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映画
「太陽の運命」2人の沖縄県知事の政府との闘いを通して沖縄の真実に迫るドキュメント
(2025年4月18日16:30)

政治的立場は正反対で互いに反目しながらも国と激しく対峙した二人の沖縄県知事、大田昌秀氏と翁長雄志氏の壮絶な国との闘いを通して沖縄が抱える問題を追跡したドキュメント映画「太陽の運命」(佐古忠彦監督)が4月19日から公開される。
第4代知事の大田昌秀氏(任期1990~98年)と第7代知事の翁長雄志氏(任期2014~18年)は、ともに県民から幅広い支持を得て、保革にとらわれず県政を運営した。大田氏は、軍用地強制使用の代理署名拒否(1995年)、一方の翁長氏は、辺野古埋め立て承認の取り消し(2015年)によって国と法廷で争い、民主主義や地方自治のあり方、この国の矛盾を浮き彫りにした。
大田氏と翁長氏の二人の「ティダ」(太陽の意。遥か昔の沖縄で首長=リーダーを表した言葉)は、知事として何を目指し、何と闘い、何に挫折し、そして何を成したのか。そこから見えるこの国の現在地に迫っている。
本作は、沖縄戦後史を描いた『米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー』2部作(2017/19)、戦中史を描いた『生きろ 島田叡―戦中最後の沖縄県知事』(2021)に続く佐古忠彦監督の最新作。それぞれの信念に生きた二人の知事の不屈の闘いをたどり、その人間的な魅力にも光を当て、彼らの人生に関わった多くの人々の貴重な証言を交えて沖縄現代史に切り込んだ、全国民必見のドキュメンタリーになっている。
佐古監督は「沖縄に通い始めて四半世紀以上になる。その時間は、取材でお世話になった方々との出会いはもちろん、ともに取材し、情報を交換し、議論する時間を共有してきた沖縄の仲間たちの存在なくしては、決して成り立たない。2022年、復帰50年の年の夏のことだった。そんな仲間たちと、次回作の構想についての話になったとき、私はこう言った。“沖縄の民意を示す『沖縄県知事』が国との対応に苦悩する姿を描くことで日本の問題を浮き彫りにできないか―”。」とメッセージを寄せている。
そして「それは、『米軍(アメリカ)が最も恐れた男』で、カメジローこと瀬長亀次郎を通して描いた戦後史、次に、その原点を伝えたいと、時代を遡り『生きろ』で描いた沖縄戦から地続きの歴史の上にある、いわば現代史だ。では、現代史を紡ぐうえで、なぜ『沖縄県知事』なのか。過酷な地上戦のあと沖縄にやってきたのは、平和ではなく、27年に及ぶ軍事占領だった。復帰後は、沖縄の米軍統治と引き換えに復興の道をひた走った本土との差をいかに縮め、本来の沖縄の姿を取り戻すか、その道筋はいかにあるべきか、その課題の中で、常に『保守か革新か』『基地か経済か』の選択を迫られてきた沖縄の象徴が県知事である。その存在そのものが、そのまま戦中、戦後から苦難の道を歩み続ける沖縄の現代史を体現していると考えるからだ」などしている。







映画は1972年5月15日、初代沖縄県知事・屋良朝苗氏が、沖縄県の発足を宣言するところから始まる。だが、「米軍基地が無くなり沖縄の無条件完全な返還」という思いはかなわず、基地はアメリカが自由に使えるまま残った。それから8代の県知事が「沖縄の運命」とどう闘ったのかが、当時の記録映像、当事者や関係者、有識者などの独自のインタビュー映像で詳細が描かれ、沖縄と政府の攻防の歴史の克明なドキュメントになっている。
大田氏は1990年、琉球大学の教授から、「基地撤去」を公約に出馬して当選。95年、3人の米兵による少女暴行事件が起き、日米地位協定の改定を求めて河野外相(当時)に直訴するが拒否される。さらに米軍用地の未契約地主に対する強制執行の代行手続きを拒否して国に提訴されて最高裁で敗訴するなどの一連の壮絶な攻防が描かれる。
一方、当時自民党に所属していた翁長氏は革新系の大田知事をことごとく批判。98年11月、県知事選で翁長が後押しする稲嶺惠一が大田を破り当選。99年11月には稲嶺知事が代替施設を受け入れ、キャンプシュワブ水域内の名護市辺野古沿岸に決定する。
この時翁長氏は代替施設を軍民共用の空港にして15年の期限をつけることを提案する。小渕首相(当時)は受け入れて閣議決定するが、2006年5月、小泉政権がそれを反故にして、新たな閣議決定で、米軍再編に伴い辺野古沖合から沿岸部の埋め立て地に変更する。
当時那覇市長だった翁長は反発。基地が固定化するとして政権批判をするようになる。そして2914年9月、沖縄県知事に出馬。保守革新の枠を超えた勢力を結集して圧勝。菅官房長官や安倍首相(当時)との会談を重ねるが「辺野古移設は唯一の解決策」として政府は譲らず、翁長氏は2015年10月、辺野古埋め立て承認取り消しを求めて提訴。国は取り消しの取り消しを求めて逆提訴するなど争い、最高裁で沖縄県の敗訴が確定。翁長が大田と同じ道をたどったことなど、詳細な経緯から、2人の原点や人柄、そして亡くなるまでが描かれていて”沖縄の現代史の教科書”のようで見ごたえがある。
2人の闘いは現在の玉城デニー知事にも引き継がれているが、同じようなことが繰り返されているのも現実だ。2019年2月14日の沖縄県民投票で辺野古の新基地計画について「反対」が74%に達したにもかかわらず、当時の安倍首相は「これ以上先送りをすることはできない」と投票結果を受け入れない姿勢を示し、現在も基地建設は続けられている。
大田氏も翁長氏も「日本国憲法の上に日米地位協定がある」と指摘していることも注目される。2人の沖縄県知事の闘いをクローズアップしたこのドキュメント映画は、沖縄問題や日米安保問題をどう受け止めるかを問いかけている。
【クレジット】
作品タイトル:『太陽の運命』、タイトル読み:「ティダのうんめい」
監督:佐古忠彦
撮影:福田安美 音声:町田英史 編集:庄子尚慶
語り:山根基世
音楽: 兼松衆 阿部玲子 澤田佳歩 佐久間奏 栗原真葉 三木 深
選曲・サウンドデザイン: 御園雅也 音楽制作プロデューサー:水田大介 音響効果:田久保貴昭
プロデューサー:小濱裕 嘉陽順 嘉手納央揮 米田浩一郎 松田崇裕 津村有紀
テーマ曲:「艦砲ぬ喰ぇー残さー」 作詞・作曲:比嘉恒敏
劇中歌歌唱:でいご娘 / エンディングテーマ演奏:辺土名直子
2025年/日本/日本語 カラー(一部モノクロ)ビスタ/5.1ch/129分
琉球放送創立70周年記念作品 制作:琉球放送 TBSテレビ 配給:インターフィルム
©2025 映画「太陽の運命」製作委員会
2025年3月22日(土) 沖縄 桜坂劇場 先行公開
4月19日(土) 東京 ユーロスペース 他全国順次ロードショー