「有り、触れた、未来」トークショーに山本透監督、UNCHAIN10+1登壇

(2023年3月2日17:15)

「有り、触れた、未来」イベントに山本透監督、UNCHAIN10+1登壇
山本透監督(前列左端)と「UNCHAIN10+1」のメンバー(1日、都内で)

映画「有り、触れた、未来」(10日全国公開)のトークショー付き試写会イベントが1日、都内で行われ、山本透監督と同作のために集まった若手俳優からなるプロデューサーチーム「UNCHAIN10+1」のメンバーの中から10人が登壇した。

同作の監督・脚本を務めた山本透監督は、同作のために集まった総勢22人の若手俳優からなるプロデューサーチーム「UNCHAIN10+1」(アンチェインイレブン・アシスタント)と共に企画から資金集めや製作まで、自主映画としてゼロからスタートしたという。

出演は桜庭ななみ、手塚理美、杉本哲太、仙道敦子、北村有起哉など、同作の趣意に賛同した俳優陣が集結し、絡み合うそれぞれの物語をしっかりと支え、重厚な人間ドラマが繰り広げられる。作品の舞台となる宮城県で3日から公開され、10日から全国公開される。

「有り、触れた、未来」イベントに山本透監督、UNCHAIN10+1登壇
山本透監督

この日行われたトークショーで山本監督は、同作が実現した経緯について、「企画を持ち込んだ時にちょうどコロナの真っ最中で、コロナが落ち着いてからにしませんかといわれてしまって。くじけそうになった時に、俳優たちが自分の身の周りに集まってくれて、総勢20人になる俳優たちが、自分たちが伝えていきたいことを伝えていきたいと集まってくれた。映画を支えてくれた面々をこれから紹介していこうと思います。アンチェインイレブンという名前でやってきました」と語り、登壇したメンバー10人が自己紹介した。

山本監督と共に登壇したのは、大島蒼衣役の舞木ひと美、劇団員役の竹田有美香、セコンド役の賀谷亮祐、劇団員役の龍真、結莉の亡くなった母親役の鈴木タカラ、看護師役の林真理奈、劇団員役の永田直人、桜庭ななみ演じるヒロインの元カレ役の松代大介、看護師役の三島悠莉、保育士役の伸哉の10人。

この映画の原案となった「生かされて生きる―震災を語り継ぐー」(河北新報出版センター)の著者・齋藤幸男氏の長女で女優の舞木は、「その本を原案に山本監督が命と向き合う作品を何か撮りたいとなったときに、私の父が震災当時、石巻西高校の教頭をして避難所運営を指揮統括していたということで、いろいろほかのことも描かれている本ではあるんですけれど、震災後に子供たちでしたり傷ついた大人たちがどうやって未来に進んでいったらいいかということを、すごく本の中で紹介されていて。この映画のラストシーンにもある、青い鯉のぼりプロジェクトというのもその本の中で紹介されていることもあって、山本監督が震災から10年の3月11日に宮城県に行って、私の父であり斎藤幸雄先生と青い鯉プロジェクトの共同代表の伊藤健人君と千葉秀さんに会いたいということで、宮城に一緒に足を運んだのがきっかけで、この作品に企画のゼロのゼロのところから監督と一緒に足並みをそろえて歩いてきて。気づいたらこうやって俳優の仲間たちが沢山横にいてくれて、そんな感じで私たちは進んできました」と語った。

その後メンバーたちが映画について語り、「エキストラを担当していたんですけど、地元の人が沢山協力してくださった。鯉のぼりの撮影で300人集めなきゃいけない時に、もともと集まっていたんですけど雨で撮影が変更になってしまって、もう一度300人集めなおさなきゃいけないということで、それがすごく大変だったんですけど地元の人たちがすごく強力的で知り合いとかお友達とか呼んでくださって無事に撮影することができた」とか、 「裏方をやったときに僕らが本当に芝居しやすい環境を作っていただいてるのかを目の当たりにして、この視点をこれからの自分の役者だったり人生に生かせたらと思っています」などの様々な撮影エピソードが明かされた。
そして「映画というのは言葉もあるけれど感じる事ができるというのがすごく大きい。なのでたくさんの物語が出てくるし、いい言葉とかメッセージもたくさんあるんですけど、何よりもエネルギーを感じて前向きになってもらえたら嬉しいなと思って関わりましたしこれからも広めたいと思っています」などこの映画に込めた想いが語られた。

メンバーがみんなで企業などに電話をかけて、映画の企画を説明して協賛金を集めた苦労話も明かされた。「何をしゃべっていいのかもわからなかったので監督にマニュアルみたいなものを作っていただいてそれを基にいろんな企業さんに電話した」という。

■山本監督「子供哲学のエピソードと多様性」

この作品には子供たちもたくさん出てくるが、監督は、世界60か国で行われているという「子供哲学」についてのエピソードも明かした。
「子供たちに哲学を教えるんじゃなくて、子供たちが哲学をやる。自分たちで決めて、自分がしゃべりたいことを全部しゃべるまで、まわりの子供は黙って聞くというだけのシンプルな教育なんですけど。実は東北で震災が終わったときに子供たちがしゃべれなくなった。笑わなくなったとかでなくて、くしゃべらなくなったという緊急事態が起きた時に、ハワイのチームが乗り込んで子供哲学をやったら、子供たちに笑顔が戻ったりしゃべるようになった事例があった。それも本の中に書いてあったんで、映画の中に入れてみたいなと思ってドキュメンタリーでやったんです」という。
そして「閉塞感が増す社会って、時代が少しずつ変化していって、価値観がこれだけ多様化しているのに、一つのものをみんな好きじゃなきゃいけないよという感覚が、日本人の美徳でもあるんだけど、同時に、私はそれは好きではないのになというのをマイノリティにしてしまって学校に行きずらい状況になってると思うので、すごくいい教育方法だなと思ってます」と語った。

