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「燃ゆる女の肖像」「バクラウ 地図から消された村」「サイレント・トーキョー」のとっておき情報

(2020年12月7日15:30)

映画評論家・荒木久文氏が、「燃ゆる女の肖像」「バクラウ 地図から消された村」「サイレント・トーキョー」の見どころととっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、12月1日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

「燃ゆる女の肖像」「バクラウ 地図から消された村」「サイレント・トーキョー」のとっておき情報
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

鈴木   荒木さーん!こんにちは。よろしくお願いします。

荒木   こんにちは。よろしくお願いします。
コロナの影響で例年とは違う11月12月だと思ったんですけど、あまり例年と変わりないですね。

鈴木   え!?どういうこと?変わりないっていうのは?

荒木   年賀状の印刷だとかお歳暮だとかで結構忙しいですね。

鈴木   あはは。まあいいじゃないですか。

荒木   そうかもしれないですね。忙しいうちが華ですからね。
ということで今日は、この時期に公開される目立った映画を3本ほどご紹介したいと思います。

アラキンのムービーキャッチャー/「燃ゆる女の肖像」「バクラウ 地図から消された村」「サイレント・トーキョー」のとっておき情報
「燃ゆる女の肖像」(©Lilies Films.)( 12月4日(金) TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開)

まず、『燃ゆる女の肖像』という作品です。12月4日公開です。
昨年第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィアパルム賞を受賞した作品です。<br> 18世紀(1700年代)のフランスはブルターニュの小さな島が舞台です。ブルターニュはフランス北西部、ヨーロッパ大陸の北西に突き出た半島にあります。北はイギリス海峡。
女性画家のマリアンヌは、ブルターニュに住む貴族の婦人から、娘の見合いのための肖像画を依頼されます。1700年代ですから当然写真がありません。お見合い写真の代わりに肖像画がお見合いのアイテムだったんですね。まあ貴族とか身分の高い階級だけなんですけどね。
マリアンヌは海を渡って島に建つ屋敷を訪れます。そこには美しい娘エロイーズが暮らしています。彼女は結婚を嫌がっているため、お見合いのための絵を描かせることを拒否しています。マリアンヌはお散歩などでお話をする係として入って、正体を隠し昼間のうちに彼女と接してイメージを溜めて、夜に描くというパターンで密かに肖像画を完成させますが、結局エロイーズにばれてしまします。本当のことを知ったエロイーズから絵の出来栄えを「こんなの私じゃない」と批判されてしまいます。我々からするとそっくりで綺麗なんですけどね。
そしてエロイーズは意外にも「私がちゃんとモデルになるから描き直して」というわけです。そして二人はキャンバスを挟んで見つめ合ったり、美しい島を散歩したり、音楽や文学について語り合ううちに、だんだんと激しい恋に落ちていく…という恋の物語です。

女性同士のレズビアンラブ。レズビアンラブって、私とダイちゃんが言うとゲスな感じなっちゃいますけど。

鈴木   いやいやいや!!

荒木   ダイちゃんも巻き込んじゃいました!
とても美しい映画です。映画そのものが、画家・マリアンヌが描きそうな絵画のようで、息を飲むほど美しいんですよ。スクリーンが絵の額のように思えます。ひとつひとつのシーンが本当に美しい。
その中で、女たちの秘めた熱情を本当に丁寧に描いています。
特に印象的なのは、最後の長回しのシーンです。3、4分になるのでしょうか?女優アデル・エネルの一人の演技が圧巻で目が離せません。
この映画、男がほとんど出てきません。必要最低限の女性が4、5人出るだけです。
女性同士のベッドシーンやキスシーンも、かすかに唾液が糸を引くシーンがあったりと二人の心をつなげる意思のようです。
本当にラブシーンが綺麗なんですよ。私たちが普段馴染みのある品のないアダルトビデオとは大違いです。本当に品があります。

それとこの映画、女性の愛ばかりではなく、女性の仕事という面からの見方もあります。 18世紀は女性も活躍をし始め、画家も多く出たらしいのですが、優れた絵にもかかわらず、この映画にも主人公の絵が父親の名前で飾られている場面がありますが、優れたアーティストでも表に出られなかった時代だったんでしょうね。絵ばかりでなくいろいろなものを容易に手に入れられない時代だったんでしょうね。女性自身の自由を謳う作品でもあります。

監督はセリーヌ・シアマという女性が脚本も手がけ、エロイーズをアデル・エネルという綺麗な女優さんが演じ、画家のマリアンヌをノエミ・メルランが演じています。
この監督のセリーヌ・シアマは女優アデル・エネルの元恋人なんです。
この映画の時は別れていたようなんですが、やはり同性でも恋人を綺麗に撮るんですね。そういうもんでもないのか?

