カンヌ・脚本賞の坂元裕二氏、是枝監督と記者会見「まだ夢の中にいるよう」

(2023年5月20日13:45)

カンヌ・脚本賞の坂元裕二氏、是枝監督と記者会見「まだ夢の中にいるよう」
坂元裕二氏㊧に盾を渡す是枝監督 (「怪物」の公式ツイッターから/@KaibutsuMovie)

第76回カンヌ国際映画祭の脚本賞を受賞した「怪物」の坂元裕ニ氏(56)が29日、帰国した是枝裕和監督(60)から、羽田空港でトロフィーを渡され、2人そろって空港内の会場で記者会見した。

是枝監督は「映画にとって本当に素晴らしい評価ををいただいたなと思っております。この脚本賞の盾を、僕が運んだわけであはありませんけれど、坂元さんに渡すことができて、ちょっとほっとしています」と笑顔を見せた。

坂元氏は「実感は正直あまりありません。この受賞を初めて聴いたとき寝ていたものですから、第一報を聞いた瞬間、まだ夢を見ているのかなと思いました。その後まだ続いているようで、今も夢の中にいるような思いと、ただこの重み自体が大きなこの作品の責任感だと感じますので、私自身とても手にも背中にも乗っかった大きな責任だと感じております」

今回の受賞で脚本を書くのに変化は出てくるかと聞かれ「最近映画の脚本を書くようになりまして、2本目のようなものですが、まだ監督の力を借りながら、プロデューサーの力を借りながら,ゆっくりと進んでいるところですから、今回も含めて周りの力によるものだと考えています」と述べた。

受賞コメントで、「たった一人の孤独な人のために書いた」としていたことについて聞かれ「きっとどこかにいるであろう孤独に過ごしている誰か、それは特別に誰かを指しているわけではなく、またたくさんの人に届けるという気持ちではなく、誰かこの映画を受け止めてくれる、そんな人がいると信じて、その人のことを頭の中にお思い描きながら書いていました」と語った。

また「子供のころの経験を思い出しながら書いた」と話していたことについては「仲良かった友達のことや、何人かの僕が小学校時代から中学にかけて出会った友人や出来事、そんなことを思い返しながら書きました」と明かした。

また「一番うれしかったのはジョン・キャメロン・ミッチェル監督から昨日、メッセージをいただきまして脚本賞の受賞おめでとうございますというメッセージが届きまして、タクシーの中にいたんですが、涙が出ました」と明かした。同監督は「怪物」が受賞したカンヌのクイア・パルム賞の審査委員長を務めた。


脚本のどこを評価されたと思うかという質問には「脚本を審査される方が読んでくださってるわけではないので、出来上がった作品から脚本を評価していただいたんだと思うんですが、作品のの素晴らしさ、そして脚本に関しては自分ではなかなか評価しづらいんですが、ジョン・キャメロン・ミッチェル監督は、人の命を救う映画になっているとおっしゃってくださったので、それが誰かの心にあるなら、こんなにうれしいこてゃないなと思っています」と語った。

子供と親と教師という3つの視点から描かれていることについて、以前車を運転していた時に前のトラックが信号が青になっても動かないのでクラクションを鳴らしたら、実は横断歩道を車いすの人が渡り切るのを待っていたことが分かった。それが見えずにクラクションを鳴らしたことを後悔し続けているというエピソードを話し、「世の中には生活していて見えないことがある。私自身、自分が被害者と思うことにはとても敏感ですが、自分が加害者と気づくことはとても難しい。どうすれは、加害者が被害者にしていることを気づくことができるだろうか。そのことをこの10年あまり考え続けてきて、その一つの描き方としてこの方法を選びました」と明かした。

是枝監督は「僕自身は最初にいただいたときから、一体何が起きているのかわからない。わからないのに読むのが止められない。どこまで行ってもわからない。映画の半分過ぎてもまだわからない。こんな書き方があるんだな。自分の中にはない物語の語り方でしたし、読み進めていくうちに読んでいた自分がこの作品によって批評されていく。坂元さんの話でいうと、クラクション鳴らす側に否応なくなってしまう。そのある種の居心地の悪さが最後まで持続することがとても面白かった。エンターテインメントとしても本当に面白かった。それが一番チャレンジしがいのある脚本だなっと思ったことのひとつです」と語った。

坂元氏は「高校のころに映画をたくさん浴びるように見て、映画を作る仕事をしてみたいと10代20代の前半はずっと思っていた」という。途中で1本映画を作ったが、その時に「映画の監督に向いていない」と分かってそれ以来やめようと思っていたが、30年近くたって「今ならできるんじゃないかと思ったりしていたが、「今回是枝さんお仕事を見ていて、やっぱりこれは自分にはできないとはっきりわかりましたので、本当に映画監督って杉仕事名だと思いました」という。

坂元氏は19歳で第1回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞。「東京ラブストーリー」(91年)など人気ドラマの脚本を数多く手がけた。96年には監督作「ユーカリ」を手がけた。
今後については「もうカスカスなんですよ」といい、「絞ってもなにも出ない状態なので、日々いろいろなことを学び、周りの方に助けていただきながら書いている。正直これからなにが書けるかはまったく見えておりません」「諦めずにやることだけ」と語った。「当面映画を書くことは決まっています。ドラマを描くことは決まっていません」という。

「怪物」のストーリー「大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した―」(公式サイトから)。6月2日公開。