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「ビューティフルドリーマー」と「さくら」のとっておき情報

(2020年11月19日13:10)

映画評論家・荒木久文氏が、「ビューティフルドリーマー」と「さくら」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、11月10日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

「ビューティフルドリーマー」と「さくら」のとっておき情報
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

鈴木   荒木さん、こんにちは。お願いします。

荒木   はい、お願いします。秋も深まってまいりましたね。もう高校などの学園祭のシーズンは終わりっぽいですよね。

鈴木   そうですね。もう佳境ですよね。

荒木   今年はコロナの影響で消化不良の人も多いでしょう。

今日の1本目は、大学の文化祭がテーマの映画です。
11月6日公開の『ビューティフルドリーマー』という作品です。

「ビューティフルドリーマー」と「さくら」のとっておき情報
「ビューティフルドリーマー」(11月6日公開)(公式サイトから)

荒木   ストーリーです。
ある美術大学の学園祭の日の映画研究会、通称「映研」とそこに集う学生たちが主人公です。 学園祭の朝、部員のサラさん(小川紗良さんという女優さんが演じています)は不思議な夢を見ます。それは映研の部室に何かがあるという夢でした。そして夢の通り、彼女が部室の隅から古い段ボール箱を見つけたことから事態は動き始めます。
その中に入っていたのは、古い脚本と演出ノート、そして1本の映画の16mmフィルムでした。
その映画は『夢みる人』というタイトルだったのですが、なぜか映画は未完成のままでした。 そこにふらりと現れたOBのタクミ先輩(斎藤工)が「これは撮ろうとすると、必ず何か恐ろしいことが起こり、完成できないというOBたちの間ではいわくつきの伝説の映画の台本だ」と告げるわけです。
しかし、この映画にすっかり魅せられたサラは「これ、私たちで完成させようよ、やってみない?」と部員たちに猛アピールします。

鈴木   またそんなこと考えちゃったんですね。

荒木   そうなんですよ。
監督をサラが務め、6人の部員が団結し、初めての映画制作への挑戦が始まります。ところが、予言通りに彼らは次々に予期せぬ困難やトラブルに見舞われ、やがて資金は底をつき、クラウドファンディングも大失敗。さあ、この映画は本当に呪われているのか?完成させることができるのか…。

押井守原案のストーリー『夢みる人』を映画化したものです。
監督は本広克行さんで、『踊る大捜査線シリーズ』『サマータイムマシン・ブルース』で有名ですね。

出演者は若手・新人中心ですが、小川紗良さんが主人公のサラ役を演じています。彼女は新垣結衣さんに似てますね。

鈴木   おお!いいですね!いいですね!

荒木   そこにイモトアヤコさんを少し混ぜたような感じですね。彼女は若いですが、映画監督としても活躍しているんです。更に、雑誌で連載を持つなど「文筆家」としても活躍中です。「俳優」「映画監督」「文筆家」というトリプルで活躍していることから「三刀流美女」と呼ばれるようになってるそうです。注目の女優さんです。

そして映画研究・映像研究会系、いわゆる「映研」を舞台にした映画って意外に多いんです。最近では『映像研には手を出すな!』という齋藤飛鳥さんはじめ乃木坂46のメンバーが出演した映画も公開されていますよね。
他にも、過去には『EIKEN BOOGIE~涙のリターンマッチ~』という青春コメディもあります。そしてあの名作『桐島、部活やめるってよ』も映研の二人が中心でしたね。

映研というと、理屈っぽいというか、映画理論ばかりの人たちが寄ってたかって難解な作品を作ってるんだ・・・というイメージがあるんですが、この作品の美術大学の映研は穏やかなカラーというかいかにもわかりやすい映画を作ってくれそうです。
映画オタクの部員たちがたくさんいて、何気ない日常会話にたくさん映画のタイトルが入っています。映画好きがみると、ちょっとニヤッとする場面がたくさんあります。

