第34回東京国際映画祭:ワールド・シネマ・カンファレンス「映画界の未来」

(2021年11月2日24:45)

第34回東京国際映画祭:ワールド・シネマ・カンファレンス「映画界の未来」
㊧から市山尚三氏、フレデリック・ボワイエ氏、ジャン=ミシェル・フロドン氏、カルロ・シャトリアン氏、ローナ・ティー氏、クリスチャン・ジェンヌ氏(10月31日、東京ミッドタウン日比谷・BASE Qで)

第34回東京国際映画祭のイベントの一つとして海外からの著名な映画人を招いて、映画を通じて交流するパネルディスカッション「ワールド・シネマ・カンファレンス」が10月31日、東京ミッドタウン日比谷のBASEQで開催された。東京国際映画祭のプログラミング・ディレクター・市川尚三氏が司会し、トライベッカ映画祭のアーティスティック・ディレクター、フレデリック・ボワイエ氏、ベルリン映画祭のアーティスティック・ディレクター、カルロ・シャトリアン氏、映画評論家で映画史家パリ政治学院准教授のジャン=ミシェル・フロドン氏、プロデユーサーでキュレーターのローラ・ティー氏の5人が映画祭の現状や「映画界の未来」をテーマに白熱した議論を展開した。その全容を2回に分けて紹介します。以下前編。(前編の後に後編を追加)

第34回東京国際映画祭:ワールド・シネマ・カンファレンス「映画界の未来」
司会の市山尚三氏(©2021 TIFF)

司会の市川氏は「今回非常に映画界における重要な重鎮といえる方々をお迎え出来ましたことを大変うれしく思っています。制約がある中で東京に来てくださったことに心からお礼申し上げたいです」とゲストに感謝の言葉を述べた。そしてカンファレンスのテーマとして「まず最初に映画祭がこのコロナのパンデミックの中で、あるいはコロナ禍を越えて、この2年でどうだったか、そしてこれからどうなるのか」と語った。「昨年ベルリン映画祭に参加しました。カルロ・シャトリアンさんが審査員で招待して下さいました。それ以外は何も来ていません。昨年のベルリン映画祭が最後の大きな映画祭ということではないでしょうか。それ以降はコロナ禍で多くの映画祭がキャンセル、または通常ではない方法で開催ということになった」と振り返った。
そして東京国際映画祭について「昨年私たちは幸運でした。夏は大変だったわけですが10月になって感染者が減少を始めたということで、映画祭が通常に席を空けずに座ることができることになりました。ただ海外のゲストをお招きできなかったのでコンペを中止しました。審査員を海外からお呼びできなかったということが理由の一つです。今年は感染者がかなり減ったということで通常のシューティングで出来ることになりました。日本政府にお伺いを立てて多くの書類などを提出して承認を得まして、東京国際映画祭は開催できたということです」と報告した。そして5人のパネリストを紹介しながら各映画祭の状況などについて聞きながら議論した。

■フレデリック・ボワイエ氏(トライベッカ映画祭 アーティスティック・ディレクター)

第34回東京国際映画祭:ワールド・シネマ・カンファレンス「映画界の未来」
フレデリック・ボワイエ氏(©2021 TIFF)

最初に紹介されたのはニューヨークのトライベッカ映画祭のアーティスティック・ディレクター、フレデリック・ボワイエ氏。2001年9月11日の米同時多発テロ後にニューヨークの復興を目指して2002年にロバート・デ・ニーロらによって始められた映画祭で、今年は20周年を迎え6月に開催された「スクリーンでちゃんと見せたいということがあり(上映作品の)数を減らしたり、あとニューヨークの街全体を娯楽の場にした今年でした」とボワイエ氏。昨年はオンラインでの開催だったという。「コロナ禍で審査員も渡航するのが難しかったし、フィルムメーカーたちも来られなかった。2週間メキシコシティに行ってそれで渡航したんですが、多くの方が来るようにみんなでサポートして下さった」という。 「カンヌなど20以上の世界中の映画祭が参加してくださいました。オンラインで5時間の特別のパネルディスカッションであったり、アニメーションだったり、フィルムメーカーが映画は死んでいない、映画は生きているとコミュニティがサポートしてくれました」と報告した。

■クリスチャン・ジェンヌ氏(カンヌ映画祭代表補佐 映画部門ディレクター)