ダイちゃんは観てるかな、『アデル、ブルーは熱い色』

鈴木   観てる観てる!

荒木   これが一番有名な女性同士の恋愛映画ですね。
カンヌ国際映画祭で史上初、パルムドールが主演女優2人に贈られ話題を集めた作品です。 本作は、レズビアンのセックスシーンを濃厚かつリアルに描いたことでも話題を呼びました。
2015年の作品で『キャロル』という映画では、ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラが主演しており、それから、ジュリアン・ムーアとエレン・ペイジ出演の『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』でも社会的問題点も描いていました。
「レスビアン映画」というとちょっと、響きがゲスな感じになってしまいますが、女性同士の愛の映画、非常に良質で綺麗な映画です。フランスの『燃ゆる女の肖像』をご紹介しました。興味のある方は是非観ていただきたいと思います。

鈴木   美しい生き方を描く映画って感じですね。

荒木   そういうことですよね。

続いて2本目ですが、ダイちゃん好きなタイプの映画だと思います。昔のタランティーノっぽい感じがあります。

アラキンのムービーキャッチャー/「燃ゆる女の肖像」「バクラウ 地図から消された村」「サイレント・トーキョー」のとっておき情報
「バクラウ 地図から消された村」(© 2019 CINEMASCÓPIO-SBS PRODUCTIONS-ARTE FRANCE CINÉMA)

鈴木   おお!いいね!!

荒木   こちらも昨年のカンヌ映画祭で審査員賞を受賞した非常に変わった面白い作品です。現在公開中の『バクラウ 地図から消された村』という作品です。

ブラジルの奥地、ジャングルに囲まれた小さな鄙びた村が舞台です。
テレサという若い女性が都会からこの村に戻ってきます。村の長老である自分の祖母(おばあちゃん)がなくなり、そのお葬式のためです。しかしその日あたりから謎めいた凄惨な事件が次々と起こり始めます。村はずれの牧場に住む人たちが惨殺され、現場を見た村人も謎の集団によって殺されてしまいます。
そして携帯電話が通じなくなり、村の存在はインターネットの地図上から消えてしまします。上空には正体不明の飛行物体が現れます。
そのうえ、水道がないこの村の生命線である給水車のタンクに何者かが銃を撃ち込み、水の供給が絶えてしまい、村外れでは村人が血まみれの死体で発見されます。聞いていてなにがなんだかわからないですよね。

鈴木   よくわかんないですね。

荒木   そうですよね。そういう映画なんですよ。
この映画、近未来のSFと西部劇、ホラー、そういうジャンルをあっちに行ったりこっちに行ったりしていて…。

鈴木   なんでもありじゃないですか!

荒木   そうなんです。
見る人を戸惑わせてどこに連れていくのかと思っているととんでもないところに連れていってくれんるんです。
私は以前から、「映画はどこに連れていってくれるのかわからない」というような予測不可能、予定調和に陥らないというのが面白い映画の要因の一つと言っているのですが、まさにこの映画その条件を持っている作品なんですね。
ですからストーリーを最後まで紹介できないのですが、現代の世界の問題がちょこちょこを出てきます。白人至上主義者や、快楽殺人者も出てきたり経済格差、政治による人々の分断、資源の問題など、本当に現代が凝縮されているような話です。
最後はちょっと黒澤明の『七人の侍』っぽい部分も出てくるというのもあるんですが、先ほど話したようにタランティーノテイストもあって傑作です。

バクラウというのはブラジル語で「身を隠すことがとても上手と言われる」鳥の名前です。 『バクラウ 地図から消された村』という作品をご紹介しました。現在公開中ですので、興味のある方は是非劇場へ行ってみてください。

鈴木   面白そうなのばっかりじゃないですか。

荒木   ということで、最後3本目です。
今年は数少ないクリスマス映画です。もうクリスマスの予定立ってますか?