ダイちゃんは高校や大学のとき部活で文化祭に関わった思い出はありますか? 鈴木   荒木さんもご存知だと思いますが、僕大学は芸術学部だったので、映画学科、放送学科、演劇学科とかあるので、文化祭はなんでもありというか…。

荒木   あそこは毎日が文化祭みたいな学部でしょ?毎日お祭りみたいなね。

鈴木   あはは。まあ言われてみればそうなんですけど、僕はお客さんとして行く側で一回だけ出店を手伝ったりはしました。

荒木   なるほど、そうですか。

鈴木   お客さんとして行くと、映画が公開されていたり、演劇がやっていたりお化け屋敷なんか色んな事件が起きましたよ。

荒木   高校時代ですか?

鈴木   高校も大学もそうですね。

荒木   じゃあ参加する方だったんですね。

映画の話に戻ると、今回の作品『ビューティフルドリーマー』は映画レーベル「Cinema Lab(シネマラボ)」の第1弾作品です。
このシネマラボは本広克行監督、押井守監督、小中和哉監督、上田慎一郎監督が参加する映画の一種の「映画の実験レーベル」なんです。
現在の映画作品というのは、色々な人が関わっていて、それぞれいろんな役割分担があります。本来映画は監督のものと言えるのですが、実は、権限、決定事項はプロデューサーとか製作委員会とかに分散されているわけです。
極端な話、俳優さん一人とっても監督がすべて決められるわけでもないんですね。しがらみやお取引なんかもありますし、さっきも言った大人の事情というやつです。そんな現実の中でこの「Cinema Lab」レーベルは、大人の事情、そういったものを一度全部なくして監督が全部決めて、作品を作っていこうというものなんです。
監督は制作予算を守れば、自ら企画、脚本、キャスティング、ロケーション、演出までを自由にできる、云わば「監督絶対主義」なんですね。すべてのクリエイティブは監督に基本一任。これ実は大変なことなんです。

鈴木   良いのか悪いのかわかんないですね。

荒木   そうなですよ。
作品の完成度や興行収入などに関しても監督も言い訳できない立場になりますから。本当の真剣勝負です。責任取るよってことです。

このシステムは昔参加監督たちが日本映画界に大きな影響を与えた通称ATGこと「日本アート・シアター・ギルド」というのがあってそれに似ていますね。
注目の実験といっていいと思います。
何気ないのほほんとした作品ですけど、裏にはそういった事情もあるという『ビューティフルドリーマー』という現在公開中の作品でした。是非観ていただきたいと思います。

2本目はご存知と言っていいんでしょうかね。11月13日公開の『さくら』です。

「ビューティフルドリーマー」と「さくら」のとっておき情報
「さくら」(11月13日(金)全国公開)(©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会)(配給:松竹)

鈴木   出た、さくら!!!

荒木   監督の矢崎仁司さんとダイちゃん、何回もお話なさってますよね。

鈴木   わたくしが惚れられてしまったのか、居心地がいいのかよくわからないんですけど、3回も番組にご出演いただいて…。

荒木   素晴らしいですね。
わたくしもお会いする予定だったんですが、ちょっとチャンスを失ってしまってお話できてないんですよ。

11月13日公開ということで注目度が高いです。

知っている方多いかもしれませんが、ストーリーからお話しますね。
タイトルの『さくら』というのは犬の名前です。この映画の舞台である長谷川家に飼われているどうってことない雑種犬です。
この長谷川家は長男の一(はじめ)、次男の薫、長女の美貴、母のつぼみ、父の昭夫、そして愛犬のさくら。さくらを入れて六人家族です。
長谷川家は平凡で幸せな日々を送っていました。
しかし、周囲の人々からもヒーローのように深く愛されていた長男の一が死亡したことによって、その日から、幸せだった長谷川家は徐々に崩壊していきます。父は家出、薫は逃げるように東京の大学へ進学します。母はだらしなく太ってしまい、お兄ちゃん子だった美貴はすっかりやる気をなくして家に閉じこもってしまいました。