■「一番最初にこの映画を作ろうと思ったきっかけが、表現者が命を絶ったということだった」

「一番最初にこの映画を作ろうと思ったきっかけが、表現者が命を絶ったということだったので、表現者が下向いていいのかっていうか、下向かざるを得ない時期だったんですけど。バンドマンも演奏者も落語家もみんな公演を打てない。表現する場がないというときに、国の支援も文化に対してすごく遅かったし、我々は衣食住と関わってない、医療従事者でもない。生きている価値がないんじゃないかとみんな下向いちゃう人が沢山出ていたんですけど。じゃあ、そうじゃなくて我々にできることが絶対ある。カルチャーの力は何だろうということをどうしても表現して結集したかったんです。見て感じていただいたと思うんですけど、太鼓とかバンド、ロック、演劇、演劇と一緒に流れているクラシックはほぼフルオーケストラで一人一人のバイオリニストがみんな弾いている音なんです。それと古典芸能である和太鼓が融合して、皆に与えるエネルギーみたいなものを感じてほしいなと思ったん。表現者は下を向いちゃいけないよっていつも伝えて来たんです」と伝えた。

さらに最近の状況につて「この映画をやりたいなと思い始めてから間もなく3年が経つんですけど。これ本当に走っていく中で何がどうなって来たかというと、日本人の自殺率が上昇しました11年ぶりに。リーマンショック後にドンと上がったという報道がやってる最中にあって。それからいろいろあったんですけど、戦争が始まって終わらないし。国は増税を決めてミサイルを400本買いますと首相が言ったり、暗殺事件もありましたよね。今日の今朝ですよ512人の小中高生が去年亡くなった、自殺したという発表が今朝されました。僕は政治家でも宗教家でもないんですけど。世の中すごくよくない状況に陥っていると思っていて、子供たちが24万人まだ学校に戻れないでいるんですよ。コロナが明けてから不登校児童が小中だけで24万人いる。つまり未来に対して夢とか希望とか持ちにくい時代に突入している」と指摘した。


■「この映画が持ってるメッセージが伝わると、きっと救われる人はたくさんいると思う」

「だから今、僕は1人の大人として、子供が3人いる父親として、映画監督として、表現者の力を束ねて僕にできることをやりたいと思っている。僕にできることは精一杯子供たちに向かって、未来に向かってやっていきたいと思っていて、この映画を作った。皆さんも仲間になってほしいなと思っていて。この映画を応援してと言いたいだけではなく、この時代をちゃんと未来につないで子供たちに受け渡していくために、自分たちにできることを考えていってほしいなと思うのと、この映画が持ってるメッセージが伝わると、きっと救われる人はたくさんいると思うので。僕は大丈夫だよということを言ってあげたくてこの映画を作った」という。
そして「多分この先も自然災害はきっとどこかで、トルコで大きな地震があったように、世界でも日本の中でも自然災害に遭遇する人たちもいるだろうし、新しい感染症が発生することもあるかもしれない。でも少なくとも東北の人たちは、傷だらけの状況から懸命に声を掛け合いながら支え合って、手をつないでなんとか前に進んで来れているので、そういうエネルギーを描いたこの映画は、きっとこの先いろんな人に大丈夫だよって言ってくれると僕は信じているので。この映画が広く広まるようにお力添えを頂けたらと思います」と締めくくった。

「有り、触れた、未来」イベントに山本透監督、UNCHAIN10+1登壇
「有り、触れた、未来」(©UNCHAIN10+1)

【ストーリー】彼氏を事故で失った、元バンドマンの女性(桜庭ななみ)。30歳を過ぎても、ボクシングを続けるプロボクサー(松浦慎一郎)とその妻(金澤美穂)。1分1秒でも長く生き、娘の結婚式へ出席したい、末期癌と闘う女性(仙道敦子)。将来に不安を感じながら「魂の物語」を演じる若い舞台俳優たち。そして、自然災害で家族を亡くし、自殺願望を抱く中学生の少女(碧山さえ)。妻と息子を亡くし少女の父親(北村有起哉)も生きる希望をなくしていたが、傷ついた娘のために、再び生きることに立ち向かいだす。そんな二人を懸命に支える年老いた祖母(手塚理美)、優しい親友(鶴丸愛莉)と担任教師(宮澤佑)。たくさんの人々の想いを受けて、少女の心は、少しずつ変化し始めるー。
全ての登場人物が抱えている問題は、角度は違っても全て「命」と向き合った物語。いくつもの物語が、複雑に折り重なり、それぞれの人生が交錯する。「支え合い、分かち合い、何度でも立ち上がる」それは、「ありふれた物語」であると同時に「有り、触れられないモノ」の哀しさと「有り、触れられるモノ」の尊さを教える。