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映 画
「余命10年」と「愛なのに」のとっておき情報
(2022年2月26日10:45)
映画評論家・荒木久文氏が、「余命10年」と「愛なのに」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、2月28日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー NEO」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いしまーす。
荒木 3月4日公開、「余命10年」。
はい、いわゆる「難病、余命モノ、涙ぽろぽろ」系です。
鈴木 予告というか、トレーラーをずいぶん見ていますよ、僕も。
荒木 これは小坂流加さんという方が書いた「余命10年」というタイトルの
小説を小松菜奈と坂口健太郎の主演で映画化したものです。
ストーリーから・・・数万人に1人という難病にかかり、あと生きられるのは10年でしょうと、いわゆる「余命10年」を宣告された20歳の茉莉(まつり)さん。もちろん小松奈々さんですが・・彼女は、生きることに執着しないように生活をしています。そして、恋だけはしないことを心に強く決めて生きていました。ところがある日、中学校ですかね・・地元の同窓会で和人君(坂口健太郎君)と再会します。この時 和人くんは生きることに迷い、自分の居場所を見失っていたんですね。そして二人は惹かれあい、少しずつ距離が近づいていき、恋に落ちますが、これによって彼女の最後の10年の人生は大きく変わっていくことになり、ふたりに残された時間も迫っていた…という作品です。
鈴木 なるほどねー。
荒木 原作の小坂瑠香さんという静岡県三島市出身の女性。子どもの頃から小説を書くのが好きだったらしいです。肺動脈性肺高血圧症という原因不明の、100万人にひとりの難病です。大学卒業後、この病気を発症しながらも執筆活動を続け、『余命10年』を文芸社に自費出版として持ち込んだところ書籍化が決定し念願の小説家デビューを果たしているんですね。
いくつかのティーンズ小説で賞を受賞していますが、彼女はこの本の文庫版の編集が終わった直後に病状が悪化し、2017年2月に38歳という若さで亡くなっています。もちろん映画の存在も知らないんですが…。
主演のふたりについてはもうプロフィールをご紹介するまでもないのですが、
監督は、一昨年でしたか 「新聞記者」という映画で多くの賞を獲得して注目されています、藤井道人監督です。この人とてもきれいな絵というか、画面を撮るのが特徴なのですが、今回もとにかく風景が美しいです。
春の桜や夏の花火、秋の紅葉、冬の夕日のシーンなど監督が一年かけて撮ったという四季折々の凝った映像には魅せられますよ。
鈴木 よけい、切ないじゃないですか?
荒木 そうですねー、生きるということに執着するようになった主人公の視線、心情をそうした映像に反映させているんでしょうね。
一定の期間で出てくる難病モノですが、2017年の『8年越しの花嫁』に続くものですね。
確かに「難病恋愛映画」と言ってしまえばそれまでなんですが、それだけではなく、今の日々を、我々もどう生きるかなど普遍的なテーマも織り込まれています。
私は試写会で見せていただきましたが、周りも随分泣いていましたね。
私は年齢のせいもあり、主人公本人たちもそうですが、周りの家族に感情移入してしまいますよね。子供に先立たれる親の気持ちを思うと、たまりません。病気の本人も辛いと思うけど、周りの人間だって同じくらい辛いはずですよね。
鈴木 そうですよね。
荒木 また、家族を演じている俳優さんがうまいんですよ。お父さん役の松重豊さん、お母さん役は原日出子さん、お姉ちゃんには黒木華さん。友達役も良かったですよ、山田雄貴君と奈緒さん、ほかにもリリー・フランキーさんとか…。
鈴木 なるほどね。
荒木 この手の作品はだいたいストーリーとか予想はつきますが、わかっていても泣けるわけですよ。 「余命10年」3月4日から公開です。
音楽は「君の名は。」「天気の子」など、新海誠監督のアニメーション映画で音楽を手がけてきた人気ロックバンドの「RADWIMPS」が実写映画で初めて劇伴音楽を担当します。
思いっきり泣きたい方、ハンカチとか言わず、バスタオルでも用意して見に行って下さい。
鈴木 そこまでグッときますか?
荒木 はい。で、次の作品 前の作品とは正反対、真逆。ちょっとずれてて、少し変で、しかもエロチックで、笑えて…という映画です。
鈴木 なんだ、それ?
