「ザリガニの鳴くところ」湿地帯で暮らす孤独な少女の驚異のサバイバル・サスペンス

(2022年11月29日11:30)

「ザリガニの鳴くところ」湿地帯で暮らす孤独な少女の驚異のサバイバル・サスペンス
「ザリガニの鳴くところ」(11月18日(金)より全国の映画館で公開中)(配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)

ノースカロライナの湿原地帯で1人で暮らす無垢な少女が殺人事件の容疑者として逮捕され、彼女の稀有な生い立ちや街の青年との関係などが明らかになっていくサスペンス。全世界で累計1500万部を超えるベストセラーとなった動物学者ディーリア・オーエンズのミステリー小説の映画化。
街から離れた湿原地帯で生活し交際していた青年を殺害した容疑で逮捕されで裁判にかけられるヒロインの美少女カイアにデイジー・エドガー=ジョンズ、カイアと恋に落ちる青年テイトにテイラー・ジョン・スミス、テイトと破局後にカイアと交際し、変死体で発見される裕福な家庭に育った青年チェイスにハリス・ディキンソンなどのキャスト。
監督のオリヴィア・ニューマンはサンダンス脚本家・監督ラボの卒業生で、彼女の手掛けた短編映画はニューヨーク映画祭、パームスプリングス国際短編映画祭など数多くの映画祭で上映された。Netflixが出資・配給した「ファースト・マッチ」(2018年)で長編デビューし、SXSW(毎年3月に開催される音楽祭・映画祭などの大規模イベント)の映画祭で観客賞(最優秀長編作品賞)を受賞するなど高い評価を受けて本作に抜擢された。
「ウオーク・ザ・ライン/君に続く道」(2005年)でアカデミー賞主演女優賞を受賞し、プロデュ―サーとしても活躍する女優のリース・ウィザースプーンが原作に魅了され自ら映画化権を獲得して製作に参加した。またテイラー・スウィフトが原作を愛し自らオリジナルソング「キャロライナ」を提供している。
2022年/アメリカ/125分/原題:Where the Crawdads Sing/配給:ソニー・ピクチャーズエンターテインメント

「ザリガニの鳴くところ」湿地帯で暮らす孤独な少女の驚異のサバイバル・サスペンス
「ザリガニの鳴くところ」

■ストーリー

1969年、ノースカロライナの湿地帯で、裕福な家庭に育ち将来を期待されていた青年チェイス(ハリス・ディッキンソン)の変死体が発見され、警察は湿地で一人で生活している少女カイア(デイジー・エドガー=ジョンズ)を殺人容疑で逮捕する。カイヤを幼いころから目にかけていた弁護士のトム・ミルトン(デヴィッド・ストラザーン)が同情して弁護を引き受ける。そうしたなか、カイアの数奇な生き様が明らかにされていく。6歳の時に両親に見捨てられ、たった一人で”ザリガニが鳴くところ“といわれる広大な湿原地帯の一軒家で育つ(幼少時代は子役のジョジョ。レジーナ)。彼女に親切にする釣り具店を営む黒人夫婦に勧められて学校に行くが、「湿地の女」とあざけられ学校に行くことをやめ、自然に溶け込みながら生きるすべを身に着けて生き抜いていた。
そんな彼女に惹かれた心優しい青年テイト(テイラー・ジョン・スミス)に読み書きを教えられるうちに恋に落ちるが、彼は大学に進学。独立記念日に戻り一緒に海岸で花火を見る約束をするが彼は現れず悲しみに暮れる。その後彼女に接近してきた裕福な家庭の青年チェイスと恋に落ちるが、婚約者がいることが分かり激怒したカイアは別れを告げるが、チェイスは執拗に付きまとい拒絶する彼女に暴力をふるうようになる。そして、湿地で変死体となって発見される。チェイスが前日まで身に着けていたネックレスがなくなっていたことが判明するが、めぼしい証拠もないまま、警察はカイアを殺人容疑で逮捕して裁判が始まる。