第34回東京国際映画祭:ワールド・シネマ・カンファレンス「映画界の未来」
クリスチャン・ジェンヌ氏(©2021 TIFF)

「2020年は世界がロックダウンになり3月4月、カンヌではいろんなフィルムを見て、5月に上映するものを選択していたときで、長いことどうなるのか先行きが分からくて、4月の終わりにぐらいにはキャンセルか延期という話も出ていたんですけども、それでもまだわからくて、政府からの提案も変わりキャンセルを強いられてしまったんですけども。ただ作業はしたんです。通常と同じくらいたくさんのフィルムを見て、次の年まで待てるものがあったので『カンヌ2020レーベル』というものを作ったんですね。そこからいろんなフィルムに活躍してもらおうということで、セレクションレーベルとして。そのレーベルを手に入れたいという方々も多くて、最終的には何かできたということで満足はしたんですけど、もちろん対面で出来なかったフラストレーションはあったんですけれども」と昨年の状況を明かした。
そして今年のカンヌ映画祭について「コロナのリバウンドが今年の初めにありまして、その時はロックダウンではなく外出制限だということで映画館にも制限が設けられ、そこで7月ということで先ではあったんですが実際にはうまくいったんです」

市山氏「7月はバカンスのシーズンだが」

「(毎年映画祭が開催される)5月はカンヌの景色があって、皆映画を観に行ったり、夜はタキシードを着ておしゃれしてということをやるんですけど、7月になると人口の半分ぐらいはホリデーに入っています。でもそんなに外国人もいなかったし、タキシードを着た人や、ビーチサンダルの人もいて不思議な光景だったんですが」
今年のカンヌ映画祭では濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が日本映画初の脚本賞を受賞。また、国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞という3つの独立賞も受賞した。

■カルロ・シャトリアン氏(ベルリン映画祭 アーティスティック・ディレクター)

第34回東京国際映画祭:ワールド・シネマ・カンファレンス「映画界の未来」
カルロ・シャトリアン氏 (©2021 TIFF)

昨年のベルリン映画祭は2段階に分けるというユニークな取り組みをしたということについて聞かれ「2020年は非常に稀有な年でした。山あり谷あり、でも期待はあった。サン・セバスティアン国際映画祭(スペイン)は開催されました。ただ8月末あたりからまた第2、第3の波が来ました。そして11月の終わりに映画祭は縮小するか中止にした方がいいだろうという意見もあったが、ほかの可能性を模索しようということになって、通常であれば一体化しているものを、ベルリンはプロと観客の両方が参加するわけなんですが、オンライン開催にはしたくなかった。
映画業界から開催の要望があったし、業界にも非常に影響がありほかの映画祭への影響も大きいわけですから、それを考えて2段階開催を決めました。一つはオンラインですね。これはすべてのセクションで非常に縮小された形、コンペも18か20というところを15本にして、ほかのセクションにしてもパノラマゼネレーション部門も半数にしました。通常は300本ぐらいなのを100本ちょっとということにしました。審査員は何とか連れてきたいし劇場で観てほしい、無観客ですが。容易ではなかったですが可能でした。コンペのメインは可能でした。最後に(各賞を)発表できました。そして映画を観客に見せるということでは、夏までどこにも見せないという制約を加えることはしたくなかったんです。ほかで見せてもいいと。カンヌもわからないなかで4月20日ごろにもまだわからなかった。長い間不確定な状況が続いたわけです。ドイツではかなり厳格でした。映画館も6月末まで閉まる。なんとか4月までに改善するならば野外で夏に開催し、1日1本上映して、90%は野外で夏の上映ができたわけです」

「観客の反応」を聞かれて「技術的な問題がかかってくるんですが、制約が(キャパの)50%で、そうすればマスクなしでいいということでした。野外だと店が出てビールが出たりピザとかとなるわけです。公園なのでとてもいい感じなんです。キャパの50%入れて、PCR検査をやって。PCR検査は無料で受けられました。人数を減らす中で非常に入りはよくて野外上映に6万5000人入りました」

市山氏「ベルリンでは濱口監督が銀熊賞(脚本賞)を取りました。あと『由宇子の天秤』がパノラマ部門で取り上げられて、春本(雄二郎)監督が野外で上映されたということでとても喜んでました。通常のベルリン映画祭では経験できないことを経験できた。ある意味よかったという点もありました。寒くはなかったですか?」

