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第73回アカデミー賞の注目作品「ノマドランド」と「ミナリ」のとっておき情報

(2021年3月30日12:30)

映画評論家・荒木久文氏が、第73回アカデミー賞の注目作品「ノマドランド」と「ミナリ」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、3月23日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

アラキンのムービーキャッチャー/第73回アカデミー賞の注目作品「ノマドランド」と「ミナリ」のとっておき情報
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

鈴木   荒木さーん!こんにちは。よろしくお願いします。

荒木   よろしくお願いします。桜はどうですか?

鈴木   いや、満開ですよ、もう!

荒木   満開で、今日辺りも人出がすごいですね…。

来月、アメリカのロサンゼルスで行われる映画の祭典、第93回アカデミー賞ですが、今年は例年よりひと月以上遅い開催です。今日はあと1ヶ月に迫ったアカデミー賞にノミネートされている作品を中心にお話ししたいと思います。

まずは『ノマドランド』というタイトルの映画です。3月26日公開です。
アカデミー賞で作品、主演女優、監督など6部門にノミネートされているんです。

“ノマド”というのは元々“遊牧民”という意味です。
ノマドのランド、ノマドの土地とかノマドの国とか訳すんでしょうが、本来は羊やヤギと一緒に放牧生活、定住しないで家を持たず、常に放浪というか移動して歩く人々のことを言いますね。

アラキンのムービーキャッチャー/第73回アカデミー賞の注目作品「ノマドランド」と「ミナリ」のとっておき情報
「ノマドランド」(2021 年 3 月 26 日(金) 全国公開 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)(©2020 20th Century Studios. All rights reserved.)

鈴木   昔、四駆の車の名前にもあったよね。“ノマド”って。

荒木   あ、そうなんだ!
今回は、羊を追ってではありませんが、正確にはノマド的というか、車がおうちのアメリカの話です。

この物語、時はリーマンショック後と言いますから2009年頃ですかね。今から12、3年前。 場所はアメリカ、ネバダ州です。大きな企業の倒産で町が閉鎖されることとなり、全住民が立ち退くことになりました。
主人公の60代の女性ファーン。名女優フランシス・マクドーマンドが演じています。 彼女の行った選択は、長年住み慣れた地域を捨てて、キャンピングカーに全ての思い出を詰め込んで、車上生活者、“現代のノマド(遊牧民)”として、季節労働の現場を渡り歩くことでした。
その日その日を懸命に乗り越えながら、往く先々で出会うノマドたちとの心の交流をしながら、定住という常識にとらわれず、死ぬときに後悔したくないと考え、いわば高い誇りを持った彼女の自由な旅は続いていく…というものです。
原作はノンフィクションの『ノマド 漂流する高齢労働者たち』という著作です。
そこで描かれる実在のノマドたちと、広大な西部の厳しい美しい自然の中で人生を探し求めるロードムービーと言っていいでしょう。
映画はベネチア映画祭の金獅子賞、そしてトロント映画祭の観客賞受賞という、つまり今年のアカデミー賞の最有力という作品です。

イメージとしてはドキュメンタリーとフィクションの混合みたいな感じです。
監督は女性のクロエ・ジャオ監督。38歳の中国出身の監督です。
日本でいうと、作風は河瀨直美さんにちょっと似た感じですね。楽しみな監督です。

この映画に出演のほとんどのキャストは本物のノマドと呼ばれる方々が実際の車上生活者が本名で出演しています。
最後にお名前のクレジットが出てきますよね。作り物ではないリアリティーがあります。

私もこの映画の主人公のファーンさんと同じ世代なのですが、自分のことと考えると感情移入できないわけじゃありません。昔のヒッピーに通じるような生き方なので、とても感情移入できます。
ダイちゃんはこういう、モノに重きをおかない、精神的な自由を求めて生活するという生き方はどう思いますか?

鈴木   僕ね、理想はこういう暮らしができたらいいし、したいと思える男でいたいんですけど、意外に物質的でやっぱり物があって、帰る家があってっていう生活があるから旅に出られるんだと思うんですよ。

荒木   同じです、私も。ほんと。

鈴木   だからこれが全部人生そのものだったらすごくいいだろうなと思うけど…。アジアの方が監督じゃないですか。僕も同じような部分があって、アメリカに対する憧れとか広大な大地への憧れから旅に出たんだけど、憧れだからこう撮れるんじゃないかなって気がするんですよ。

荒木   そうなんですよね。
精神的にはたぶん解放されるでしょうね。こういう生き方憧れますけど、特にダイちゃんより年上の私なんかこの歳になると、安定した生活というか健康不安も出てきますから。

鈴木   わかるわかる。

荒木   美味いもの食いたい、酒飲みたい、できれば贅沢したいっていう気持ちの方が上になっちゃいますよね。憧れはあるけど、医療面とか考えるとね。それから物欲強いしね。俗物ですから。

鈴木   すごいわかる!

