「ベイビー・ブローカー」 ソン・ガンホら韓国俳優陣が「赤ちゃんポスト」をめぐる「命」のドラマを熱演

(2022年6月22日11:00)

「ベイビー・ブローカー」 ソン・ガンホら韓国俳優陣が「赤ちゃんポスト」をめぐる「命」のドラマを熱演
「ベイビー・ブローカー」(ⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED)(配給:ギャガ)

第71回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した「万引き家族」(2018年)などの是枝裕和監督が、アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞を受賞したポン・ジュノ監督「パラサイト 半地下の家族」の主演男優ソン・ガンホら韓国俳優を起用し監督・脚本・編集を務めた自身初の韓国映画。

今年の第75回カンヌ国際映画祭で、ガンホが韓国人俳優として初めて最優秀男優賞を受賞。さらに作品がエキュメニカル賞を受賞した。韓国の赤ちゃんポスト「ベイビー・ボックス」に捨てられた赤ん坊の養父母を探して高く売ろうとするブローカーと産みの母親、取引現場を押さえて逮捕しようと追跡するする刑事たちの思惑が入り乱れてドラマが展開するロードムービー。

キャストは「殺人の追憶」(2003年)、「グエムル-漢江の怪物-」(2006年)、「シークレット・サンシャイン」(2007年)、「王の運命―歴史を変えた八日間―」(2015年)など数々のヒット作で知られる韓国の国民的俳優ガンホのほかに、「華麗なるリベンジ」(2015年)、「MASTER/マスター」(2016年)などのヒット作で知られる韓国の人気俳優カン・ドンウォン、是枝監督の「空気人形」(2009年)で第33回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞したペ・ドゥナ、「IU」のアーテイスト名で活躍するシンガーソングライターのイ・ジウン、大ヒットしたNetflixの韓国ドラマ「梨泰院クラス」(2020年)のイ・ジュヨンらのキャスト。
2022年・韓国、130分、配給:ギャガ。

「ベイビー・ブローカー」 ソン・ガンホら韓国俳優陣が「赤ちゃんポスト」をめぐる「命」のドラマを熱演
「ベイビー・ブローカー」(ⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED)(配給:ギャガ)

■ストーリー

借金に追われるクリーニング店経営者のサンヒョン(ソン・ガンホ)と、「赤ちゃんポスト」がある施設で働く児童養護施設出身者のドンス(カン・ドンウォン)は、ベイビー・ブローカーを裏稼業にしていた。ある日の夜、土砂降りの雨の中、若い女性ソヨン(イ・ジウン)が「赤ちゃんポスト」の前に置いていった赤ん坊を連れ去り、養父母を探して高く売ろうとしていた。ソヨンは翌日思い直して現場に戻ると赤ちゃんがいなくなっていることに気づく。サンヒョンとドンスが盗んだことを知り問い詰めるが、サンヒョンに言葉巧みに説得されて赤ちゃんを売ることに同意するが、自分も一緒に2人について行くと言い出して、3人で車に乗って養父母探しの旅が始まる。そうしたなか、刑事のスジン(ペ・ドゥナ)と後輩刑事のイ(イ・ジュヨン)が赤ちゃん売買の現場を押さえて逮捕しようと執拗に尾行していた。それぞれが抱える心の傷や思惑が絡み合い緊迫したドラマが展開してゆく。

「ベイビー・ブローカー」 ソン・ガンホら韓国俳優陣が「赤ちゃんポスト」をめぐる「命」のドラマを熱演
「ベイビー・ブローカー」(ⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED)(配給:ギャガ)



■見どころ

ソン・ガンホが”ベイビー・ブローカー”役を繊細にリアルに、そして軽妙に、またダイナミックに演じて圧倒的な存在感を見せている。カン・ドンウォン、イ・ジウン、ペ・ドゥナ、イ・ジュヨンから子役の少年、赤ん坊まで韓国の俳優陣が素晴らしく最後まで彼らが繰り広げるサスペンスありヒューマンドラマありのドラマに引き込まれる。
「赤ちゃんポスト」が抱える問題についてもリアルに描かれている。イ・ジウン演じる生みの母親の葛藤や心に抱える傷、そして最後に見えてくる希望が描かれる。彼女と旅を共にするブローカーの2人と、尾行する刑事に訪れる心情の変化がドラマに深みを与えている。

是枝監督は「もともと『そして父になる』(2013年)を作ったあたりから、”赤ちゃんポスト“や”養子縁組“といった問題に興味を持つようになりました。自分が子供を持ってからより強まったと思います。日本の病院にあるいわゆる『赤ちゃんポスト』のことを最初は本で知りまして、その後、ルポをした番組にも出演して、『赤ちゃんポスト』に本格的に関心を持つようになりました。自分でリサーチする中で、韓国にも同じような『ベイビー・ボックス』と呼ばれるものがあって、その利用件数は日本よりも桁違いに多くて、社会的議論がより盛んにおこなわれていることを知りました」と語っている。そして「ちょうど韓国で一緒に映画を作りませんかという話が、ソン・ガンホさん、カン・ドンウォンさん、ペ・ドゥナさんとの間でそれぞれ持ち上がっていた時期だったので、この題材を韓国で彼らと一緒にやってみるのはどうだろうかと思いました。2016年に、『ゆりかご』というタイトルで、A4で4~5枚分の簡単なプロットを書きました。これが『ベイビー・ブローカー』の始まりです」と同作が動き出すまでの経緯を明かしている。

「ベイビー・ブローカー」 ソン・ガンホら韓国俳優陣が「赤ちゃんポスト」をめぐる「命」のドラマを熱演
「ベイビー・ブローカー」(ⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED)(配給:ギャガ)

そして「脚本を書きながら、韓国で様々な取材を行い、ベイビー・ボックス出身の子供たちの声にも触れました。『自分は生れてきてよかったのか』と葛藤する彼らの切実さと向き合ったとき、その問いに答えられる作品にしなければいけないという思いが膨らんでいきました。ベイビー・ボックスに預けられた赤ん坊をいろんな思惑で売ろうとしていたベイビー・ブローカーたちが、どうしたらこの赤ん坊が幸せになるだろうかと考え始めるプロセスが表の話。裏の物語としては、母になることを選ばなかった女性たちが赤ん坊との旅を通して”母”になる話にしようと。その二つの物語が同時に進行していくことを最初から考えていました。捨てられた子が生まれたことを後悔したり、母親が産んだことを後悔したりするような着地は、この題材ではしたくなかったんです。『生まれてきてよかったんだよ』とまっすぐ伝えてあげられる作品にしたかった。そういう意味で、今回は『命』についての話かなと考えています」と語る。

そうした監督の思いが詰まった、そして韓国での取材などに基づいて練り上げられたリアルで濃密なヒューマンドラマであり、またスリリングで巧みなドラマ展開のエンターテインメント性もあり見ごたえのある作品になっている。
(6月24日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー)