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「アナザーラウンド」“血中アルコール濃度”で人生を変えた高校教師のドラマ

(2021年9月4日11:15)

「アナザーラウンド」“血中アルコール濃度”で人生を変えた高校教師のドラマ
「アナザーラウンド」(9月3日(金)全国公開) (©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.)(配給:クロックワークス)

「血中アルコール濃度を常に0.05%に保つと仕事もプライベートもうまくいく」というなんとも奇想天外な理論を証明するために、酒を飲んで真剣に実験したことがきっかけで人生を変えた4人の高校教師の数奇なドラマを描いた異色のデンマーク・スウェ―デン・オランダ合作のコメディ映画。第93回アカデミー賞の国際長編映画賞を受賞し監督賞にもノミネートされたほか、第74回英国アカデミー賞の外国映画賞など国際的に注目された。主演は「007 カジノ・ロワイヤル」(2006年)、「ドクター・ストレンジ」(2016年)などで知られ「ファンタスティック・ビースト3」(2022年)、「インディジョーンズ5」(同)への出演が決まっているデンマーク出身の実力派で「北欧の至宝」といわれるマッツ・ミケルセン。監督はデンマーク出身のトマス・ヴィンターベア監督で「偽りなき者」(2012年)に続いてミケルセンとコンビを組んだ。同作はカンヌ国際映画祭でミケルセンが男優賞を受賞し、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。ヴィンターベア監督は「ニンフォマニアック」などで知られるデンマークのラース・フォン・トリアー監督とドグマ95を共同で初め、1998年のドグマ95映画「セレブレーション」で、カンヌ国際映画祭審査委員賞を受賞した。

■ストーリー

デンマークのさえない高校教師マーティン(マッツ・ミケルセン)は、歴史を教える授業の評判が悪く父兄や生徒から苦情をいわれる。家では2人の息子からまともに相手にされず妻(マリア・ボネヴィー)は夜勤が続いて夫婦仲は冷え切っていた。そうしたなか、マーティンは同じ高校の同僚教師トミー(トマス・ボー・ラーセン)、ピーター(ラース・ランゼ)、ニコライ(マグナス・ミラン)と4人で、ノルウェー人哲学者の「人間の血中アルコール濃度は常に0.05%を保つのが理想」という理論を証明するために、アルコールの血中濃度を計測する器具を持参して高校のトイレで隠れて酒を飲んで授業するなど常に酔った状態を保つというとんでもない実験に取り組み、それを論文にまとめようとする。すると、マーティンの退屈な授業は一変して活気と笑いに満ちて生徒たちとの関係も良好になり、さらには家族をカヌー旅行に誘って妻や息子との関係も良好になった。同僚たちも様々な形でいい方向に向かうが、血中濃度をさらに上げて事態は制御不能の異次元の世界に迷い込んでいく。

■見どころ

「血中アルコール濃度を0.05%に保つ」という発想がなんともユニークで、しかも高校教師が酔って授業をするという発覚すれば懲戒処分必至のとんでもないことを職場にも生徒にも発覚しないように始めるという展開が何ともユニークだ。4人の心地よい酩酊状態や泥酔状態の演技は絶妙で真に迫っている。4人が酒で人生を好転させ、家で音楽を聴きながら踊るシーンなど愉快で笑いに包まれる。だが血中濃度を上げることで次第に泥酔するようになり、半端ない泥酔で醜態を見せるなどして4人を取り巻く事態が暗転してゆくくだりは身につまされる。そして4人はどうなるのかも見どころだ。酒をめぐる悲喜こもごものドラマをミケルセンら4人の個性的な俳優がリアルにユーモラスに、そして涙を誘うシーンもあり熱演している。ラストで見せるミケルセンのキレキレの独創的ダンスは圧巻。心地よく"酔える"人生賛歌の映画だ。
(2021年9月3日から渋谷シネクイント、新宿武蔵野館などで上映中)