映画「妖怪の孫」特別先行上映会 内山雄人監督、古賀茂明氏、望月衣塑子記者が登壇

(2023年2月28日11:30)

映画「妖怪の孫」特別先行上映会 内山雄人監督、古賀茂明氏、望月衣塑子記者が登壇
登壇した左から内山雄人監督、古賀茂明氏、望月衣塑子記者(都内)

安倍元首相の政治を検証しその背景に迫るドキュメント映画「妖怪の孫」(3月17日公開)の特別先行上映会がこのほど都内で行われ、内山雄人監督、企画プロデュ―サーの古賀茂明氏が舞台挨拶を行い、「新聞記者」などで知られる東京新聞の望月衣塑子記者も参加して同作や安倍政治、現在の岸田政権をめぐって熱く語った。

同作は日本アカデミー賞最優秀作品賞などを受賞した「新聞記者」(2019年)などを手がけたスターサンズと、菅首相(当時)のドキュメンタリー「パンケーキを毒見する」の内山雄人監督とそのスタッフがタッグを組んで、「昭和の妖怪」と呼ばれた岸信介元首相の孫の安倍元首相の人物像に迫った本格的政治ドキュメンタリー。
安倍元首相の母方の祖父が1960年に改定日米安保条約を強行採決したことなどで知られる岸元首相で、その「妖怪の孫」である安倍元首相が遺したもの、選挙に強く総理大臣連続在任日数が歴代最長の2822日を誇った背景や、旧統一教会と自民党の関係、国会での虚偽発言、さらにはなぜ憲法改正にこだわったのかなどを検証しながら、その影響を受ける現在の岸田政権がどこに向かおうとしているのかに迫っている。

■内山雄人監督「『本丸をやらなきゃいけない』ということになった」

映画「妖怪の孫」特別先行上映会 内山雄人監督、古賀茂明氏、望月衣塑子記者が登壇
内山雄人監督

「妖怪の孫」の企画は菅首相(当時)のドキュメント映画「パンケーキを毒見する」が公開された2021年の秋ごろから出ていたという。
内山監督は「ある議員の方から事務所に呼びつけられまして、『とにかく本丸行け』、『安倍さんを行け』と強く言われ、いろいろな資料を渡されました。ちょっと厄介だなあと思いながら、その後から河村さん(スターサンズの河村光庸社長)と会って『本丸だろう。本丸をやらなきゃいけない』ということになりました。でも、安倍さんが政権を長く担当してきたこともあり、ある種の力の強さも畏れも感じていたり、いろいろ難しいところがあって躊躇していたのですが、年明けぐらいから動き出してみたんです。ところが札幌でヤジの取材(2019年7月、安倍元首相が札幌市で街頭演説中に「安倍辞めろ」とヤジを飛ばした2人の男性が警察に排除され損害賠償を求めた事件)をしていたのですが、その後に河村さんが急に亡くなられて。精神的支柱を失った形でした」と制作までの経緯を明かした。

古賀氏は河村氏が亡くなる前日に偶然河村氏と電話をしており、その時河村氏が安倍元首相の映画の話をして「妖怪の孫」というタイトルも決めていたという。

古賀茂明氏は「『パンケーキを毒見する』(21年7月公開、内山雄人監督)の映画を作るときに、河村さんといろいろ話をして。『パンケーキ』がそれなりにいいものになったので、そのころから河村さんは次は安倍さんの話をやりたいと話していました。しばらくしてから、河村さんから電話があり、とにかく安倍さんの話をやりたいということで、その時にはすでにタイトルを『妖怪の孫』に決めていました。そのとき『これをやらないと死んでも死にきれない』という話をしながら電話は20分で終わってしまいました。河村さんは話が長くて最低1時間は話すのですが、ずいぶん早いなと思ったら次の日に亡くなってしまったんです。河村さんが亡くなったという話を聞いた瞬間に河村さんの遺言を聞いたという感じがして、これは絶対やらないといけないと思いました」と語った。

