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又吉直樹の小説を映画化した「劇場」と韓国映画「悪人伝」のとっておき情報

(2020年7月18日17:10)

映画評論家・荒木久文氏が、芥川賞受賞作家又吉直樹の同名小説を、山﨑賢人・松岡茉優のキャストで行定勲監督がメガホンを取り映画化した話題作「劇場」と韓国映画「悪人伝」の見どころやとっておき情報を明かした。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、7月14日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

又吉直樹の小説を映画化した「劇場」と韓国映画「悪人伝」のとっておき情報
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

荒木   よろしくお願いします。
雨が降り続いていますけど、調子は大丈夫ですか?

鈴木   じめじめとしていてなんか身体がだるいですね。

荒木   やっぱり調子悪いですよね。この時期は仕方ないですね。頑張りましょう。

ということで、雨のうえにコロナもあって今年は憂鬱なことが多いんですが、映画業界についてはコロナとの関係をお話してきましたが、それと非常に近いのがダイちゃんがメインでやってる音楽業界や、演劇・バレエ・オペラなんかですね。ダンス・舞踊・ミュージカルなどの公演自体は、やはり4月あたりから全てストップしていますね。ぽつぽつ始まってはいるようですが、まだまだ恐る恐るという感じでしょうか?
でもどうしてもバレエが見たいよー、オペラが見たいよー、演劇行きたいよーという人は、以前にもご紹介しましたが、映画によるライブビューイングという方法があります。超一流の世界レベルの芸術に触れられる機会です。海外の公演を映画収録して、いち早く日本の劇場で放映するという企画ですね。
まずオペラですが、メトロポリタン歌劇場(メト)の最新のオペラ公演の配信を映画館で上映する『MET LIVE VIEWING 2019-204』シーズンが上映中です。7月の演目はワーグナーの『さまよえるオランダ人』です。詳細は松竹株式会社にお問い合わせください。 バレエで代表的なのは、東宝東和の『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン』というものがあります。7月は『ロミオとジュリエット』です。あの映画『キャッツ』で白猫ちゃんを演じた、プリンシパルダンサーのフランチェスカ・ヘイワードの主演です。 それぞれホームページで検索してください。

そして演劇です。
ダイちゃんは演劇学科出身でしたよね?

鈴木   そうなんですよ。一応、大学の演劇学科の演技コースです。

荒木   演技してたの?演技を勉強してたの?

鈴木   演技コースの方がまだ入れるかなぁと思って入学試験受けたんですけどね。

荒木   演技下手ですよね?

鈴木   ははは。いや、意外にいい役何回かやらせてもらったんですよ。

荒木   そうなんだ。面白いね。

日本の演劇界も映画と同じように、観客を半分ほど入れて公演を始めたようですがまだ数は少ないようです。演劇界も同じく映画で見る方法があります。
超人気の劇団『劇団☆新感線』の舞台を高画質・高音質で上映するゲキ×シネシリーズ。有名ですよね。
今回は2019年に行った39周年サンキュー興行夏秋公演を収録。ご存知看板役者の古田新太さん大活躍、7月10日からの演目は『けむりの軍団』です。すごい迫力で舞台が再現されていますよ。
そして『劇団☆新感線』次の舞台は、その名も『PRE AFTER CORONA SHOW』! 劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)と古田新太がタッグを組んだ舞台『PRE AFTER CORONA SHOW』はライブ配信という形をとるようですね。
ここのところ劇場でのクラスター発生などのニュースもあって、劇団関係者は心配ですよね。

鈴木   やっぱりお客さんがいて、劇場の匂いというか呼吸感が大事なんですよね。芝居はね。

荒木   そうですよね。
大きな劇団もそうですが、小劇団はもっと大変ですよね。
下北沢などの小さな劇場を拠点に活動する劇団は、本当に存続の危機に瀕しているそうです。一刻も早くこうした小劇団が前のように、目いっぱい元気に活動してもらいたいですね。

ということで、今日ご紹介の新作映画一本目は下北沢を舞台にした、小劇団の演劇に青春をかけた若者たちの恋愛映画です。7月17日公開です。
芥川賞受賞作家、又吉直樹の2作目となる小説を、主演・山﨑賢人君、ヒロイン・松岡茉優さん、行定勲監督のメガホンで映画化した『劇場』という作品です。劇場はシアターです。演劇の劇場ね。

又吉直樹の小説を映画化した「劇場」と韓国映画「悪人伝」のとっておき情報
(「劇場」17日公開=インスタグラムから)