「1年で一番暑い時期だったですね。本当に運がよかったんですよ、雨が降らなかった。尼が降ったらどうするかということは考えてなかったんです。強風で2つキャンセルしましたがそれ以外は問題なかった。追加の上映もできました朝2時から、もちろん通常ではないことですが」

■ローナ・ティー氏(プロデュ―サー/キュレーター)

第34回東京国際映画祭:ワールド・シネマ・カンファレンス「映画界の未来」
ローナ・ティー氏(©2021 TIFF)

市山氏「ローナ・ティーさんはプロデューサーでキャリアをスタートさせて多くのアジア、中華圏や東南アジアの作家の作品を手がけています。そして映画祭にも多くかかわりベルリン、そしてマカオの創設にも関わっています。パンデミック中の映画祭に何か参加されましたか」

「プロデューサー、そして多くの映画祭の仕事をしています。マカオ国際映画祭は新しい映画祭です。マカオはとても小さな町です。2020年はパンデミックなのでオンラインで開催しました。人と人を結び付けることをやっていたので、人を呼べないのであればもともと映画祭の意義を果たせていないわけです。でオンラインということで非常に制約というかインパクト自体も小さくなってしまったわけです。だけれども学んだことがあります、パンデミック中に。上映以外にどんなことをしているのか。人と人をつなげる、呼び寄せる。みんなが集まって同じ空間でエネルギーや情熱を共有する。映画を通してコミュニケーションする。マインドセットが変わったわけです。これからは映画祭をどのように運営していくのか、映画祭の役割、機能にも影響を与えているわけです。素晴らしい映画を見せる以外にも役割があるわけですね。ベルリン映画祭の後、私は小さい映画祭、アムステルダムのシネマ・アジア・フェステイバルの理事会に入っていまして、5日間の上映で、オランダでロックダウンになる直前にインドネシアや台湾から呼ぶことが出来たんです。シャットダウン直前に集まることができました。アジアの人はマスクをして他の国の人はマスクをしなかったという文化的な違いというのも目の当たりにしたんですけど。この状況に対していろんな反応の取り方があったと思いました。今年はカンヌとサラエボ、そして東京に来ることができてすごく皆さんに感謝しています。ここにいるというのは非常にシュールな感じですが、東京国際映画祭の皆様お招きいただいてありがとうございました。フィルムを上映するだけではなく人と人のつながりが大切だと思っていまして、私たちはそれを一生懸命やろうとしているところです」

■ジャン=ミシェル・フロドン氏(画評論家/映画史家パリ政治学院准教授/セントアンドリュース大学名誉教授)

第34回東京国際映画祭:ワールド・シネマ・カンファレンス「映画界の未来」
ジャン=ミシェル・フロドン氏 (©2021 TIFF)

市山氏「ジャン=ミシェルさんは非常に有名なフランスの映画評論家です。東京でお目にかかったのは92年ごろだったと思うんですが、90年代はジャーナリストとしてもよく来日されていて、フランスの新聞ル・モンドでもジャーナリストをされていて東京国際映画祭にこられてその記事を書いて下さったこともあります。また黒澤清さんの長いインタビュー記事を書いてそれがきっかけで黒澤さんがヨーロッパでも知られるようになった。彼のおかげで90年代に日本の映画がヨーロッパに紹介されたのはジャン=ミシェルさんのおかげです。そして様々な映画祭に出ていてジャーナリストとしてもエキスパートです」

