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映 画
ウクライナとロシアの映画のとっておき情報
(2022年3月21日20:30)
映画評論家・荒木久文氏がウクライナとロシアの映画のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、3月14日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー NEO」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 荒木さん、よろしくお願いいたします。
荒木 はい そうですね。ここのところウクライナ侵攻のニューズでばかり、ほんとに嫌な心配ばかりで嫌ですよね。
何とか早く、戦争ストップしてほしいのですが、もう、ウラジミール・プーチン、困ったもんですね…。
ところでダイちゃん、この戦争が起こるまで、私たち、今までウクライナについては、ほとんど知識もなかったですよ?
鈴木 有名人で知っている人といえばサッカーのシェフチェンコぐらいかな?
荒木 「ウクライナの矢」と呼ばれたアンドリュー・シェフチェンコですね。
棒高跳びのブブカもウクライナの人ですね。もともとはね。
鈴木 そうなんですか?
荒木 あとはえらく美人さんが多い国ぐらいでとか…ですよね?
ただこう毎日 ウクライナ、ロシアの報道を見ていると、この遠い国々ですが、
今 なんでこうなっちゃっているのか? ということをもっと知りたいと思い、
何か映画的なアプローチする方法はないかと思って調べてみたら、どうしてウクライナとロシアがこのような決定的な対決状況に陥っているのかということを、わかりやすく描いたドキュメンタリー映画がありました。
劇場公開はしていないのですが、今 ネットフリックスから配信されている2015年製作された作品です「ウィンター・オン・ファイヤー:ウクライナ、自由への戦い」という作品です。燃える冬というタイトル。今ウクライナで起きている事を知る上で重要なヒントになる作品です。今から8年ほど前の2014年にウクライナ激動の93日間を追ったドキュメンタリーなんですが、アカデミー賞の候補にもなった作品です。
この作品2013年から2014年にかけてウクライナで起こった大衆闘争、ウクライナ民衆がロシアの傀儡政権ともいうべきヤヌコービッチ政権を倒した93日間を記録したものなのです。当時の親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコーヴィチ政権は多くの国民が望むEUとの協定を締結寸前で独断で凍結します。こっそりロシアのプーチンと取引していたんですね。
この運動、当初は学生デモとしてヤヌコーヴィチの退陣を、そしてEUとの協定締結と自由を求める抗議活動という形で 平和的に始まったのですが、この行動は次第に多くの人を巻き込み、とうとうウクライナ全土から100万人近い市民が結集し、抑圧しようとした当局に対して抗議運動・大衆運動が展開されていったんですね。
これがウクライナのキエフで始まった「マイダン革命」です。
マイダンという意味は広場、中心部の広場に集まったので、そう呼ばれるんですが…。
鈴木 なるほど…。
荒木 ウクライナ騒乱とも呼ばれます。当初 ウクライナの政府は武装警察でデモへの武力弾圧をどんどん激しく行います。それでも鎮圧できないと見ると、ついには多くの狙撃兵を動員してデモに参加している市民を一人づつ実弾で狙い打ったともいわれているんですね。徹底弾圧します。映画でも多くの人が携帯カメラで撮影したその瞬間などが記録されているのですが、凄まじくショッキングです。そんな中でこの闘争が勝利し、そしてとうとうヤヌコーヴィッチがロシアに逃げ、今のウクライナ政権が樹立されるということになるわけです。そんな内容のドキュメンタリーです。
この映画を見るとウクライナの人々がここまで苦労して勝ち取ったものを、今再び、ロシアに取り上げられようとしていると感じます。
鈴木 このドキュメンタリーはすべて実写ですか?
