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「わたしの好きな映画・思い出の映画」:「世界残酷物語」と「八月の濡れた砂」のとっておき情報

(2020年6月6日)

コロナ感染拡大による緊急事態宣言も解除されていよいよ映画館も再開される中、映画評論家・荒木久文氏が、「わたしの好きな映画・思い出の映画」をテーマに、イタリア映画「世界残酷物語」や藤田敏八監督の伝説の青春映画「八月の濡れた砂」についてアツく解説した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、6月2日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

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(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

荒木   6月入りましたね。緊急事態宣言も一応空け、まだまだ元通りというわけにはいかないのですが、そろそろ新作映画の公開日時が決ってきました。

鈴木   お!いよいよ動き出しましたね。

荒木   新作映画が公開延期になったことからはじめたこの企画ですが、好評だったんですけど、このままずっと続けるというわけにもいかないので、一応今日で最終回になります。折を見てまたこんな企画やりたいですね。
…ということで、皆さんから「ダイちゃんやディレクターさんの好きな映画も聞けて楽しかったです。ところで荒木さんとか、プロの批評家や評論家さんたちの個人的に好きな映画、思い出の映画はどんなものがあるんですか?」というような質問を複数の方からいただいています。個人のことをお話しするのも僭越なのですが、今まであまりお話しすることがなかったので、いい機会なので「わたしの好きな映画・思い出の映画」について最後を飾ってお話ししようと思います。

鈴木   荒木久文さんの好きな映画ですか?それはすごいなぁ。

荒木   恥ずかしいんですが…。

まずプロの批評家とか評論家の方はどんな映画が個人的に好きなのですか?というご質問ですか、ちょうどいい資料がありました。
私も所属する「日本映画ペンクラブ」という組織があるんですが、昨年秋に60周年を迎えた記念として会員全員に「自分の好きな映画ベスト3」を聞かせてくださいというアンケートを実施したんです。その内容は今まとめていますので、今月末にでも特別編としてお話ししようかなと思います。いろんな面白かった映画が出てましたね。日本の映画・外国の映画などどんなものがプロは好きなのか、そのときに改めてお話ししますね。

ところで私自身の好きな映画についてですが、ダイちゃんと話したことありませんでした?

鈴木   いやー、わかんないな。たぶんないと思いますよ。

荒木   肝心なことはあんまり話してないんですね。口数多くて言葉が足りないとはこのことですね。
ベスト3発表するんですけど、どれも主題歌や音楽がとても良くて印象的な作品です。 …それでは東京都にお住まいの荒木久文さん(私)の好きな映画です。

3位は洋画です。実は二つあって、一つはアメリカン・ニューシネマの傑作「いちご白書」です。1970年のアメリカ映画。もう一つはスタンリー・キューブリックの遺作「アイズワイズシャット」、1999年の映画です。意外かな?この二つの映画、音楽がとてもいいので機会があったら音楽付きで紹介しようと思いますが、今日は時間がないので、私の好きな映画、思い出の映画的要素も多いんですが、2位と1位を紹介します。

第2位は…ジャン!! ヤコペッティの「世界残酷物語」知らないよね?

鈴木   世界残酷物語!名前だけ聞いたことあります。よく聞く映画ですよね。

アラキンのムービーキャッチャー/「わたしの好きな映画・思い出の映画」:「世界残酷物語」と「八月の濡れた砂」のとっておき情報
(映画「世界残酷物語」=DVDのジャケット)

荒木   古い映画です。1962年公開の作品です。この作品は、私が初めて映画館で観た作品なんです。これはね、私が小学校低学年の時に、高校の教師だった父親が何を間違えたか弟と僕を映画館に連れてって見せたんです。内容は忘れたんですけど、観たあと強烈な印象が残っていました。

鈴木   大きいスクリーンで観たからですかね?

荒木   そうそう。酔ったような感じで気持ち悪くなったのを覚えてます。
この映画はドキュメンタリー映画なんだけど、インチキなドキュメンタリーなんです。 イタリアのヤコペッティという人が、まだ海外旅行なぞ夢だった時代、海外のことが知られなかった時代に、当時の未開地域だったニューギニアや、アフリカ奥地の不思議な祭りや奇妙な風習や風俗文化、また、その対比として先進社会におけるヨーロッパやアメリカの文明人の退廃や地球環境の破壊なんかを見世物感覚で紹介する映画だったんです。
今でいう「世界衝撃映像集」みたいな感じです。でも後で分かったんですけど、中身はほとんどやらせ満載のフェイクドキュメンタリーなんです。いかがわしいのやらエロやらグロやら、犬を鍋で煮て食べたり、生きた牛の首をスパっと切り落としたり、残酷なシーンがこれでもかというくらい出てくるんです。
例えば、ウミガメが核実験の影響で方向感覚を失い海に戻れずひっくり返って死ぬシーンが出てくるんですが、これがとんでもないインチキで、映画のスタッフがウミガメを海に向かわせず、カメを自分たちで手でひっくり返していたというんだからとんでもない話です。女の人のヌードもバンバン出てくるし、今だとR-18どころかちょっと上映難しいでしょうね。
そんな映画を何を間違えたのかうちの親父、8歳と6歳の子供に見せちゃうんですよ。

鈴木   お父さんは内容知ってたんですか?