「ザリガニの鳴くところ」湿地帯で暮らす孤独な少女の驚異のサバイバル・サスペンス
「ザリガニの鳴くところ」

■見どころ

父親のDVに耐えかねて、母親や兄弟が家を出ていき、やがて父親にも見捨てられ人里離れた湿原地帯の1軒屋で暮らすカイヤの数奇な人生のドラマが胸を打つ。幼少のころから少女へと成長し、街の釣具店の夫婦に助けられながら、テイトやチェイスと純粋に恋をする少女カイヤ。だがテイトは大学に進学して約束していた日に故郷に戻らず、チェイスには裏切られ、人々からは蔑まれるなかで殺人容疑をかけられる少女をデイジー・エドガー=ジョンズが熱演。
彼女の美しさや自然との共存、そして豊かな自然から、冷たい世間や男の欲望や暴力から多くのものを学び、知性的で強く賢い生き様に魅了される。また、彼女にかけられた疑惑に理不尽を感じる正義の弁護士トムの法廷での冷静で合理的な弁論に感情移入する。
カイアのサバイバル人生のドラマと、殺人罪に問われたカイアの裁判でのトム弁護士と検察側の攻防、証人たちの証言など緊迫の裁判ドラマの2つが絡み合って、見ごたえのあるサスペンスとヒューマンドラマになっている。そして最後に待ち受ける結末は衝撃的だが、それまでにいくつかの伏線もあるように思えて、腑に落ちるものがあった。

「ザリガニの鳴くところ」湿地帯で暮らす孤独な少女の驚異のサバイバル・サスペンス
「ザリガニの鳴くところ」



■原作者が語る「ザリガニが鳴くところ」の原点

原作者のディーリア・オーエンズは野生動物学者で20年以上アフリカで暮らしながら動物を研究し、自身の観察結果や経験を共著者としてまとめた3冊のノンフィクション作品はベストセラーになっている。リタイア後に初めて書いた小説が同作でその原点となった経験を明かしている。
「私のこれまでの人生が行きついた先がこの物語でした」といい「この本にいたるインスピレーションを私が受け始めたのは子供のころです。私は本物の森の中で育ちました。本物の森ですよ。ごく幼い頃、母が森の中に行くよう背中を押してくれていました。できるだけ森の奥深くまで入って行きなさいって。『はるか遠く、ザリガニの鳴くところまで行きなさい』と言っていたのが私の母なんです。もちろん、ザリガニは鳴きません。母が言いたかったのは、自然の中の自然を経験しなさいということ。大自然のずっと奥深くまで一人で入って行くと、そこはもう自分と自然しか存在しない。そこはザリガニの鳴き声が“聞こえる”んです。」

■カイア役のデイジー・エドガー=ジョンズ

カイアを演じたデイジー・エドガー=ジョンズは「私が特に気に入っているのは、カイアの(逆境を跳ね返し)立ち直る力です」と語る。「彼女とチェイスの関係は、仲たがいしたまま終わります。湿地でチェイスの遺体が発見された後、カイアは彼を殺した罪で裁かれます。裁判の間、すべての人の目が彼女に注がれますが、そんな状況でも、彼女は信じられないほどの回復力と強さを見せる死、静かな好奇心や自然界とのつながりを保ち続けるんです」といい「自然に悪はない、生き抜くための独創的な方法があるだけだ、とカイヤは言います」「家族がないがしろにされ、誰もが自分から去っていった。そんな苦しみを抱えるカイアにとって、唯一ずっと一緒にいてくれたのが自然でした。自然はいつもそばにいてくれた。彼女にとって自然が家族だったんだと思います」と語っている。

■オリヴィア・ニューマン監督

監督のオリヴィア・ニューマンは「作品の中心にいるのは、これまでスクリーン上では見たことのない、素晴らしいヒロインです。彼女は傷つきやすく感情的であると同時に、強く、しなやかに立ち直る力を持っています。彼女の物語は複数のジャンルにまたがっています。美しいロマンスがあり、殺人事件があり、サバイバル物語もあります。小説に続いて脚本を読んだ時、そうした様々な世界と物語の要素がすべて表現されていると感じたし、フィルムメーカーとして一刻も早く掘り下げてみたいと思いました」と語っている。 (2022年11月18日公開)