共催による「交流ラウンジ」でトークショーを行い、映画界の改革などについて語り合い、橋本は自身の“女優開眼”の秘話を明かした
是枝監督から芸能界にデビューした時について「そのときお芝居することを職業にするという明確な気持ちはあったんですか」と聞かれ、橋本は「全くなかったです。辞めるつもりでいたというか、中学生だったので、今しか生きてないですし、自分がやりたいと思って飛び込んだ仕事ではなかったです。流されてきたという感じだったので。おばあちゃんになってもこの仕事をしているという想像は全くなくて、それができたのはここ3年か5年ぐらいです」と明かした。
”女優開眼“するきっかけになったのは、成島出監督の「グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~」(2020年)に出演したときだったという。「改めて一から教えてもらったんですね、お芝居を。これまで本当にこうじゃないこうじゃないと思いながらも、誰にも教わることもなく、研究はしてはいたけど、やっぱり違う、お芝居できていないというジレンマがすごくあって。成島監督とも現場でうまくできなくて、そしたら専門的な観点から、メソッドだとか、お芝居というものを改めて原始的なところから教えてもらって、そこからすごくやりやすくなって。私が理想としていたお芝居から全く真逆なことをしていたんだな、才能がなかったんだなと思ったし、逆に才能がなくてもちゃんとやればできることなんだと自信がどんどん培われて行ってという感じですね」という。
■橋本「成島監督に『本当に下手だね』って」
「お芝居ができていない感覚っていうのをもう少し」と言われて、「わたしの好きなお芝居は満島ひかりさんだったり深津絵里さんだったり、樹木希林さんもそうですけど、本質的な表現をされる方が理想で。私はその点でいうと『ウソをつきたくない』というのがずっとあったんですね10年間。ただ、ウソをつかないからこそ、本当に生まれるものが何もない。だから他者になるというのがどう頑張ってもできなかった。でも中途半端に評価されてきたから、いまさら一からというのもありましたし、できる顔をしてなきゃいけないとか、そういう自分のギャップとかがあって、初めて成島監督に『本当に下手だね』って。その時、やっぱりそうですよねって。それでやっと開けたというか」と語った。
是枝監督が「なかなかキャリアのある女優さんに『下手だね』っていいにくいんだよね。でもすれが時には大きな開眼につながるときがあるんだよね」というと「下手って言われたくない人はそこまでじゃないんでしょうか。私は言ってほしかった」。
さらに「ウソをつきたくないというのは?」と聞かれ「そう思っていますというふりをしたくなかったし、多分そのスキルがなかった。その方法が分からなくてその方法が分からなくてずっと悩んでいた。だから私が今何を思っているしか映ってないな。できないなあみたいな」と説明した。
是枝監督は、橋本がクラス委員の重要な役で注目された「告白」(2010年)について、「中学生のころ『告白』(がありますよね。中島(哲也監督)さんが撮ったんですけど、橋本愛という存在をどう撮るかっていうところで、非常に印象が強く、多分それを求められるのが続くというのがあっても仕方がないというか、そういう時期もあったと思うんですけど、そこから自分の芝居で動くように考えていくというのは本当にいいですね。いい流れですね」と是枝監督。
橋本は「最近10代の20代の方が、ものすごい芝居するのを観て本当にすごいなと思いますし。自分はマイナスからのスタートだったかなと思ったですね」と語り、是枝監督は「オーデイションやってて10代の子たちと会っていてもわかるんですけど、すごくベースが上がってるのは感じますね。事務所でそういうトレーニングしてるのかな。そういうワークショップでやってるのか。手馴れてしまうとよくないんですけど、基本的に上手になっているちうのはこの10年で感じます。それはいいことだなと」と語った。
■是枝監督「韓国で仕事をしてみて現場はとにかく穏やか」
今年で2年目になるアンバサダーとして映画祭に関わることについて是枝監督から聞かれて、橋本は「アンバサダーと言ってもそんなに出番があるわけじゃないんですけど、記者会見だったりで、俳優として、またこういった現場に参加する者として、自分の思っている気持だったり、意見みたいなものを発信していく場として取り組んだんで、すごい緊張したんですけど、とても良い反応が返ってきたことはすごく有意義なものになりました。一個人の気持ちを発信しても皆さん受け入れてくれるんだなというのは発見でした」と語った。
「日本全体で世界全体で変わっていかなければいけないという意識がとても高まっている中で、微力ですけれど一つの声として自分の声がそこに加担しているということは自分自身にできる本当に少ない行動の一つだなと思っていて、それに対して皆さんがちゃんと受け入れてくださったのは今の時代の流れということを感じました」という。
そして「現場のハラスメントの存在だったりとか、労働環境の問題だったりとかというのは皆さん敏感に感じ取ってくださっていて、それについて自分が発信したことについて、勇気をもって発信してくださったんだなと受け止めてくださったりとか、声を上げ続けることの大切さとかも皆さん感じ取ってくださった」と語った。
是枝監督は「改革をしなければという意識は強く持ってるつもりなんですけれど、上の上の上の世代なんですけど、責任もありますしそこは取り組もうと思っています」といい「個別の具体的な体験を語るのは難しいと思うんですが、今出演する側から見て、一番ここを変えたほうがいいんじゃないかと感じている部分はなんでしょう?」と質問した。
橋本は「夢の話かもしれませんが、撮影期間が短いというのが率直な感想です。睡眠時間だったり休息の時間とお仕事の時間のバランスがもう少しよくなってくると、きっとアウトプットの精度も上がるだろうし、自分もそうですけど、スタッフさんたちの方が自分よりもっと長く働いていらっしゃるので、現場が終盤になってくると皆さんが精力が落ちてくるのが目に見えてくると、2日ぐらい休みを取って新たな気持ちで臨めたりすると、効率もよくなるんじゃないかなと思います」と撮影現場の労働環境について指摘っした。
是枝監督は「まずは本当に僕もそこだと思っていて、ハラスメントの問題はいろいろありますけど、韓国で仕事をしてみて(韓国映画「ベイビー・ブローカー」を監督)、現場はとにかく穏やかで、それは休みが多くてちゃんと寝てちゃんと食べてるんで、そうすると人は怒鳴らなくなる。(笑い)正直いって監督って『撮りたい』っていう人ばっかりだから、基本的には。こんなに休んでモチベーションは維持できるんだろうか。自分の中で乗っちゃったので1日休んで大丈夫なのかなと最初は不安になるんだけど、休んだ方がやっぱり効率が良くなる。そこはある種の精神論というか幻想があるんだけど、そこに頼ってたんでは改革が進まないから、変えていった方がいいと思っているので」と語った。
「韓国では主な休みの日の曜日が決まっていて、毎週そこは絶対休みになる。そうするとスタッフもキャストもそこに別の予定を入れられる。それ以外に撮影の状況を見ながら休みになり、それがつながると最大で3連休になるんですよ。そうすると、地方の撮影でもソウルに家族と暮らしている人はソウルに帰ったり、逆にソウルから家族を呼んで済州島で過ごしたり。スタッフも完全にリフレッシュする。日常生活の中に撮影があって、その延長線上に作品ができる。日本だと撮影が始まったら祭りだからみたいに、寝食共にして寝ずに文化際ののりで作っていく。ある種の面白さというか、多分好きで仕事についてやってる人たちがまだ多い。でもフランスや韓国では確実にそれは無意味で、働く人たちにとっては8時間、もしくは10時間で家に帰れる方がいいに決まってる」と韓国での撮影の体験について明かすなど、映画監督として女優として映画界をリードする2人ならではのトークセッションが展開された