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映画
「死の天使 ヨーゼフ・メンゲレ」主演アウグスト・ディール インタビュー公開
(2026年2月27日11:00)

第二次世界大戦後、“死の天使”と恐れられたナチス医師ヨーゼフ・メンゲレの南米での30年に及ぶ潜伏生活、息子との再会、そして過去の亡霊との対峙を描く映画「死の天使 ヨーゼフ・メンゲレ」(27日公開)で、ヨーゼフ・メンゲレを演じるアウグスト・ディールのインタビューが公開された。
ナチスへの忠誠を拒否する農夫(『名もなき生涯』)、ナチスの偽札作戦に協力させられたユダヤ人の天才贋札師(『ヒトラーの贋札』)、ナチス残党への復讐を決意するホロコーストを生き延びたユダヤ人(『復讐者たち』)、語学が堪能な若きSS将校(『イングロリアス・バスターズ』)などの数多くのナチス映画に出演し、ナチス党員からホロコースト犠牲者といった多様な役柄を演じてきたアウグスト・ディールだが、“怪物”ヨーゼフ・メンゲレ役のオファーにはこれまでにない葛藤を苦悩があったという。その理由がこのインタビューで明かされた。
――――ヨーゼフ・メンゲレ役をオファーされたとき、どう感じましたか?
「正直に言うと、この役を受けるべきか長い間迷いました。こんな経験はこれまで一度もありません。最初に頭に浮かんだのは、「なぜこの男とその思想に、映画という場を与える必要があるのか?」という疑問でした。
そして私自身のこととしても、「もしこれが自分の最後の映画になるとしたら」と考えました。人生の貴重な時間を、この“悪の象徴”のような人物を演じることに費やすのは正しいことなのか?と、とてもためらいました。しかし、監督のキリル・セレブレン二コフが「これはブラジルで静かに消えていく“ひとりの老人”の物語なのだ」と映画の構想を語ってくれました。その物語は私が想像していたものとはまったく違っていました。
その後、原作を読み、じっくりと考えた末に、「出演します」と答えました。そして、この役を演じたことを後悔することはないでしょう。」

――あなたにとって、ヨーゼフ・メンゲレとはどのような人物ですか?
「彼は“怪物”です。しかも、この種の怪物が世界から消え去ることは決してありません。5歳のメンゲレはおそらく悪ではなかったでしょう。では、何が彼を変えたのか?ハンナ・アーレントの言う「悪の凡庸さ」という概念が、彼を理解するうえで非常に重要になります。
彼は一度もアウシュヴィッツでの行為を悔いたことがありません。自らの思想を手放すこともありませんでした。アルゼンチンで暮らしていた時でさえ、彼は双子の研究に取り憑かれ続け、その怪物的な実験を継続しようとしていました。
しかし同時に、不思議なことに、彼と関係を持った女性のひとりは彼の正体を知らぬまま、「私に温かさを与えてくれた唯一の男性だった」と語っています。どうしてそんなことがあり得るのか?まさにその謎こそが、私をこの役に引き寄せました。
脚本でとても魅力的なのは、“怪物”と呼ばれる人々の中にも、深く人間的な側面があることを描いている点です。恐ろしいのは、その“人間らしさ”そのものなのです。」
――役作りのために、どのような資料や情報を参考にしましたか?
「彼について書かれたものはすべて読みました。特に彼の息子をはじめとする証言者たちの言葉に注目しました。脚本は三章構成になっていて、それぞれがイスラエ諜報機関・モサドから逃れるためにメンゲレが使った偽名を冠しています。まるで、人生がモザイクのようにバラバラの断片でできているようでした。それぞれが異なる人物のようでありながら、根底ではひとつの世界観—“メンゲレという現実の認識”によって結びついているのです。
私にとってこの映画は、メンゲレの果てしないモノローグのようなものです。彼は他者に語りかけているようでいて、実は自分自身にしか語っていない。息子に話しかけても、犬に話しかけても、言葉の内容はいつも同じ。彼の周囲には、常に見えない壁が存在し、誰とも本当の意味で繋がることはありません。彼は、孤独な自己対話の中に閉じ込められているのです。」

