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映 画

「ほつれる」「YOSHIKI:UNDER THE SKY」のとっておき情報
(2023年9月17日10:15)
映画評論家・荒木久文氏が「ほつれる」と「YOSHIKI:UNDER THE SKY」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、9月11日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。もう秋ですよ、完璧に。
荒木 9月、もう10日過ぎましたけどね。
このシーズン、9月、10月は夏休みシーズンと冬の映画シーズンに挟まれて、どちらかというと、ど派手目な大作や人気シリーズものがあんまりないんです。反対に小さな作品で、キラッと光るものとか、しんみり心にしみるもの、それから音楽、芸術映画などいっぱいありますので、じっくり作品と向き合うにはとてもいい季節です。
鈴木 この季節好きな映画ファンも、実は結構いますよね。

荒木 結構いますよね。落ち着いて映画観賞できますから。
今日からはそんな作品を意識してチョイスして、紹介していきたいと思います。まずは、公開中なんですけども、「ほつれる」というタイトルの日本映画です。「ほつれる」は、織ったり組んだり束ねたりしたものが,ゆるんでほどけ乱れる。そういう感じのほつれるです。
主人公は綿子。門脇麦さんが演じています。結婚しているのですが、夫との仲は冷え切っています。そんな中、彼女は木村君という、染谷 将太君が演じる男性と恋愛関係になっていきます。二人で旅行に行ったりと、いわゆるダブル不倫の関係ですね。そんなある日、綿子さんの目の前で恋人の木村君が交通事故に遭って、亡くなってしまうんです。
心の支えとなっていた木村君の死を受け入れることができないまま、彼女は秘密の恋人ですから、葬儀にも出席できないんです。いつもと変わらぬ日常を過ごしながら、夫や周りの人々と向き合いながら、揺れ動く心を抱えつつ、恋人との思い出の地をたどるという…
一方、夫はそんな妻に疑惑の目を向けてくるのです。…そんな感じの作品ですけど、出演は門脇さん、染谷くんのほか夫役には田村健太郎さん、友人役で黒木華さんなどが出てきます。門脇麦ちゃんはさすが、安定の演技です。難しい役なんですけども、きっちりこなしているという印象です。注目なのは夫役の田村健太郎さん。ダイちゃん、この名前聞いたことないでしょう?
鈴木 知らないなぁ、たぶん…。
荒木 知らないよね。恥ずかしながら私も知らなかった俳優さんで、演劇畑の人なんですね。顔とか、見てくれというか雰囲気はあのオリラジの藤森君をちょっとクールにした感じなんです。
鈴木 …ああ、ああいう感じか。
荒木 で、この人の演技がすごいんですよ。妻に対する理詰めの問い詰め方とか、婉曲な言い方をしたりとか、非常に気持ち悪いんですね。都会育ちのインテリ男性というタイプで、とにかく慇懃無礼というか、大きい声出したりしないんですけど、遠回しなね…。
鈴木 一番痛いパターンだな、言われると。
荒木 そうそう。静かに、粘着質に、しつこく攻撃してくる感じ。陰険なんです。ほんとにイヤーな底意地のわるーいタイプ。周りにいませんでしたかね?こういうタイプ。
鈴木 2クラスに一人くらい、いますよ。
荒木 会社の時にいたよ、こういうタイプ。もうほんとにイヤだった。
鈴木 あはははは。
荒木 この田村健太郎くん、ほんとに上手いんですよ、そういうところが。
ほんとにこの性格、ほんとにそうなんじゃないかとしか思えないような。さすがですよ!これから注目の俳優ですよね。田村健太郎さん、覚えていいと思います。この人、実は、「劇団た組」というところに所属しているんです。この「た組」というのは、加藤拓也さんという人が主宰をしているんですけど、じつはこの映画の監督なんですよ。
鈴木 なるほど。
荒木 だから、自分のボスの映画に出てるみたいなね。加藤拓也監督は29歳で、この「た組」を立ち上げて、去年、“演劇界の芥川賞”と称される岸田國士戯曲賞、読売演劇大賞の優秀演出家賞など受賞してるんですよ。
鈴木 楽しみですね、将来も。
荒木 そうなんですよ。演劇界の風雲児ですね。既存の価値観をスマートにひっくり返すような作家性と、意外性のある演出が魅力と言われていて、まさに“次世代の”演出家だそうなんですよ。演劇の世界ではもちろん、映画界でも去年、監督デビューして、今回2作目となるんですね。今、最注目の監督です。とにかく緻密に計算された世界感で、不思議な雰囲気、不穏な雰囲気、ある意味のリアリティがすごいです。上手くいってない夫婦のリアリティとかね。ねっとり感みたいのが印象的で、いわゆる派手味はないです。
ケレン味みたいなのは…。
鈴木 でも、湿度高めのじんわり、こう…。
荒木 そうそう!まさに湿度だね。湿度が高めなじんわり感。ミニマルで狭くて深いって感じ。
鈴木 タイトルが、ほどけるじゃなくて、「ほつれる」じゃないですか。
このあたりの湿度がイヤな…ほどけそうでほどけないなぁっていう。
荒木 ある意味、センスありますよね。
鈴木 ありますねー!
荒木 という、生々しいリアルさの会話劇なんですけど、ちょっと不思議で息が詰まりそうなんですけど、面白かったです。いろいろな夫婦があって、夫婦間のズレとか、いろいろな夫婦関係あるんでしょうけど、お互い気を使ってるような夫婦関係ってね、見ててね、しんどいんですよ。私みたいに、かみさんに怒鳴られてばかりいて、ちょっと反論すると倍返しされるようなね…、いつも後悔している方が、この作品みているとうちの夫婦のほうがまだいいのかもと思いました。
鈴木 (笑)そう思うでしょうね。
荒木 あとね、この映画、山梨県が頻繁に出てくるんですよ。
鈴木 えっ!山梨が舞台なの?
荒木 舞台ではないんですけども、亡くなってしまった恋人の実家とそのお墓が、山梨県にあるという設定なんです。具体的には山梨の川浦温泉の旅館だとかですね、甲府のフルーツ公園なんかも、おなじみの風景が映ってきます。
鈴木 えー!木村く~ん!
荒木 そうなんですよ(笑)。わかりやすい作品が多い中で、このような静かで激しい作品、ずーっと緊張が途切れないような作品、貴重なんで。でも長くないんですよ。84分ぐらい。
鈴木 短いなぁ。