荒木   いやー、たぶん勘違いしてたと思うんですよ。世界の残酷な物語を見せて、お前たちは幸せだとか、そんな感じのことを伝えようと題名だけで選んじゃったんじゃないかなぁ。

鈴木   ある意味情操教育のつもりで見せたのかもしれないですね。

荒木   お堅い教師でしたから…。父ちゃんはヌードを見て困ってましたけどね。<br> この手の映画は、ばかばかしくても不思議な魅力がある作品です。モンド映画といって、イタリア語で犬の映画、というかスラングで「ゲス野郎」という意味です。僕には強烈な幼児期映画体験として残っています。おかげさまでこちらがすっかりモンド野郎・ゲス野郎になってしまいましたけどね(笑)
ところがこの映画の主題歌、ご存知の方多いしょうけど、本当に美しい主題歌が残酷なシーンに流れてくるんですよ。「MORE(モア)」という曲名で聞いたことがあると思います。 世界中でいろいろな人が歌っているスタンダードになった曲です。残酷な映像に不釣り合いな美しい音楽という組み合わせがこの映画から始まってしばらく流行しました。 それではお聴きください、「MORE(モア)」です。
「MORE(モア)」

鈴木  きれいな曲ですよね。

荒木  ということで私の好きな映画2位は「世界残酷物語」というインチキものでした。

鈴木   荒木さんの全てが垣間見えてちょっとこっぱずかしくなりますね。いいですね。

アラキンのムービーキャッチャー/「わたしの好きな映画・思い出の映画」:「世界残酷物語」と「八月の濡れた砂」のとっておき情報
(映画「八月の濡れた砂」=DVDのジャケット)

荒木   そして私の好きな映画第1位は…ジャン!!!1971年公開の日本映画、藤田敏八監督の日活作品「八月の濡れた砂」です。
ダイちゃん見たことありますか?

鈴木   ないんですけど、石川セリさんの歌のですよね。

荒木   そうです。映画自体は50年も前の作品です。石川セリさんの主題歌が大ヒットしたんですけど、映画の方は観ていない人が多いと思います。
私が高校生の時公開されて、初めて観たのは大学生になってからでした。

ストーリーは、夏の海を舞台に、やり場のないエネルギーを持て余してセックスと暴力に明け暮れる無軌道な若者たち、といっても高校生と退学した元同級生です。二人の姿を描く青春映画といってもいいんですけど、“シラケ世代”の暴力映画を象徴するような映画です。

鈴木   青春というにはそこまで爽やかじゃないってことですよね。

荒木   全く爽やかじゃないです。美しい湘南の海を背景に、若者たちのしらけながらの暴走…投げやりで飽きっぽくて、何に対しても情熱を持っていないんですよ。セックスでさえ投げやりで、思いつきで無茶苦茶な行動をしているだけなんです。<br> 時代背景には1971年という、沖縄やベトナムなど大学闘争が後退を余儀なくされ目標を失った当時の若者たちという存在があったわけですよ。退廃的でやり場のないむしゃくしゃとした感情とじりじりする焦燥感が詰まっていて、逃げ場のない閉塞感が映画から溢れて伝わってきます。不思議な悲観的な青春映画です。

私は当時田舎から都会に出てきたばかりで、湘南なんてしゃれたところ行ったこともありません。湘南の砂浜と海、かっこいいオープンカーとヨット。ロングヘアーの美少女、赤いビキニとか・・・アイテムが眩しくて…。<br> そこで暴れる不良少年ですよ。湘南でナンパして喧嘩するなんてかっこいい不良、見たことありませんから。私の田舎にもおっかない不良はいましたけど、彼らは日曜には田んぼの草取りしてましたから…。ギラギラしてる感じとキラキラ感が独特の雰囲気でした。無軌道で自由奔放な若者たちの青春の爆発と退廃、そして絶望感というか、こっちは大学に入ったばかりだというのに、「生きる目的を失った若者像」がリアルに描かれているんです。

鈴木   やっぱり自分のことのように思えたんですか?

荒木   将来の夢もまだわかっていなかったから、もっとバラ色なはずの若者がこんなに退廃的でいいのかと思ってたけど、やっぱり生きる目的を失っちゃうとそうなってしまうのかなと思いましたね。私も大学に入った当時は、勉強する目的が見えていなかったので同じような心境になったのをよく覚えています。
この映画、今の大学生が見ても全く響かないでしょうね。やはり時代性ってものがないと映画って生きてこないんだということが分かりました。その見本のような映画です。
そういう意味でも私の記念碑的映画です。この作品のあとに日活はロマンポルノ路線「団地妻 昼下がりの情事」などに移行するので、旧体制日活映画の最後の作品です。墓碑銘的な作品でもあります。
当時を知る世代と知らない世代で温度差がはっきりと出る作品なので、「かつて日本にこういう時代があった」という時事性を考慮しながら鑑賞すると感慨深いものがあるかもしれません。

この作品見たことのない人もこの主題歌は聞いたことあるでしょう。エンディングに流れるんですよ。俯瞰カメラが上から海を走るヨットを映すんです。そこに石川セリの歌が流れてくるんですけど…今でも涙出ますね。

…ということで、私の好きな映画1位は「八月の濡れた砂」。独りよがりになって熱が入ってしまいましたけどどれも作品的な質で言えばそんなに上に来る作品ではないですね。特にモンド映画なんてインチキですから。

鈴木   荒木さん今目の前にいたらハグしたくなりました!なんかいいですねぇ。

荒木   ありがとうございます。

ということでリスナーの方からいただいた思い出の映画、好きな映画は今日で最後です。私の思い出の映画ということでわがまま言ってしまい申し訳ないです。
13日あたりから映画館も稼働が始まりそうなので、また新作映画の紹介中心のパターンに戻りますが、折に触れてこういう企画もやりたいですね。

「八月の濡れた砂」(石川セリ)

鈴木  では 映画「八月の濡れた砂」から石川セリ「八月の濡れた砂」でした。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。