「幻滅」 19世紀前半のパリで欲望と虚飾と快楽に翻弄された青年の激動ドラマ

(2023年4月15日11:45)

「幻滅」 19世紀前半のパリで欲望と虚飾と快楽に翻弄された青年の激動ドラマ
「幻滅」リュシアン役のバンジャマン・ヴォアザン

19世紀のフランスの文豪オノレ・ド・バルザックの小説「人間喜劇」の中の一編「幻滅ーーメディア戦記」を映画化した社会派ドラマ。19世紀前半のパリを舞台に、詩人としての成功を夢見る青年が欲望と虚飾と快楽にまみれた世界に身を投じてゆく激動の半生を描く。フランスのアカデミー賞といわれるセザール賞の作品賞など7冠を獲得し、ニューヨーク・タイムズのベスト10に選出されるなど国際的に評価された作品。

「幻滅」 19世紀前半のパリで欲望と虚飾と快楽に翻弄された青年の激動ドラマ
「幻滅」リュシアンとルイーズ㊧は密会を重ねる㊨

主人公のリシュアンに「Summer of 85」のバンジャマン・ヴォアザン、リシュアンと恋に落ちる社交界の女王ルイーズにセシル・ド・フランス、リシュアンと熱愛関係になる売れっ子女優コラリーにサロメ・ドゥワルス、リシュアンが記者として働くことになる新聞社のやり手ジャーナリスト、エティエンヌに「アマンダと僕」のヴァンサン・ラコスト、ジャーナリストのナタンに監督としても活躍するグザヴィエ・ドラン、そして、書店兼出版社の経営者ドリアにフランス映画界を代表する名優ジェラール・ドパルデューなどの多彩なキャストがそろった。
監督は「ある朝突然、スーパースター」(2012年)、「偉大なるマルグリット」(2015年)などのフランスの映画監督で脚本家、映画プロデューサーのグザヴィエ・ジャノリ。

2022年/フランス/フランス語/149分/カラー/5.1chデジタル/スコープサイズ/原題:Illusions perdueswww.hark3.com/genmetsu/字幕:手束紀子/配給:ハーク/配給協力:FLICKK/後援:アンスティチュ・フランセ日本/R-15
©2021 CURIOSA FILMS-GAUMONT-FRANCE 3 CINÉMA-GABRIEL INC.–UMEDIA

「幻滅」 19世紀前半のパリで欲望と虚飾と快楽に翻弄された青年の激動ドラマ
「幻滅」リュシアンとコラリー

■ストーリー

19世紀前半、ナポレオンが失脚して復古王政時代になり宮廷貴族が復活したフランスが舞台。田舎町の印刷所で働く青年リュシアン(バンジャマン・ヴォアザン)は詩人としての成功を夢見ていた。名門貴族で高齢の夫を持つルイーズ(セシル・ド・フランス)はリシュアンの才能を認めて朗読会を開き、いつしか2人は密会を重ねるようになる。やがて関係が発覚して夫の逆鱗に触れ、2人は町を捨て馬車でパリに旅立つ。
パリの社交界では田舎者のリシュアンは嘲笑され、ルイーズも距離を置くようになる。貯金を盗まれ窮地に陥ったリシュアンは、カルチェラタンのビストロで給仕の仕事に就く。店の常連客だったジャーナリストのエティエンヌ(ヴァンサン・ラコスト)に自身を売り込むと「俺の仕事は株主を裕福にすること。この世界では人に恐れられるか無視されるだけだ」とうそぶく。エティエンヌ気に入られたリシュアンは、記事を書くようになる。大衆劇の批評を書き、その芝居に出演していた10代の女優コラリー(サロメ・ドゥワルス)と馬車の中で激しく求め合う。やがてエティエンヌが自由派の新聞の編集長になり、リシュアンはルストーの下で、ででっち上げの記事を書き続ける。さらにはコラリーをパトロンから奪って劇場主を買収しラシーヌの芝居の主役に抜擢し、享楽的な生活に溺れるが借金がかさんで人生の歯車が大きく狂っていく。

■見どころ

欲望や陰謀や裏切り、享楽、麻薬が渦巻く当時のパリでのし上がり、やがて挫折する詩人志望の青年リシュアンの半生を、彼を取り巻く人間関係を含めてダイナミックに描写していくドラマは圧巻だ。同作でセザール賞の有望新人男優賞を受賞したバンジャマン・ヴォアザンをはじめ、同最優秀助演男優賞を受賞したヴァンサン・ラコストなどの俳優陣の熱演ぶりも注目される。
華麗で贅を尽くす一方で虚飾にまみれた社交界のルイーズを中心にした描写や、なかでも依頼主に金で雇われ、ターゲットを徹底的にこき下ろしたり、逆に美辞麗句を並べ立てて絶賛したりする嘘にまみれた当時のメディアの描写は壮絶だ。フランス革命、恐怖政治、ナポレオンの登場、復古王政と目まぐるしく政変を繰り返したフランスの当時の激動と波乱の時代が背景にあることをうかがわせる。さらには、現代のSNSでのフェイクニュースや恐喝まがいのスキャンダル暴露などの問題にも通じるメディアの諸刃の剣の側面を容赦なく描き出す。そして、リュシアンの半生や彼を取り巻く当時のパリの混純と虚飾を「幻滅」として小説にしたバルザックの冷徹な視点や風刺。バルザックの原作を学生時代から映画化したいと望んでいたジャノリ監督のパワフルでダイナミックな演出とストーリーテリングで、2時間半を長く感じさせない骨太の大作時代劇になっている。
(2023年4月14日(金)から全国公開中)