そして二年がたちます。
次男の薫は大学生となり、東京で一人暮らしをしていました。
ある日突然、家出し音信不通だった父親から、「家に帰る」という手紙が届き薫も実家に戻ります。そこには、父もいて久しぶりの家族の再会でしたが、どこかよそよそしい空気が流れています。長谷川家にかつて流れていた温かな空気は長男が死んでからどこかに行ってしまったようです。
薫は犬のさくらが初めて家にやって来た日や、妹の誕生、そして初恋と長男一が彼女を連れて来た日など、長谷川家の5人とさくらが過ごしたかけがえのない日々を思い出します。 そして大晦日、壊れかけた家族をもう一度つなぐ奇跡のような出来事が訪れようとしていました。

この作品、15年ほど前に発表された直木賞、西加奈子さんの55万部を超えるベストセラー小説をもとに制作された作品です。
原作の中にも描かれているんですけど、長谷川家の人々は一見ごくごく普通の家庭のように見えますが、よく注意してみているとちょっと変わったところがある人たちなんですよ。 両親は夫婦仲がとてもいいのですが、自分達の愛の営みについてまだ幼い子供達に堂々と説明したりします。
長男はもう非の打ちようもないスーパーヒーローなのですが、それがゆえに挫折を自ら受け入れられないプライドの高さ、心の狭さみたいなものを感じざるを得ません。
妹はとても美しいのですが、ちょっとエキセントリックで、特に一番上の兄に対して兄弟愛以上のものを抱いているような気もしますし、交友関係も独特です。

鈴木   みんな一癖あるんですよね。

荒木   そうなんですよ。
次男の薫君が、一番平凡だなと思います。ゆえに彼が主演で、物語を語ってゆくという役割ですよね。

矢崎監督は、長男役に吉沢亮さん、次男に北村匠海さん、末っ子に小松菜奈さんという人気、実力を兼ね備えたみんな主演を張れる若手の俳優陣を兄弟妹としてキャスティングしました。この3人のキャスティングはなかなか大変だと思いますよ。売れっ子だし実力ありますから。

鈴木   そうですよね。豪華ですよね。

荒木   特に一番下の美貴役の小松菜奈さん、この役は初めから彼女しかできないなと思わせる演技力でした。

色んなテーマ、父母の恋愛や性愛、初恋、セックス、LGBTの友人、妹から兄への恋心、事故による顔の変形、下半身付随、自殺、母の肥満化、父の家出。色々詰め込まれていて監督もまとめるの大変だったと思いますが、上手く作ってらっしゃいますよね。
家族の崩壊と再生というのは映画では最も取り上げられるテーマかもしれませんね。
それだけに、原作を展開させる監督さんの力量、および俳優さんの演技力が問われます。

矢崎仁司監督は、今更言うまでもないのですが、『三月のライオン』や『ストロベリーショートケイクス』など海外からも高い評価を受け、詩情溢れる作品を多数生み出してきました。

ダイちゃんは監督と何回かお話してみていかがでしたか?

鈴木   僕がこうペラペラ喋るタイプじゃないですか。同じテンポでガンガン喋るという方ではないんですけど、一言一言が非常に深い愛情を感じますし熱量が高いです。淡々としているんですけど、目の奥底には燃え盛るようなものを感じる方ですね。

荒木   なんとなく作品を観ててもそういう感じしますよね。監督さんにも色んなタイプいますけど、特にこの監督は女性小説家の原作を手掛けることが多いですね。

鈴木   そうですよね。

荒木   今度も女性作家ですが、汲み取るのがとても巧いですね。

鈴木   女性との関係をどういう風に過ごしてきたのかなとか監督の顏見ながら色んなこと考えちゃいました。

荒木   ちなみにオールロケで監督のふるさと山梨県甲府市、南アルプス市、藤川町などですね。
11月13日公開『さくら』という作品です。

鈴木   是非観てほしい1本ですよね。

荒木   そうですね。是非ご推薦です。

鈴木   荒木さん、ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。

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