――『死の天使 ヨーゼフ・メンゲレ』が、いまの時代において重要だと思う理由はなんですか?
「ヨーゼフ・メンゲレは“地上の地獄”を創り出した人間です。にもかかわらず、戦後、彼が何をしたかを知る人はほとんどいませんでした。生存者たちが証言を始めるまで何年もかかり、彼が世界的に知られるようになったのは、ずっと後のことでした。それを考えると、「今現在も私たちがまだ知らない“メンゲレたち”が存在しているのではないか」と思わざるを得ません。
私たちは本能的に、彼のような人間を“怪物”として箱に閉じ込めたがります。しかし、それはあまりにも安易な姿勢です。この世界には、いまも多くの“メンゲレ”が存在し、悪はまさに現在進行形で起きています。私たちにできるのは、それが“人間的なもの”であると同時に、“抑えることができるもの”と意識すること。それこそが、私たちの責任なのです。」
ナチス政権崩壊から80年が過ぎた今でも、ナチスを題材として映画は数多く作られ、全世界で公開されている。彼らがおこなった非人道的な行為が決して忘れられることがないように、メンゲレのような怪物が二度と現れないように、キリル・セレブレンニコフ監督やアウグスト・ディールのメッセージが込められた作品になっている。
【アウグスト・ディール(August Diehl) プロフィール】
1976年、ベルリン生まれ。ベルリンのエンルスト・ブッシュ演劇大学で演技を学び、1999年に主演作『23 トゥエンティースリー』で俳優デビュー。同作でドイツ映画賞最優秀俳優賞を受賞し、一躍有名になる。その後、アカデミー外国語映画賞受賞作『ヒトラーの贋札』(07)、クエンティン・タランティーノ監督作『イングロリアス・バスターズ』(09)、テレンス・マリック監督作『名もなき生涯』(19)など、話題作に次々と出演。その他の主な出演作に『復讐者たち』(20)、『不思議の国のシドニ』 (23)、『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』(24)など。






【物語】
第二次世界大戦中、アウシュヴィッツ収容所で戦慄の実験を行った医師ヨーゼフ・メンゲレ。<死の天使> と呼ばれた彼は終戦後、南米で潜伏生活を送る。ナチス時代の仲間たちが次々と捕まる中、彼は戦犯を追求するモサドの網を狡猾にくぐり抜け、歪んだ思想を持ったまま、日常の世界に溶け込んでいく。
【見どころ+】
第二次世界大戦中に、ユダヤ人を大量虐殺したナチス・ドイツのアウシュビッツ収容所で「死の天使」の異名をとった医師ヨーゼフ・メンゲレの残虐な人体実験などが明かされるとともに、戦後、連合軍の戦犯追及を逃れて南米に逃亡し、アルゼンチンのブエノスアイレスで生き延びたことがリアルに描かれる。メンゲレを支援し、逃亡生活を手助けして、極秘の集まりでは最後に「ハイル・ヒットラー!」と手を上げる異様な光景も登場する。そして、アドルフ・アイヒマンの逮捕・処刑の知らせが届き、パラグアイ、ブラジルへと移動して裁きを逃れる。息子のロルフ(マックス・ブレットシュナイダー)が偽のパスポートでブラジルに入国してメンゲレと再会をはたすが、ロルフがアシュビッツでメンゲレが何をしたのか真相を正すが公開を口にすることもなく開き直る父子の対峙シーンも”ナチスの闇”を象徴するように見えた。ヨーゼフの生涯を通してナチス・ドイツの未曽有の戦争犯罪を改めて想起させる作品になっている。
【クレジット】
監督・脚本:キリル・セレブレンニコフ(『リモノフ』)
原作:オリヴィエ・ゲーズ 『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』 (東京創元社・創元ライブラリ刊)
出演:アウグスト・ディール(『イングロリアス・バスターズ』 『名もなき生涯』)、マックス・ブレットシュナイダー、フリー デリケ・べヒト
2025 年/フランス・ドイツ合作/ドイツ語・スペイン語・ポルトガル語/135 分/モノクロ(一部カラー)/5.1ch /原題:Das Verschwinden desJosef Mengele 英題:The Disappearance of Josef Mengele/ 日本語字幕:吉川美奈子/字幕監修:柳原伸洋/R15+/配給:トランスフォーマー
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2月27日(金)シネマート新宿、シネスイッチ銀座ほか全国公開