主人公は永田君という男の子です。あの山﨑賢人君が演じています。彼は演劇が大好きで、中学校の時からの友人と立ち上げた「おろか」という名前の劇団で脚本と演出を担当しています。当然、劇団の主催者、代表みたいものです。ところが、彼の前衛的でわかりにくい作風は公演をするたびにひどい評価で、もちろんお客も来ません。次第に役者や劇団員も永田君に愛想をつかし離れていきます。そしてとうとう劇団は解散状態になってしまいます。
演劇に対する自分の理想と現実とのギャップに永田君は悩み苦しみ、言いようのない孤独を抱える毎日を送っています。
そんなある日、沙希ちゃん(松岡茉優)を町で見かけます。
もともと内向的な永田君は、この時は自分でも信じられないほどの積極性で沙希ちゃんに声をかけます。戸惑う沙希ちゃんも彼を放っておけずに知り合いになり、やがてお金のない永田君は沙希ちゃんの部屋に転がり込み二人は同棲し始めます。
実は沙希ちゃんも演劇が好きで、女優になる夢を抱いて田舎から出てきて服飾の大学に通っていたんです。そんなこともあり沙希ちゃんは自分の夢を重ねるように永田君を応援し支えます。永田君はそんな沙希ちゃんを大切に思いながらも、ますます自分の理想の演劇に没頭していくのですが…というお話です。果たして彼等はどうなるのか。
演劇のメッカ、下北沢を舞台にした7年間のふたりを描いた恋愛ドラマです。

鈴木   こういう二人、大学の友達とかカップルにいっぱいいましたよ。

荒木   いそうだよね。特に演劇関係者はそういうのあるからね。

鈴木   いましたね。 いましたね。

荒木   そしてメインキャストは山﨑賢人君と松岡茉優さんと豪華なので話題の映画です。
山﨑君、自意識ばかりが強くて暗い重い役。よく演劇系にいるような、外見もむさくるしい恰好で薄い無精ひげ、ぼさぼさの長髪と今まで見たことない山﨑君の姿です。
あのかっこいい山﨑君はどこ行ったのと思いますが、内面的には才能のない自分に気付きながら、自分の夢を叶えることが相手を幸せにすることだと信じている男です。不安と苛立ちで大切な人をも傷つけてしまうダメな痛い役です。

松岡さん演じる彼女の沙希ちゃんはかわいくて、優しいというか優しすぎるんです。彼の才能のなさに気が付いているのに夢を追う彼を傷つけたくない。だから信じようとする、信じてあげたい…。でも男性のためにはならないですよね。そんな現実との矛盾が結局彼女の心を壊してしまうという、松岡茉優さんの演技が半端じゃないです。恐ろしいくらいです。
観客の我々としては、夢を追いかけ諦めたことのある人、もしくは今もそれを叶えようともがき続けている人は誰もが胸に迫ります。心をえぐられて息苦しいような感覚や、自分の心を投影したようなシーンが多かったです。痛い自意識ばかりの自分を思い出します。
私もこの前、久々に大学生時代の日記を読んでひっくり返りましたよ。「なんだこの強烈な自意識は」って。馬鹿馬鹿しくて面白いくらい強烈な自意識ですよね。

鈴木   何書いてたんですか?日記?

荒木   日記書いて、自分の身の回りのことを書いてたんですけど、やっぱり自分に対する意識って本当にね…まあ若いときは自意識をきちんと持ってないと世の中渡っていけないからね。だけどこの年になると滑稽だなと感じますね。若い人は自意識ないと生きていけないよ。強い意識がが人間を育てることもあるからね。そういう我々世代もそうだし、ダイちゃんの若い世代でも色んなことをしっかり乗り越えてきた人や乗り越えようとしている人にはすごく刺さる作品だと思います。

もう一つは人間の「才能」に関するテーマです。
又吉作品は『火花』もそうですが、人間の「才能」の有無に関わるテーマが多いですね。 努力よりも何よりも才能なんだという視点。そして自分に才能がないことについて認めるのか、認めないのかという岐路に立たされるというシチュエーションの作品が非常に多いです。自分の才能に見切りをつけるという難しさをテーマにした映画のひとつですね。人間そう簡単なものじゃないですからね。

鈴木   何回も何回もそういう岐路にぶつかりますからね。

荒木   そういう視点から観てもらうのもいいと思います。

痛々しい山﨑賢人君と、壊れていく松岡茉優さん。
映画の大半はふたりの芝居で、下北沢でのオールロケが綺麗で印象的です。この年を代表する作品の一つになると思います。話題の作品『劇場』、興味のある方は御覧下さい。