鈴木   いや、なんてことないな、たぶん。

荒木   私もなんてことない一日を過ごすんでしょうけど。
12月4日から公開の『サイレント・トーキョー』という今年の最後を飾る、大型日本映画です。

アラキンのムービーキャッチャー/「燃ゆる女の肖像」「バクラウ 地図から消された村」「サイレント・トーキョー」のとっておき情報
「サイレント・トーキョー」(公式サイトから)

舞台は12月24日、クリスマスイブの東京です。
あるテレビ局の報道部に、恵比寿のビルに爆弾を仕掛けたという電話が入ります。
半信半疑で恵比寿のビルに向かったテレビ局員は、そこにいたひとりの主婦とともに犯人の罠にはまってしまい、爆弾犯人にされてしまいます。
そして爆発は実際に起きたのですが、爆竹が鳴った程度のものでした。
そして次の犯行予告が動画サイトに上げられます。それは「今度は大きな爆弾で何人も死ぬかもしれない。場所は渋谷・ハチ公前。こちらの要求は首相との生対談。期限は午後6時まで」というものでした。
ここからいろいろな人が登場します。警察サイドは独自の捜査を行なう二人の刑事、容疑者っぽい不可解な行動をとる若いIT企業家、イヴの夜を楽しみたいOLふたり、そして渋谷一帯を封鎖する警察、事件を一層煽るマスコミ、騒ぎを聞きつけた野次馬たちが渋谷の交差点をごった返します。
様々な思惑と多くの人々が交錯する渋谷に予告の午後6時が訪れます。
それは、日本中を巻き込む運命のX’masの始まりだったんです…という連続爆破テロに翻弄される国と人々の姿を壮大なスケールで描くクライムサスペンスです。

見どころは二つあります。
一つはそのスケールの大きさです。渋谷の街と無数の群衆がいっぱい出てくるんです。渋谷のスクランブル交差点がメイン舞台になっていますが、さすがにあそこでは撮影ができなくて、交差点の巨大オープンセットを栃木県足利市に3億円をかけて作っちゃったそうなんですよ。

鈴木   うわー!すごい!素晴らしい!

荒木   本物そっくりです。JRハチ公口改札、駅前交番、もちろんハチ公や、スクランブル交差点を取り巻くビル群も寸分たがわず作られています。それを見るだけでも価値あります。
群衆はエキストラ総勢10000人、そのほかにも警察車両から警察犬、死体用のマネキン人形60体と、とにかく圧倒的な物量作戦に圧倒されてしまいます。
二つめは登場人物のうちの犯人は誰かという推理的興味です。
秦健日子さんの小説を原作にしたこの映画ですが、怪しい人いっぱい出てきて最後まで分かりません。
佐藤浩市さん、この人は最初から容疑者なんですが、佐藤さんが誰と組んでいるのか、中村倫也さん、石田ゆり子さん、広瀬アリスさんなどなどたくさん怪しい人がいます。そして警察役は西島秀俊さんなどが演じています。
最後意外な犯人がその動機とともに明らかになります。
誰が犯人かも含めて、二つの見どころを楽しんでいただきたいです。

今年はクリスマスの雰囲気を持っている映画がないんですよ。

鈴木   まあ世相ということだからですか?

荒木   そう、世相もありますね。
それとクリスマス映画自体、コロナ禍で時期的にも製作されてないんですよね。
直接クリスマス映画ではないんですが、唯一クリスマスデートムービーかなと思います。 『サイレント・トーキョー』という12月4日から公開の作品でした。

鈴木   今年は一年振り返ってもサイレントな感じで終わっちゃうな。

荒木   そういう感じですよね。もう沈黙せざるを得ない年の瀬ですね。
来年いい年になるといいですが、まだこういうこと言うのは早いかな。

鈴木   あははは!まだ一ヶ月あるからね。
荒木さん、ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。

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