荒木 そうですね。一人ではなく、いろいろな人がとったものをまとめているものです。ロシアの猛攻を恐れず、抗議し抵抗する市民、ウクライナ人が逃げず諦めずに戦い続ける今の気持ちとメンタリティ、そして強さの理由の一端が分かったような気がしますね。他にもロシアとウクライナの関係を見たければ、いい作品があります。
鈴木 あるんですね?結構ね。
荒木 ありますね。2019年公開、「赤い闇 スターリンの冷たい大地」という映画があります。これはいわゆるスターリン時代にウクライナがどのようにロシアに搾取されていたのかということがよくわかる劇映画です。ちょっと悲惨な作品ですよ。
興味のある人はどうぞ。
一方 ロシアは一体、政府はともかく、一般の国民はどう考えているのかということがありますよね?現在政府によって情報がコントロールされているということでなかなか表に出てきませんが、たぶんロシアの人々の多くは、こんな風に考えているんじゃないかなと思われる作品がいくつかあり、たまたまなんですが、この4月に何本かロシア映画が公開されるんですよ。
鈴木 それはたまたま予定されていたことですか?
荒木 そうです、たまたまですね。これを見ると今の状況に重なる部分もおおいのでちょっと簡単にご紹介しますね。
1本目。4月8日公開の「親愛なる同志たちへ」という劇映画。
「暴走機関車」などで知られるロシアの巨匠アンドレイ・コンチャロフスキーが、冷戦下のソ連で30年間も隠蔽された民衆弾圧事件をテーマに作った社会派サスペンスです。
1962年ソ連南部の機関車工場で労働者のストライキが発生します。当時はフルシチョフ政権。順調と思えた豊かな政治と経済に陰りが見え始め、生活に困窮した労働者たちが物価高騰や給与カットに抗議したのですが、なんと政権は、スト鎮静化と情報遮断のためにいきなり約5000人のデモ隊の労働者や市民に対して無差別に銃撃を行ったんですね。
それまで熱心な幹部党員として国家に忠誠を誓ってきた女性に焦点を当て、行方不明の娘を探しながら政府の姿勢に大混乱に陥いるという形をとった物語です。
私も見せていただきましたが、信じてきた国が自分の国民を平気で銃で殺すという現実を目の当たりにした女性党員の苦悩がよく描かれています。
鈴木 ショックでしょうねー。
荒木 そうでしょうねー 4月8日公開の「親愛なる同志たちへ」でした。
もう一本は、4月23日公開の「インフル病みのペトロフ家」。
「インフルエンザにかかっているペトロフさんの家族」という意味ですね。
舞台はソ連崩壊後の2004年 ロシアに住むぺトロフさんは、インフルエンザにかかって高熱にうなされ、妄想と現実の間をさまよい、まだ国がソビエトだった頃の子供のころへ戻ってゆくという、ちょっと難しい部分もあるストーリーなんですが、ロシア社会への強烈な風刺が込められています。監督はロシアの反体制的な芸術家のひとりとして知られるキリル・セレブレンニコフ監督です。この人 ロシアのジョージア侵攻やクリミア併合を批判し、LGBTへの抑圧に反対するなどしていて政府からの演劇予算不正流用の詐欺罪で起訴され、有罪判決が下された人です。現在の混乱した状況下で、さらなる訴追から監督を守るため、弁護士によって全てのメディアとの接触、並びに政治的発言を禁じられているという人ですね。
「インフル病みのペトロフ家」という面白い傾向の作品でした。当時のソ連の考え方とか実情がよくわかります。
そしてこれはロシア映画ではないのですが2000年にロシアで起きた原子力潜水艦事故をテーマにした「潜水艦クルスクの生存者」たちという劇映画作品。
4月8日公開です。「アナザーラウンド」でアカデミー国際長編映画賞を受賞したトマス・ビンターベア監督のメガホンです。乗艦員118名を乗せ、軍事演習のため出航した原子力潜水艦クルスク艦内で魚雷が突然暴発し、艦は北極海の海底まで沈没します。生存者わずか23名という大惨事となってしまいます。イギリス海軍が助けようとしますが、ロシア政府は軍事機密であるクルスク号に近寄らせようとしません。さあ、乗組員の生命よりも国家の威信を優先するロシア政府の態度に、乗組員の家族たちは強烈に抗議するのですが…という
何か作今の対応と通じるものを感じます。ティアス・スーナールツ、ダイちゃんの好きなレア・セドゥーやコリン・ファースのキャストで映画化されたものです。
鈴木 レア・セドゥー、とてもいいですね。