荒木 そう! 見やすいですよ。現在公開中の、「ほつれる」というタイトルの日本映画でした。
2本目は、こちらも現在公開中ですが、音楽映画です。『YOSHIKI:UNDER THE SKY』というタイトル。あの元XジャパンのYOSHIKIが世界各国の著名アーティストたちをプロデュースする、世界的プロジェクトを追った音楽ドキュメンタリーなんですけどね。
ご本人が自ら監督を務め、プロジェクトの軌跡と迫力のライブ映像を送ってます。
2020年 コロナ渦で、アーティストが活動できなくなった時期に、YOSHIKIがリモートで色々なミュージシャンとコラボして音楽を届けたんですね。
ここに世界中から多くのアーチストが参加しました。日本からはHYDE、SUGIZO、SixTONESですね。僕はちょっと知らないんで、あとでだいちゃんから教えていただきたいんですが、アメリカからはザ・チェインスモーカーズ、セイント・ビンセント、ニコール・シャージンガー、リンジー・スターリング、中国からはジェーン・チャン、ドイツからはスコーピオンズ、イギリスからはサラ・ブライトマンです。YOSHIKI自身がアレンジした楽曲で、それぞれ彼とのコラボレーション・パフォーマンスを繰り広げてるわけなんです。僕…、リンジー・スターリングはね、ユーチューバーとしても有名なんで。
鈴木 バイオリニスとのね、カリフォルニアの方ね。
荒木 そうそう。フォーエヴァ―・ラブを聴きましたが、
これはすごい印象に残りました。SixTONESも2年前なので若い印象がありましたけど。他のアーティストは、どういう方なんですかね?
鈴木 ザ・チェインスモーカーズは、基本的にEDMっていうか、エレクトリックダンスバンドというか、ユニット2人組なんですけど、アメリカの若い男性2人で。EDMの中でも、ポップなイメージを持つ、歌ものが非常にメインな方々ですね。人気は、前メチャクチャあって、今は落ち着いていますけど、出せばそこそこセールス必ずあげてくるって感じの方ですね。
荒木 なるほどー。
鈴木 僕ね、注目してびっくりしたのが、セイント・ビンセントが参加していること。セイント・ビンセントは結構好きなアーティストで。ジャンルでいうとインディになるんですけど、シンガーソングライターで女性なんですけども、2006年のデビューだったかな…、グラミー賞でも、ベストオルタナティヴ・アルバムを2回受賞してるくらい、実はかなり裏の大物で、富士ロックにも出演済という。セイント・ビンセントは、ロック好きな方は結構注目してるアーティストの一人です。
荒木 そうですか。
鈴木 あとはニコール・シャージンガーですか…。たしか、ハワイのホノルル出身の女性で、プッシーキャットロールズっていう女性グループのリードシンガー、メインで一番目立ってた方で、2017年かなんかに映画の「ダーティダンシィング」のリメークがあったんですよ。そこにも出演しているって感じ。綺麗目な感じの。
荒木 綺麗ですよね。どちらにしろ、超実力派のコラボレーションで素晴らしいんで。彼が世界各地に行ってセッションするのではなく、ほぼリモートで繋げてるんですね。
鈴木 オファーもYOSHIKIがしたんですかね?
荒木 と思うんですけどね。全体の構成もシンプルで、編曲も全て彼がやってるそうで、インタビューを交えながらやっているんですが。ま、簡単にいうと、曲を順番に並べていくという形なんですけど、むしろそこで逆に音楽に集中できていいかなという感じですね。
そういえばYOSHIKIさん、日本人として初めて、ハリウッドの「TCL チャイニーズ・シアター」に手形、足形が刻印されますね。
鈴木 凄いですよね!
荒木 凄いですよね!大きく報道されないけど、100年の歴史があるんですね、この手形、足形。始めての日本人の選出なんですね。
鈴木 だって、人気あったビリー・アイドルってロックシンガーいるじゃないですか。 あのビリー・アイドルでさえ、2年くらい前にやっと手形をしたくらいですから。
荒木 あ!そうですか。
鈴木 だからYOSHIKIさんって凄いですよ!
荒木 凄いよね!アーティストとしてはアジア人でも初めてって話なんで。この『YOSHIKI:UNDER THE SKY』は日本はもちろん、世界の、アメリカ・ロサンゼルスでも劇場公開されるそうなんですけども。新曲の話もあるようなんですが。音楽好きな方、特にX JAPAN好きな方…。
鈴木 チェックですね、これは。
荒木 チェックだと思います。『YOSHIKI:UNDER THE SKY』ご紹介しました。
鈴木 荒木さん、我々の番組の関係は、ほつれないようにお願いします。
荒木 ほつれる、もつれる。絡みたいね。あはははは。
鈴木 もつやき食うくらいにしたいですね(笑)。ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。