荒木 「愛なのに」という現在公開中の作品です。
これはちょっと珍しいパターンの作品で、現代恋愛映画の若き巨匠と呼ばれる今泉力哉監督と、エロVシネの伝説・城定秀夫監督のお二人が作品上でコラボするということなんですよ。
これは「L/R15」というタイトルの企画でR15プラス指定の恋愛映画を製作しようというものなんですね。R15プラスですからR18プラスほどではないにしろ、セックス描写も結構あるということなんですね。この作品は、その第1弾で まず今泉力哉さんが脚本を提供して城定秀夫さんが監督した作品なんですね。
城定秀夫監督は、ご存じピンク映画の世界の大物。手掛けた作品は100本以上にのぼり、『快楽交差点』(2016)では第28回ピンク大賞・優秀作品賞を受賞。
“ピンク映画界の鬼才”と言われ、壇蜜さんの『私の奴隷になりなさい』や、濃厚な性愛シーン演出と卓越したストーリーテリングでボーイズ・ラブを描いた「性の劇薬」。
それから、ディレクターの日原さんが評価していましたね、一般映画として監督した「アルプススタンドのはしの方」が評判となり、一気にメジャー監督としても注目を浴びることになりました。
かたや、今泉力哉監督。 現代恋愛映画の巨匠として熱狂的なファンが多いですね。
「愛がなんだ」「街の上で」など一方通行の恋愛模様の描写のラブ・コメディが得意な人。
このいわば正反対とも言えなくもない二人が組むとどんな化学反応が起きるかと
業界でも注目を浴びていた企画です。
鈴木 楽しみですね。
荒木 ストーリーです。古本屋の主人・多田君(瀬戸康史)は、本屋にしょっちゅう来てはいるのですが、話もしたこともない女子高生・岬ちゃん(河合優実)から突然「私と結婚して」とプロポーズされます。
そのころ多田君には一花ちゃん(さとうほなみ)という忘れられない大学時代の知り合いの女性がいました。さとうほなみさん、ご存じですか?
鈴木 はいはい、ゲスの極み乙女のドラマー ほな・いこかさんですよね。
私 とても好きですよ。タイプですよ
荒木 ほっそりして、色っぽい唇してますよね。
彼女一花ちゃんはかっこいいイケメン亮介くん(中島歩)という婚約者がいて、結婚式が迫ってきていたんですが、なんとこの婚約者亮介君がとんだくず野郎で、こともあろうに自分たちの結婚式の担当ウェディングプランナーの美樹ちゃん(こうりゆうか)と浮気三昧しています。という状況。
鈴木 さすがというか、だめでしょう。それ。くずですよね。
荒木 つまり好きのベクトルというか矢印は女子高生からは本屋さん、本屋さんから、大学時代の女性から婚約者。婚約者はウエディングプランナーと秘密で付き合っているという図式ですよ。
5人の俳優さんが出ていますが、ダイちゃん 彼らの写真、みていただいていますか?
揃いも揃って、この5人今年から来年にかけては成長が期待される注目の俳優さんたち。特に女子高校生役の河合優実ちゃんは「由宇子の天秤」と「サマーフィルムにのって」で第64回ブルーリボン賞」新人賞を受賞した注目の若手女優。若い時の原田知世さんに似てますね。
鈴木 あーわかるわかる。
荒木 さてどんな展開になるのでしょうかということですが… 、ストーリーは意外な方向へ二転三転していく。先の読めないラブコメディーということなんですけど…え、こんなことになるのという…。
今泉力哉さんの脚本らしく、どこにでもいそうだけどちょっとズレてる人たちの会話は聞いてるだけで楽しかったです。
演出もエロ描写お手のものの上場監督の演出がさえています。つい笑ってしまうくすくす笑いが ずーっと続いています。エロ笑い状況とかね。
傑作だったのはその代表的なのシーンがくず男の中島さんが、浮気相手のウェディングプランナーのこうりさんと、もう結婚式も近いので行為の後別れようとするシーンです。
今泉さんの書く脚本は、会話劇です。シュールなコントの連続と言っても言い過ぎではありません。基本的にはクスッとした笑いが多く入っていて見ていてリズミカルで楽しいです。エゴだとか自分の欠点をさらけ出して、あっちに行ったりこっちに行ったり、
そんなことを笑ってみていながら時々これは私のことじゃないかと思いますよ。
鈴木 なるほど…。
荒木 このL/R15企画、もう1作は、“R”となる「猫は逃げた」というタイトルです。これは3月18日の公開です。この作品では、反対に今泉が監督、城定さんが脚本を手掛けます。こちらは離婚寸前の夫婦が主人公。二人は別れる時、飼い猫“をどちらが引き取るかで揉めます。
鈴木 ああ、子供じゃなくて猫か…。
荒木 この夫婦にはもう、それぞれの恋人がいるのですが、この4人と1匹の猫とこの4人の男女によって繰り広げられる、異色の恋愛狂騒劇となっています。
こちらも注目ですよ。
この猫ちゃんと離婚寸前の夫だけが、ちらっとさっきの「愛はなんだ」に出ています。
こういう企画おもしろいですね。今泉力哉脚本らしい「好きという気持ち」、城定秀夫らしいエロの化学反応1タス1が3にも4にもなっているんじゃないかと思います。
こういう実験的な企画 どんどんやってほしいと思います。
鈴木 そうですねー。荒木さんどうもありがとうございました。
来週もよろしくお願いいたします。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。