「映画祭の担当ではないんですが、なるべく多くの映画祭に出るようにしていて、映画評論家として新しい映画を発見したりするのが私の仕事です。やはり映画は命を保っていてもらいたいと思っていて、この2年間で、私の同僚も、ここは行けない、ここは行ける、あそこはこうなってるといっていましたが、やはり映画祭でみんなが集まってディスカッションして、飲みながらいろんな意見を交わし合うというのが非常に重要で、実りのあるダイナミックな形でやりたかったわけです。ここにはいろんな映画祭の関係者の方がたくさんいると思うんですが、数千の映画祭があります。小さな規模でネットワークしたり、映画に命を吹きこんだりということをするんです。今はプラットホーム外でもそういうことをやろうとしています。マーケット中心のプラットホームになると思うんですが、ネットワークというのは非常に重要な意味があると思います。お互いに顔を合わせて交流するのはとても大切なことで、特にどうなるかわからないという状況ではよりが求められることだと思います。フランスでは350の小さな地元の映画祭があり、毎日何かしら映画祭があって、これはキャンセルになった、あれは大丈夫だというような話が毎日ありました。あらゆるところで状況が一刻一刻と変化し、1月はできたけど2月はできないとか、あとは頑張るしかないという状況だったんですが、とにかく同じペースで進めていくことが重要で、私たちはコロナを生き残ることはもちろんのこと、そこを逆手にとってできることもあると思うんです。例えばカルロさんがベルリン映画祭でやられたことがあると思うんですが、このコンデイションの中でベストを尽くしていらっしゃると思います。私もベルリナーレに出させていただいて毎日出席して1日4本の上映を見て、長年ベルリンに映画を観に行っていたのと変わらない感じでした。学校の先生だったり評論家だったり、またフェステイバルオーガナイザーだったりいろんな立場の人がいると思うんですが、この不確定な中でもベストな形でできると思うんです。もちろん今より悪くなることもあるでしょうし、コロナが終わったなん思っていませんが、この状況ではいろいろな答えを積み上げていくことが大切だと思います。例えば映画はいろんなデバイスが使えると思います。パンデミックだけではなくて経済的技術的な要因も含めて映画祭のあり方が問われると思います」

市山氏「ここからは自由にトークしていきますが。「映画とパンデミック」ということで何かありますか?(以下は近日中に後編で紹介)

■後編

ボワイエ氏 「映画祭は毎年変わっているわけですね。カンヌは今年凄かったですね。作品は少なく人も少なかったが自信ができた。映画祭はやはり映画を招待して質疑応答をして、フィルムメーカーを呼んで、もちろん大きな劇場で上映したい。ただオンラインという可能性も常にある。そして映画祭は配給会社のような役割も果たしているんです。プログラムをするだけでなく映画を人々に届ける役割がある」

ジャン=ミシェル氏 「映画はパンデミックの前は世界中で状況は良かったんです。より多くの映画がかつてない数が作られていました。ここ10年で映画を作る国も増えてより国際的になった。配給も増えました。肯定的な状況が続いていたんです。ですから悪いことだけにとらわれるべきではないと思います。映画は世界で危機を経験することによってダイナミックなエネルギーをそこから吸収して変化していくものだと思います。プラットフォームもネットフリックスだけでなく他も使うべきだと思います。たまたまパンデミックに乗じてということではないんですが、とにかくよりいい未来がそこにあるということです。ネットフリックスは負けを知らず躍進のみという感じですが、ネットフリックスのモデルだけではなくて他にもある。映画の敵とみなさずに、映画祭もオンラインというデバイスを使いながらやることがあると思います」

カルロ氏 「私はそこまで楽観的になれないですね。変革の時です。異なる人々、異なる関心、利益、方向性がありますが、映画への愛は映画祭から始まると思います。映画を発見する場であり共有する場です。感動をほかの人たちと共有する。こういうイベントはドイツではあまり状況は良くない、スペインやイタリアでも良くない。ヨーロッパの映画祭は政府に非常に依存しているわけです。助成金などです。パンデミックでも2021年に開催できたのはドイツ政府が予算を割いてくれているからです。ベルリン国祭映画祭は30万枚以上のチケットを販売しますが、今年は1万枚も刷っていないんです。損益があるんですが政府が応援してくれている。民間のスポンサーも減っている。ですからオンラインでやる場合マーケッティングも非常に大きなものになって、コンテンツもほかのプラットフォームと競わなくてはいけない。私はそういったところに懸念を持っています。アドバンテージがあるかもしれないし、大きく不利になる点もあると思うんです」

ローナ氏 「私はコロナ禍において何を優先させるべきかということを考えさせられました。どういうプログラムにするのか、なるべく多くの人にアクセスしてもらうことを考えたんです。例えばサンダンス映画祭はソルトシティだけでなくアメリカの全国の人が映画祭を見ることができる。ロッテルダムの映画祭もみんなが見られる。それまでは(会場に)来られず見れなかった人がオンラインで見れるようになった。映画祭はこれまではその国に行ったりそこに参加するのはなかなか金銭的にも物理的にもきついということがあったと思うんです。私は映画祭に行くのが大好きですが、みんなが行けるわけではないんですね。だからどうやってバランスを見つけるかということが私たちにとってとても重要で、そういったところも実験してできるかですね。それから私たちは映画が大好きで映画祭も大好きですが、カーボンフットプリント(二酸化炭素などの温室効果ガスの出所を調べて把握すること。炭素の足跡)の問題もあり気候変動に影響があります。プロデューサーとしてフィルムメーカーとして責任があると思うんです。よりクリーンな映画作りが必要でカンヌもほかの映画祭もそのことを意識するようになっていて、まずは社会的な課題は何かということを考えて、映画祭だけということだけでなく社会と共存しながら作ることが大切だと思います」