荒木   ある意味憧れというか、そういう意味での精神的な自由はいいだろうなと思いますけど、本当にやろうとしたらなかなか辛いですよ。車上で暮らして工場での日々の生活…。そういうことをよく考えさせられる映画です。

鈴木   観たい!これは観たいな。

荒木   主演のフランシス・マクドーマンドは、過去二回、『ファーゴ』と2017年の『スリー・ビルボード』でアカデミー賞で主演女優賞取ってますし、今回も期待されていますね。
とにかく厳しくて美しい自然と、景色もいいし、音もとってもいいし。
その中で放浪する高年齢の労働者たち、本当に今のアメリカの一片を重ねて語っていると思うし、非常に考えさせる映画でした。

ということでご紹介したのは3月26日公開のアカデミー賞作品賞有力候補『ノマドランド』でした。

もう一本、これもアカデミー作品賞有力作品。6部門ノミネートされています。現在公開中の『ミナリ』というタイトルの作品です。

アラキンのムービーキャッチャー/第73回アカデミー賞の注目作品「ノマドランド」と「ミナリ」のとっておき情報
「ミナリ」(公式サイトから)

1980年代のアメリカ南部が舞台です。今からざっと40年前。
韓国からの移民のジェイコブは、アメリカの農業で成功することを夢みて南部アーカンソー州の高原地帯に、妻と二人の幼い子供と引っ越してきました。
妻のモニカは、その高原の荒れた土地と住まいのボロボロのトレーラーハウスを見て嫌な予感と大きな不安を持ちます。
夫のジェイコブは心は少年のような純粋な心の持ち主で 希望に満ちていますが、農業がリスクの大きな事業であることをあまり認識していません。
妻のモニカは夫の冒険に危険な匂いを感じ、子供たちの教育も考え、ここでの農業を諦めて都会で暮らすことを提案しますが、夫は顧みようともしません。
子供たち二人、しっかり者の長女アンと好奇心旺盛な弟のデビッド。デビッドは心臓に病気を抱えているのですが、段々新しい土地にも慣れ、友達もでき希望を見つけていきます。 やがて韓国からおばあちゃんのスンジャも加わり、5人で生活を始めます。
しかしジェイコブの農業は思うようにはいきません。水が干上がり、作物は売れず、追い詰められた一家に思いもしない事態が次々と降りかかります。さあ一家はどうなる?

“ミナリ”とはどこにでもたくましく根を張り成長する韓国産の“セリ”、香味野菜のことです。2度目の旬が最もおいしいといわれることから、子供世代の幸せのために親の世代が懸命に生きるという意味が込められているとされます。

韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョンが監督です。この映画の小さな子供がモデルになっています。半自伝的な映画として脚本も書いています。
話の筋は、フジテレビの倉本聰の『北の国から』のエッセンスが入っていると感じる人が多いようですね。私もそう感じました。あのドラマをもっともっと現実的にして、お涙場面を除いたのがこの作品と言っていいくらいです。
韓国にルーツを持つアメリカ人たちが歩んできたリアルな時間をうまく描いています。 彼らと同じ移民2世3世たちは、この映画に自分を重ねるでしょうね。
これは韓国系移民だけの話ではなくて、全てのアメリカ人が共有する物語ですね。

鈴木   移民ですからね、全員。

荒木   そうなんですよ。考えてみればアメリカ先住民と強制的に連れてこられた黒人以外のアメリカ人は、みんな移民の子孫ですからね。どの移民たちにもこの映画の一家と似た、ゼロからの出発、新天地での冒険があるわけなんですよね。移民のDNA として脈々と伝えられているんですかね。

俳優としてはさっき言った子役が大変上手いです。アラン・キム君という英語を喋る韓国人ですが、デビッド君、心臓に病気のある少年。心臓に負担をかけないために走っちゃいけないと言われているので、考えながら歩く姿とか、おばあちゃんに対して自分が抱いていたイメージと違うことにショックを受ける表情とか非常にいいです。
そしてそのおばあちゃん役のユン・ヨジョンさん。純粋な韓国人で、博打好きで型破りなおばあちゃんなんです。「おばあちゃんらしからぬおばあちゃん」を見事に演じていました。73歳の韓国ではみんな知ってる女優さんらしいです。日本での公開映画も多いので、顏見ると「あ、この人!」と分かりますよ。

鈴木   泉ピン子さん的な感じじゃない?

荒木   あー、そんな感じですね。

鈴木   みんなが知ってるっていう。

荒木   今回この作品でアカデミー助演女優賞ノミネートです。取れるか楽しみですね。

今年のアカデミー賞は紹介しました『ノマドランド』、『ミナリ』のほかには『シカゴ7裁判」とか『ファーザー』、『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~』、『ジューダス・アンド・ブラック・メサイア』などの作品が6部門にノミネートされています。 大きな話題は二つあります。昨年亡くなった俳優『ブラックパンサー』や『42 〜世界を変えた男〜』のチャドウィック・ボーズマンさんが主演男優賞にノミネートされています。 過去に亡くなった後にアカデミー賞にノミネートされた人は7人いるそうです。

鈴木   受賞はどうなったんですか?

荒木   受賞は2人いて、最近では2008年に亡くなったヒース・レジャーが『ダークナイト』で助演男優賞を受賞しています。
チャドウィック・ボーズマンがゴールデングローブ賞に続いてアカデミー賞も受賞するのか楽しみですね。

鈴木   注目ですね!

荒木   もう一つは、Netflixなどの配信系が果たしてどのくらいまで食い込むのかということが話題なのですが、まあ時代ですよね。

ということで今日は来月のアメリカのアカデミー賞、授賞式は日本時間の4月26日の朝9時頃から開催されますのでこちらも注目です。有力作品を2本ご紹介いたしました。

鈴木   荒木さん、ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。

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