「ベネデッタ」奇蹟と同性愛の修道女ベネデッタの数奇な運命

(2023年2月15日11:00)

「ベネデッタ」奇蹟と同性愛の修道女ベネデッタの数奇な運命
「ベネデッタ」( (c) 2020 SBS PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - FRANCE 3 CINÉMA)

17世紀に実在した修道女ベネデッタ・カルリーナの数奇な運命を映画化した異色の作品。ベネデッタは幼い頃からキリストのビジョンを見続け、聖痕や奇蹟を起こしたとして神格化されるが、修道女との同性愛が発覚して裁判にかけられた。監督は「ロボコップ」(1987年)、SF大作「トータル・リコール」(1990年)、シャロン・ストーンを一躍スターにしたサスペンス「氷の微笑」(1992年)、イザベル・ユペール主演の「エル ELLE」(2016年)などの数々のヒット作で知られるオランダ出身のポール・ヴァホーベン。ベネデッタの物語に惹かれ、男性社会の中で「才能、幻視、狂言、ウソ、創造性で上り詰め、本物の権力を手にした」修道女の波乱の人生を華麗にして濃密な同性愛シーンもまじえて映画化した。
ヒロインの修道女ベネデッタにヴァホ-ベン監督の「エル ELLE」、「ドン・ジュアン」(2022年)などのヴィルジニー・エフィラ、同性愛の相手の修道女にダフネ・パタキア、修道院のフェリシタ院長にシャーロット・ランブリング、教皇大使にランベール・ウイルソンなどのキャスト。
2021年/フランス・オランダ/フランス語・ラテン語/原題:BENEDETTA/131分/映倫:R18+/配給:クロックワークス

「ベネデッタ」奇蹟と同性愛の修道女ベネデッタの数奇な運命
「ベネデッタ」( (c) 2020 SBS PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - FRANCE 3 CINÉMA)

■ストーリー

17世紀のイタリアで、子供のころから聖母マリアと対話して奇蹟を起こす少女といわれていたベネデッタは6歳で修道院に入れられる。世間を知らないまま成人したベネデッタは、ある日父親の暴力に耐えかねて修道院に逃げ込んできた若い女性バルトロメア(ダフネ・パタキア)を助けるが、やがて2人は秘かに愛し合うようになっていく。そうしたなか、ベネデッタの手に突然原因不明の釘で刺されたような傷が現れ、イエスの妻になる幻視を見るなどして、聖痕が現れイエスに娶られたとみなされる。修道女のシスター・クリスティナ(ルイーズ・シュビエット)は聖痕は自作自演と告発して、フェリシタ修道院長(シャーロット・ランプリング)は懐疑的だったが、主席司祭(オリビエ・ラブルダン)は自分の出世に利用して、ベネデッタを聖女と認定して修道院長に就任させる。民衆に聖女と崇められて権力を手にしたベネデッタだが、彼女の疑惑を告発したクリスティナに悲劇が起き、巨大な彗星が現れ、ペストがまん延して町に混乱が起きる中、元院長の告発を受けて教皇大使ジリオーニ(ランベール・ウイルソン)が修道院にやってきてベネデッタは窮地を迎える。

■見どころ

ヴァホーべン監督は「私の映画の多くは女性が中心にいる。つまり、ベネデッタは『氷の微笑』、『ショーガール』、『ブラックブック』、『エル ELLE』のヒロインたちの親戚というわけさ」と語っている。ベネデッタはキリストを見るなどの幻視を見たり、茨の冠をかぶせられ手に太い釘を打たれて磔にされたキリストのように、手の平に穴が開き血みどろになったり、額に傷ができるなどの聖痕と呼ばれる奇蹟の現象が身に起きるが、自作自演とも告発されるなど、虚実入り混じったかのような言動で修道院長や修道女たちを幻惑する。そうしたミステリアスでカリスマ性のある修道女ベネディッタをヴィルジニー・エフィラが圧倒的な存在感を見せて演じている。全裸で演じている修道女との同性愛シーンも迫真で息をのむ。そしてなにより、神、天国、奇跡などの本質を突くシーンが散りばめられ、思わず笑ってしまうコミカルなシーンもあり、キリスト教だけでなく宗教の大いなる矛盾も浮き彫りにする。出世欲に駆られてベネデッタを聖女にして利用する主席司祭や、民衆の声をろくに聞こうとしない教皇大使など欺瞞に満ちた宗教界の実態も描き、ドラマが見どころで、ベネデッタの数奇な運命のドラマに最後まで目が離させない展開が続く。 (2023年2月17日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国公開)