カルロ氏 「すごく驚いたんですがオンラインでできるということは領域が広くなるということです。どこまで広げるかのコントロールができなくなってしまうんです。今までは対面でやって2人しかいないとえーってなりますが、オンラインでやるとカーボンフットプリントの問題からもいいと思いますが、オンラインでも大きなサーバーを使っているわけですから炭素の排出には影響あるわけです。今私たちは過度期にあると思います」

フレデリック氏 「ジャン=ミシェルさんのパリの家の地下にビデオプロジェクトがあるそうなんですが、わたしはビデオプロジェクターもないし、1日中コンピューターやタブレットやテレビの前で仕事をしています。わざわざオンラインで映画を観ようとは思っていなかったんですけど、いいワインがあっていいスクリーンがあってカウチがあればそこで見ますよね。アメリカでは映画館があっていろいろ配慮がされていてテオンラインのプロセスも非常にいいわけです。オンラインで見なければいけない時もあるんですが、オンライン上映が多すぎるとも思います」

クリスチャン氏 「このパネルディスカッションは映画祭が今後どうなるかということもテーマです。映画祭は映画に光を当てて足を運んでもらうことです。それぞれ違う制限があったりしますが、フランスは結構参加率が高かったんです。いずれにしてもどうやってオンラインとバランスをとるかということです。今は皆さん外国にも出られるようになりました。海外のフィルムを地元の人たちに持ってくるということも大切ですし、自分の街に映画祭が来るということも重要ですが、そこにオンラインがどう貢献するのか。わたしたちはまだ答えが見つからないんですが、こういった危機的な状況の時にはいろんな意見を出し合い映画祭を行う意義は何かということを考えていく必要があると思います」

ジャン=ミシェル氏 「私も同じ意見なんですが補足させていただくと、映画祭がキャンセルされたりオンラインになったりしています。リアルにちゃんとした場所で観客を入れて行うという映画祭の基本的なことを保つべきですし、オンラインでの可能性を追求することも大切なんですけれども、違うフレームワークで考えることもできるのではないか。それぞれの映画祭はすごく有意義なものですが、カンヌに10日間とか、マイアミに10日間とか、そういったことを超えて、もっと空間とか時間とかその時期集中して映画とは何か、大きなオーディオビジュアルマーケットだけでなくアートとしての映画、そして民主的なありかた、イメージを皆で共有するストーリーを皆で伝えるということです。ですから映画祭に戦略が必要になってくるのではないかと思います。再デザインが必要ではないか」

市山氏 「質疑応答を行う前にローナさんにコレクティブ・フィフティ・フィフティについて是非お話をしてほしいと思います。東京国際映画祭もこのジェンダーのバランス、つまり男女共同参画を行います。まだ知名度が低いということもあります。ローナさんはこのことを東京国際映画祭に持ち込んでくださった方です」

ローナ氏 「これはフランスの映画業界で立ち上がったもので2018年、ケイト・ブランシェット、アニエス・ヴァルダ監督といった方が映画業界で男女の比率の格差を縮小しようということです。アジアの中で唯一そして初めてこのコレクティブ・フィフティ・フィフティに賛同して署名した映画祭だということをとても誇りに思っています。単に何かをやりましょうではなくて、例えばなるべく女性のフィルムメーカーを増やそうということを映画祭として課題として認めていくわけです。データを作成すれば現状がわかります。ただジェンダーとして50対50になればいいというものではありません。ジェンダーだけではなく社会の様々な事、例えば先住民の声だったりとか、映画を作るのはある程度裕福な人ではないと出来ないわけです。ですから社会の様々な層が参加すれば映画はさらに豊かになると思います」
その後会場からの質問を受けて質疑応答が行われ映画祭の現状や課題をめぐって最後まで議論が白熱した。 (第34回東京国際映画祭、開催期間:2021年10月30日(土)~11月8日(月) 会場:日比谷・有楽町・銀座地区 公式サイト:www.tiff-jp.net)