■古賀茂明氏「河村さんの遺言を聞いたという感じがした」

映画「妖怪の孫」特別先行上映会 内山雄人監督、古賀茂明氏、望月衣塑子記者が登壇
古賀茂明氏

内山監督も「パンケーキ」で菅首相(当時)を調べれば調べるほどあらゆる局面でその元である安倍さんに行きつくこと、結局は安倍政権の官房長時代にやっていることが多かったので本質的には安倍元首相を調べるべきではないかと感じていたという。ただ「岸(信介元首相)さんの孫といっても誰も知らないだろうなと思い、『妖怪の孫』というタイトルにはあまり乗り気ではなかった」という。そして撮影が始まり、安倍氏と下関市長の関係が取りざたされているなか、山口に取材に行った2週間後に安倍元首相暗殺事件(2022年7月8日)が起きた。事件直後は安倍氏への同情ムードが大きかったので映画製作は「一気にトーンダウン」。「死者に鞭打つ」ではないが「野党からも(取材を)断られた」という。だが、その直後に旧統一教会と自民党の関係の問題が出てきて風向きが変わり「企画がもう1回立ち上がった」と明かした。

その後、東京新聞記者の望月衣楚子氏が加わり3人でのトークとなった。望月氏は「よく作っていただいたなと。岸田政権を動かしていく原動力、元になってるのは岸さんであり安倍さんだったということがよく分かると思います」と語り、現在の岸田政権にも言及した。

■望月衣塑子氏「今の問題に気づくためには、何よりもこの『妖怪の孫』を見て欲しい」

ドキュメント映画「妖怪の孫」特別選考上映会 内山雄人監督、古賀茂明氏、望月衣塑子記者が登壇
望月衣塑子氏

「安全保障戦略3文書が決まって以降は公然と、その前から、戦闘の準備行為をしよう、武器輸出を解禁しようと、ほとんど準戦時体制に入れというような内容の発言をしています。安倍政権を引き継いだ岸田政権は国民の生活を圧迫し、ますます将来が見えなくなってきたなと思います」と指摘。
さらに「異次元の少子化対策と言いながら、官房副長官が子供の数が増えればおのずと子供に対するお金、手当も増えて来る。国の予算も増えるというむちゃくちゃな話をしています。そういうところを見ても『妖怪の孫』が作った今の岸田政権というのは、国民の命をアメリカに突き出し、何か起きたときにはすぐに日本の国土が狙われるという態勢が着々と整えられています。今の問題に気づくためには、何よりもこの『妖怪の孫』を見て欲しい。共感が持てるドキュメンタリーになったと思うので、河村さん、古賀さん、内山監督の3人が作り上げたこの作品をたくさんの方にご覧いただき、ダメ出しも含めて発信していただいて、今の政治や社会の問題を変えていく流れになればいいなと思います」と語った。

ドキュメント映画「妖怪の孫」特別選考上映会 内山雄人監督、古賀茂明氏、望月衣塑子記者が登壇
「妖怪の孫」(©2023「妖怪の孫」製作委員会)

古賀氏は「国の形が変わるのが決まったということで、これをひっくり返すのは大変なことです。戦後70年以上、日本は軽武装で行きますよ、絶対戦争しないから、余裕もないんだから国民生活最優先で生きていきましょうというのをずっとやってきて、日本はすごく発展しここまで来ました。それが、今や隅から隅まで探して財源が見つかればまず防衛費に回してしまう。その前提として、戦争するかもしれない、中国に負けないようにしなくてはならない、ということがあります。だからこれには際限がありません。軽武装国民生活優先から、重武装軍事優先にほぼ変わり、それは憲法改正と同じくらいの意味合いがあります。原発(再稼働)もそうですが、今までの政策とは全く違うことをしている。どうやってそれを止めることができるのかを皆さんもぜひ考えていただきたい」と語った。

そして内山監督は「今日初めて見て頂いて、どう感じ、どう受け止められたのか。できれば、何か発信したいことや伝えたいことがあれば考えて頂き、動き出していけば形になっていくと思いますので、何かできることはないかなと考えて頂ければと思います」と締めくくった。