「あのこと」 中絶が違法だった時代に女子大生が体験した衝撃の”事件“

(2022年12 月10日11:15)

「あのこと」 中絶が違法だった時代に女子大生が体験した衝撃の”事件“
「あのこと」(公式サイトから)

人工妊娠中絶が違法だった1960年代のフランスで、予期せぬ妊娠をした女子大生が、学位と教師になる夢を抱えて苦闘する姿を赤裸々に描いたフランス映画の衝撃作。「パラサイト 半地下の家族」でアガデミー賞4冠のポン・ジュノ監督が審査委員長を務めた2021年のヴェネチア国際映画祭で、審査員の全員一致で金獅子賞を受賞した。
原作は本年度のノーベル文学賞を受賞したフランスの作家アニー・エルノーが自身の体験を基にした小説「L'Événement, Gallimard」(00年)(邦題:事件)。
やむにやまれぬ選択をする女子大生アンヌにフランスとルーマニアの国籍を持つ新進女優アナマリア・ヴァルトロメイ。12歳の時に「ヴィオレッタ」(11年)でイザベル・ユペールの娘役でスクリーンデビューし、リュミエール賞有望新人賞を受賞。「The Royal Exchnge」(17年)などに出演している。ほかに「仕立て屋の恋」(89年)などのサンドリーヌ・ボネールなどのキャスト。監督は「フレンチ・コネクション 史上最強の麻薬戦争」(14年)、「ナチス第三の男」(17年)などの脚本を手がけ、「Mais yous etes fous」(19年)で監督デビューしたオードレイ・ディヴァン。次回作として1974年のヒット作「エマニエル夫人」をレア・セドゥ主演で再映画化する「Emmanuelle」(原題)が決まっている。
2021 年/フランス/100分/原題:L'Événement/配給:GAGA

■ストーリー

生理が来ないことに心配した主人公の女子大生アンヌ(アナマリア・ヴァルトロメイ)は診察を受けて妊娠を告げられ驚き、思わず「何とかして」と口走るが、当時は中絶は違法行為で医師から「無理だ」と断られる。「いつかは子供を産みたいけど人生と引き換えはいや」と成績優秀で学位を取り教師になろうとしていたアンヌは悩む。医師からは「君に選択肢はない。受け入れろ」といわれるが、受け入れられず、大学の女子寮のクラスメイトからは「刑務所に行く気」といさめられ、子供の”父親”に助けを求めるが冷たく突き放される。アンヌは火であぶった細い鉄棒を使ったり、わざとおぼれそうになったり無謀で危険な行為を繰り返すすがうまくいかず、4週目、5週目と時が過ぎてゆく。そしてある日、闇で堕胎手術をする女医にたどりつくが想像を絶するさらなる苦難が待ち受ける。

■見どころ

フランスのアカデミー賞といわれるセザール賞の最優秀新人女優賞やダブリン国際映画祭の女優賞などを受賞したアナマリア・ヴァルトロメイの力強くまっすぐな演技で、アンヌの苦悩や命がけの苦闘をスクリーンに描き出した演技は圧巻だ。アンヌが、自分の夢を実現するため、当時のフランスの中絶を禁じる法律に抗して自身の権利で中絶しようと命がけで挑戦し格闘する姿は、まるで闘士のようで、ドキュメント映画のようにリアルで衝撃的だ。ディヴァン監督が女性ならではの視点も含めて繊細に大胆に演出している。
フランスでは1975年に合法化されたが、米国では今年6月に連邦最高裁判所が、人工妊娠中絶を憲法で保障された1973年の「ロー対ウェード判決」を覆す判断をして波紋を広げ、中絶問題は11月の中間選挙でも争点になった。この映画はそうした今も論議されている現代的なテーマを突きつける。
(2022年12月2日より公開中)