鈴木   下北沢って混沌としたエネルギーと、とてつもない優しさがある街なんですよね。

荒木   そうなんですよね。
来年の頭にも「下北沢」をテーマにした『街の上で』という作品が公開されますが、こちらも演劇が絡んでいてとてもいい映画です。また改めてご紹介しますね。

がらっと変わって続いては、7月17日公開のヤクザ映画です。
『悪人伝』という韓国の映画です。マ・ドンソク主演の話題作です。

又吉直樹の小説を映画化した「劇場」と韓国映画「悪人伝」のとっておき情報
(「悪人伝」17日公開=インスタグラムから)

主人公のチャン(マ・ドンソク)はもちろん凶悪な暴力団の組長です。極悪非道で暴力的、そんな彼がある雨の夜、車の接触事故で近づいてきた何者かにめった刺しにされます。
奇跡的に一命をとりとめた組長チャンは、てっきり対立暴力団組織がしたことと思い手下を使って犯人探しを開始します。
一方、この事件の捜査にあたる担当の刑事は、解決のためなら暴力も脅しも何でもやるという暴力団みたいな刑事です。ハミだし野郎のチョン・テソク刑事。

彼は、犯人は暴力団関係者ではなく、まだ世間の誰も気づいていない連続無差別殺人鬼によるものであると考え捜査のために組長につきまといます。暴力団組長とはみ出し刑事は、お互いに敵意を剥き出しにしながら、メンツにかけて自らの手で犯人を捕らえようと争います。しかし、この悪賢く頭のいい殺人鬼を捕らえるためにはお互いに持っている情報を共有する必要があると悟った2人は、共闘し犯人を追い詰めていきます。

警察と暴力団の共同戦線が出来上がるというバイオレンスアクション映画というわけです。

鈴木   おお!面白いですね。

荒木   面白いでしょ。

主演のマ・ドンソクは有名ですよね。
身長178cm、体重100kg。という真四角で冷蔵庫みたいな体形です。腕回りが70センチ弱で女性のウエストみたいですね(笑)。必殺技は猪木さんと同じで平手打ち、ビンタなんです。映画の中で何人かやられているけど、すごいです。顔歪んでました。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』で目立って、『犯罪都市』の刑事役もよかったんですが、最近はお茶目でマブリー(マ・ドンソク+ラブリー)と呼ばれてコメディものが多かったのですが、今回の作品でバイオレンス復活で見ごたえありました。全身入れ墨や彼に殴られた者たちの顔など、随所に丁寧な特殊メークがほどこされていてよかったです。よくぞ戻ってきてくれたなと思います。この俳優さんは刑事かヤクザどっちかですからね。 この種の韓国ヤクザ映画は男くさいです。本当に臭い感じですよ。酒臭いのはもちろん、わきの臭いと脂汗の据えたような臭い、ついでに加齢臭や焼き肉の臭いも漂ってきそうな脂汗が似合う男たち。

鈴木   むんむんですねぇ。

荒木   そうなんですよ。このあたりは韓国映画じゃないと出せない雰囲気だよね。昔は日本映画も深作さんの作品とかあったから迫力出てたけど、最近は韓国映画には敵いませんね。

鈴木   最近の邦画は優しいですよね。

荒木   そうなんですよね。ヤクザ映画とか極道映画は韓国に比べちゃうと優しいですね。徹底したバイオレンス映画ですからお見逃しないように。『悪人伝』です。
スタローンがアメリカでリメイクするらしいよ。
ということで、本日は2本ご紹介しました。

ダイちゃん、演劇をやってたから色んな人見てきたでしょうけど。

鈴木   見てきたけど、周りがみんな本当にそうでした。

荒木   芸術関係は変わった人多いからね。

鈴木   中には本当にこの業界で大きな成功を収めた友達もいれば、それ以上の才能があったと思えたのにフッと芝居やめちゃったっていう友達もいるし不思議ですね。

荒木   こればっかりは才能だけでは計れないし、タイミングだけや幸運だけでもやっていけないし、難しい世界ですよね。つくづくそう感じますね。

鈴木   荒木さんって芝居向いてそうな気がするんだけど。

荒木   だって人生が芝居そのものだもん。本当に自分で嫌になるくらい…。

鈴木   芝居がかってる?妙に?

荒木   芝居がかってるね。本当の自分はどれなんだと思うときがたまにありますよ。

鈴木   荒木さん、またそんな芝居の話もしながら飲みましょうよ。

荒木   是非お願いします!

鈴木   お願いします。ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。

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