荒木 どの作品もロシアの指導者や国家の間違った判断の怖さ、国民の意思の集合体のはずの国家が国民自身を守るどころか、威信とかプライドで時には国民を見捨てたり時には傷つける暴力装置として機能する恐ろしさがひしひしと伝わります。
ただね、ひとつ言っておかねばならないことかあります。今まで紹介してきた私が言うのも変ですが、こういう映画をみて昨今の状況の理解のヒントにすることは大事だと思うのですが注意してほしいのは映画に描かれていることは、劇映画はもちろんたとえドキュメンタリーでも事実がそのまま表現されているのではないということですね。
「当事者にとっての真実、つまり人間からみた解釈が描かれているんだ」ということをしっかり踏まえないと、あの映画にこう描かれていたからこれは本当なんだと決めつけるのは、言うまでもなく危険であるということです。事実は一つだけど、真実は当事者の数だけということです。そのあたりは踏まえる必要があると思いますね。
鈴木 人間の歴史というのは勝者の歴史ですからね。
荒木 その通りです…。今日は堅い映画ばかりになってしましたが…。
最後にウクライナを舞台にした有名な映画を紹介しましょう。
ご存じの1970年のイタリア映画「ヒマワリ」ですね。
鈴木 見ていますよ。名作ですよね。
荒木 そうですか?見渡す限り一面 ひまわり畑のショットが超有名なこの「ヒマワリ」。イタリア映画ですがウクライナが舞台になっています。 ひまわりはウクライナの国花でもあります。
イタリアを代表する名優ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニが共演、互いに思い合いながらも戦争によって引き裂かれた夫婦の悲しい愛を描く名作です。
知らない方のためにちょっと筋をご紹介しますね。
物語の舞台は、第二次世界大戦下のイタリア。ジョバンナ(ローレン)とアントニオ(マストロヤンニ)はナポリで恋に落ち結婚した夫婦です。
その後、夫アントニオは厳しいソ連との戦争の最前線に送られ行方不明になり、戦死したものと思われます。唯一人、妻のジョバンナは夫の生存を信じ続け 終戦後、彼女はひとりで旧ソ連のウクライナに渡り、手がかりもないままアントニオを探し続けるんですね・・・そして、かっての夫が命を救ってくれたロシア人の少女と結婚し、子どもにも恵まれた幸せな生活を過ごしているのを知った彼女は失望の中イタリアへ戻りますが、やがて今度はアントニオが、彼女のもとを訪れる・・・という物語です。
この映画の有名なひまわり畑のシーンは、首都キエフから南へ500キロメートルほどの「ヘルソン」という町で撮影されたものだと言われています。再びこのあたりもこのあたりも戦場になっているのでしょうか?心配ですね。
あたり一面に広がる美しいひまわり畑と、戦争の残酷さの対比がとても印象的です。
スクリーンいっぱいの何千何万という一面の広大なひまわり畑を探し回る彼女のバックに有名なヘンリーマンシーニのテーマ音楽が流れます。背戦争の悲惨さと悲劇を表した名作です。見たことはなくても皆さんご存知ですよね。
私も1970年に見ましたが、2年ほど前に50周年のHD レストア版が作られ、それも見ました。
鈴木 最近見ているんですね。
荒木 本当にあのヒマワリの黄色が鮮やかで素晴らしかったですよ。
その「ヒマワリ」が、今回ロシアのウクライナ侵攻を受け、3月末からの緊急上映が決定したんですね。大阪などから始まるようですが、4月には神奈川・横浜でも上映されるそうです。 次週上映会もあって、上映の収益の一部は、ウクライナの人々の人道支援のために、在日ウクライナ大使館に寄付されるそうですよ。興味のある方は映画・ヒマワリ・上映で検索してください。ウクライナを舞台にした作品「ヒマワリ」の上映についてでした。
戦争映画ばかりだけ語りたくはないのですが、まあ、私たちもただボーとしているわけにもいかないし…目をつぶってばかりもいられないんですよ。
鈴木 そりゃそうですよ。でも荒木さんのお話を聞くと、ウクライナとロシアの映画ってたくさんあるんですね。
荒木 1919年ぐらいから占領されたり、独立したり、いろいろありますからね。たくさんありますよね。
鈴木 荒木さん―、ありがとうございました。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。